92年度冬学期試験問題と解答と講評

[問題]
1.C-MOS順序回路について,次の設問に答えよ.
1)NAND,D-FFはどのようなトランジスタ回路で実現されるか.
2)NOTの回路の遅延時間はどのようなパラメータで決定されるか.
3)下図の状態遷移図を実現するための順序回路を,デザイン,
保守などのしやすい形で示せ.簡略型の論理回路で示せばよい.
(図は2状態で,→はそれぞれ自分に戻るものと相手に遷移するものの計4本)
4)C-MOSとバイポーラトランジスタを集積回路への応用の観点から,比較せよ.

2.PN接合について以下の設問に答えよ.
1)pn積一定の関係の成立する原理を簡単に述べよ.
またこの関係はPN接合内のいたるところで成立するか.成立しないとしたら,
どの場所でどのような場合に起こるか.ただし,バイアス電圧は0とせよ.
2)バイアス電圧が0のとき,PNの障壁には内部電圧が発生する.
この場合の電位差を求めよ.必要な変数は説明をつけて適宜導入せよ.
3)順方向にバイアス電圧がかかっているとき,pn積は一定になるかどうか.
このときのp,nの分布の空間的変化をグラフで示せ.要所要所の値を書き入れよ.
4)このときの空乏層の厚さを求めよ.
5)3)の図から,接合を流れる電流のバイアス電圧依存性を求めよ.

[解答]
1. 1) NANDはヒット率が高かった.D-FFは不作.CMOS-SWの回路は?
D-FFのNOT記号にダイオード記号を使っていた人が多くびっくり.
もし,私の講義でこのように書いていたのなら,至急ご連絡ください.
2) NOTの遅延時間はCR積.これを計算し,チャネル走行時間に結び付けて
欲しかった.
3) 保守のしやすい形の田圃みたいな形が望ましい.
状態遷移図が読めない人は勉強しておくこと.
4) 集積度,電力損,速度に加え,ディジタル応用とか,Bi-CMOSとか
いってくれれば満点.
2. 1) pHとの類推,あるいは状態密度からの計算が必要.
バイアス0の時は空乏層内も含め全領域でpn積は一定.
2) PとN領域の電子密度の比がexp(-eVb/kT)より求める.
正孔の比からでも同じ結論が得られる.結果の丸暗記が多かった.
3) 平衡状態より過剰にキャリヤが注入されるから,pn積は増える.
空乏層の縁で平衡濃度のexp(eV/kT)倍から,遠方で平衡濃度に漸近する曲線となる.
4) 空乏層中では両キャリヤともほとんど無く(でもpnはかなり存在する),
ドナーイオンとアクセプタイオンだけになる.この一定電荷量を左から積分し,
電界分布を求める.両端では電界が0であることから,条件が一つ求まる.
さらに,これを積分し電位を求める.この電位差と,先の条件を連立させ,
左右のwを求め,これを加えると,電位差と空乏層の全厚さの関係が得られる.
Vの平方根に比例する.NdとNaの入り方が怪しい人が多かったが,これは合格とした.
5) 電子電流は3)の空乏層縁の濃度と平衡濃度の差に比例して流れるから,
exp(eV/kT)-1に比例する.正孔電流も同様で,全電流も同様.

[講評]
 全般に,1だけできる人,2だけできる人が多かった.これから社会へでると
全知識が要求されます.研究でも広い知識と深い知識の両方ある人が
力が強いようです.かたわにならないように.

 本年は次のように大変不作でした.90点満点で
優 65点以上 30名
良 45点以上 51名
可 27点以上 41名
不可     18名

 従来3年前期に行われていた講義を2年後期に下ろしたことも
あるかと思いますが,例年の平均に対し10点近く低く,また,
例年数名以下だった不可がこのように多く,お詫びいたします.
(でも,もう少し勉強して欲しかった.)

こんな原理的な質問なら,原理から考えて答えれるはずです.
丸暗記にたよって答えた人は直ちに習慣をなおしてください.
現場的な仕事でも,研究的な仕事でも,本質を理解せず暗記にたよって仕事をすると
大変なことになります.
普段から,ものごとを簡単な原理から演繹する習慣を養ってください.

このテストで,理解が不足だったとか,面白くなったとか思われた人は,
是非 electron-device の news group で議論してください.
君の為だけでなく,後輩の為にもなりますよ.シケ対よりも効果大かな...

いくつになっても,試験は受ける方はいうまでもなく,する方も厭なものです.
どうせ厭なものなら,存分に利用使用ではありませんか.