電子デバイス基礎試験問題
1994.3.1
1. 半導体のpn積は不純物濃度によらず一定になる.理由を簡単に示せ.

2. 真性半導体のキャリヤ濃度がniであるとき,NdのドナーとNaのアクセプタを不
純物として加えた.このときのpおよびnを求め,NdやNaを変えるとどのように変
化するかを,適切な図により示せ.

3. 次の各用語を説明せよ.
1) 少数キャリヤ  2) 拡散      3) 空乏層     4) 禁制帯

4. n-MOS FETの静特性を求め,図示せよ(下図のような図を示せ).ただし,ゲー
トの長さをL,幅をW,ゲート絶縁膜の誘電率をε,厚さをt,電子の移動度をμ,
閾値電圧をVthとせよ.ピンチオフ電圧以上のドレイン電圧に対しては,ドレイン
電流一定と仮定してよい.

5. c-MOSインバータの入出力の関係を求めよ.ただし,n-MOS(p-MOSも同様)の特
性として,下図のような簡略折れ線特性を仮定せよ.Vdd = 1,Vth,n = 0.2,Vt
h,p = -0.2とせよ.

[解答](各20点)
1. pn積一定の説明:
 電解質中の[H+][OH-]積と同じように,質量作用の法則が成立するから.これが
書かれていれば満点としたが,では何故[H+][OH-]積が成立するのかについては,
理由のわかっていない人が多そうであった.
 これは,右向き->の結合の反応速度が[H+]濃度が高いほど速く,[OH-]濃度が高
いほど速いはずであるから,結果として積に比例すること.逆に左向き<-の乖離
の反応速度が[H2O]の濃度に比例するはずであるが,これは圧倒的に多く,ほぼ,
一定と考えられること.平衡状態では,この二つの反応速度が等しいはずである
ことから導かれた法則である.

2. Na, Ndがあるときのp, nを求めよ:
 レポートに出したので,誰でも解けると思ったが...
 pはniからNaを加えただけ増加し,nはniからNdを加えただけ増加し,p,nの結
合や対発生があってもその差は変わらないことから,まず,p-n=Na-Nd(中性条件
ともいう).これとpn=ni^2とを組み合わせ,連立させる.例えばpを求めると
p-ni^2/p=Na-Nd.この式を横軸Na-Nd,縦軸pとして,書けばよい.(グラフがない
と減点.理工系の人間は恒に具体的イメージを持つように)
 pあるいはNa-Ndが大きいところで両者は比例し,45度の線に漸近するはずなの
であるが,p一定の線に漸近した人が多かった.確かにp≒Na-Ndではあるが,だか
らといって,水平に書くのは錯覚.

3. 用語説明(各5点)
 1) 少数キャリヤ: 不純物半導体中の少ない方のキャリヤ.大量の注入により少数
キャリヤを多数キャリヤよりも多くできる場合もあるが,その場合でもP型では電
子,N型ではホールを指す.
 2) 拡散: 濃度差を減らすように移動が起こること.電界がなくてもこれで移動が
起こる.(プロセスの不純物拡散の同じ意味)
 3) 空乏層: pn接合の付近のように,電子も正孔もほとんどないところ.(平衡状
態では空乏層内でもpn積は一定に保たれる.また,pn接合以外にも空乏層は存在
する)
 4) 禁制帯: 価電子帯と伝導帯の間の電子の存在できないバンド.バンドギャップ
のこと.(習っていないという指摘が多く,そういえば,教えなかったような気が
するので2年生は95点満点とした)

4. MOSFETの特性: C=εWL/t,Q=CVgs.この電荷がVdsに引っ張られて移動する速
度v=μVds/L.通過時間はL/v=L^2/μVds.したがって,電流はI=Q/(L/v)
=εμ(W/tL)VgsVds.ここまでが第一段階.
 第二段階はVgsの近似を上げる.まず,Vthを導入する.次に,drainとsourceを
対等に扱うためにVgsを(Vgs+Vgd)/2に置き換える.つまり,上式のVgsを
(Vgs+Vgd)/2-Vthにする.この式はVgd=Vgs-Vdsを利用し,Vgs-Vth-Vds/2に変更で
きる.したがって,最終的にI=εμ(W/tL)(Vgs-Vth-Vds/2)Vdsが得られる.これ
をIが最大になるまでグラフを書く.最大からは水平に
I=εμ(W/tL)(Vgs-Vth)^2/2の直線を書く.グラフは滑らかな曲線(2次曲線と水
平線)になる.

5. インバータの特性: まず,n-MOSの特性を横軸Vout,縦軸Iのグラフに記入する
と,VdsはVoutであるから,与えられたグラフそのものになる.次に,p-MOSの特
性を同じグラフに記入する.ソースをVdd(=1),ドレインをVoutとすると,Vout
軸のVddの点を原点に,ちょうど与えられたn-MOS特性の左右反対にしたものにな
る.
 p-MOSの閾値はVdd-Vth'(=0.8)であるから,0.8以下のVinでグラフは競り上がっ
てくる.
 二つのFETには同じ電流が流れているから,与えられたVinをそれぞれのゲート
電圧としたときの,これら2本の折れ線特性の交点が動作点となり,その交点の
Voutが求めるVoutとなる.
 Vin<=0.2では,n-MOSはI=0の平らな線であり,p-MOSは電流が流れているから,
唯一の交点はVout=Vdd=1となる.0.20.5とすると,上式よりVout->1-0.3^2/0.6=0
.85となるから,この縦線の上端は0.85である.同様に,
 0.50.5の極限
から下端は0.15となる.0.8<=Vinでは交点は原点に張り付き,Vout=0となる.グ
ラフは,これら5つの領域により構成される.

[講評]
 解答は後に示しますが,「禁制帯」を教え忘れたようなので,2年生は95点満
点としました.昨年は平均点が急減しましたが,その原因は,それまで3年だっ
た講義を2年に移動したための不消化だったようです.そこで本年は講義内容も
問題を著しく易しくした積りでしたが,やはりいまいちの感がします.

             2年 再試
優67点以上  49名  1名
良48点以上  31名  3名
可29点以上  12名  0名
不可        21名  1名

はかばかしくない原因としては,一つは,電子情報学科が新設されて,物理的な
科目の不得意な情報好みの学生が増え,しかも,その人達が論理回路に掛けた山
が外れたようです.しかし,私の印象では,もっと大きな問題として,暗記型の
学生が急速に増えてきたような気がします.理科系の学生はなるべく記憶に頼ら
ず,ものごとを僅かな知識から誘導(演繹)できるように,常日頃から努力すべき
と思います.
 例えば,今度の試験科目でもFETの特性や,NOTの伝達関数を丸暗記している人
が沢山いたのは驚くべきことです.例えば,FETの特性は静電容量の計算ができる
こと,電流の定義がわかっていること,速度が電界に比例することなど基礎的な
事項だけから計算できます.私は,静電容量の計算もどうかすると,ガウスの法
則から計算します.ガウスの法則はクーロンの法則から導けます.そんなわけで,
電磁気学はすべてクーロンの法則とビオサバールの法則とファラデーの法則と変
位電流の4つの法則から導けるようにしています.εoもcとμoから計算するよう
にしています.つまり,なるべく少ない知識と,それからの誘導の仕方だけを覚
えるようにしているわけです.諸君も努力してみてください.