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: 損益計算書と貸借対照表 : フロー試算表 : 当期のフローを知ろう   目次   索引

名目勘定と実在勘定のフローを分ける

複式簿記の最大の目的は財産の管理である。 先に第1.3節で、 名目勘定を見張っていれば財産の増減が監視できると記述したが、 このことから、フロー試算表を名目勘定科目と実在勘定科目に分けることは 多いに意味があることが予想される。 名目勘定部分を名目フロー試算表(trial balance of nominal flow)、 実在勘定部分を実在フロー試算表(trial balance of real flow)と呼ぶ。 また、これら二つを合成すると当期のフローのすべてが再現できることから、 完備(complete)していると言える。

フロー試算表 → !名目フロー試算表 + 実在フロー試算表

2.6から分るように、それぞれの表だけでは、 明らかに平衡がとれなくなっている。 名目勘定分の不平衡分はどこから発生するのであろうか。 仕訳帳の節でも述べたように、純粋な儲があると、名目勘定だけで見た場合、 !収益が発生する。 また純粋な損があると、!費用が発生する。 したがって、当期の仕訳全体で、!収益と !費用が一致しないと、 不平衡が発生する。 一般に、ある一連の取引で $!収益-!費用$ の差が存在した場合、 その値が正のとき利益(profit, gain)があったといい、 負のとき損失(loss)があったという。 これらが平衡を崩すのである。

なお、費用が収益を上回った場合には、損失(loss)があったということで、 当期損失(current loss)により処理する。

利益=総収益 - 総費用
損失=総費用 - 総収益

期末の段階にこの差がような存在すると、当期に利益や損失があったので、 特に、当期利益(current profit, current income)当期損失(current loss)という。 健全なる事業をしている場合には、この例に見られるように、 当期利益が発生する。 我々の例では、当期利益が上がっており、次式のように計算できる。


$\displaystyle !当期利益$ $\textstyle =$ $\displaystyle !収益 - !費用$  
$\displaystyle 236$ $\textstyle =$ $\displaystyle 2720 - 2484$ (2.1)

フロー試算表の名目勘定分だけを抜き出し、 かつ収益と費用をまとめて統合し、書換えてみよう。 収益の方が勝っているので、当然、右貸方に置くべきであろう。 これに「!当期利益」という科目名をつけよう。 こうした項を統合項(integral)という。 これだけでは平衡がとれないので、 表2.7のように左借方に同額の対項を置いて平衡をとる。 「!当期利益」の関連科目なので「!*当期利益」としよう。 すると、左右の平衡した次表が得られる。 「!当期利益」に対する「!*当期利益」のように、 元の項と同じ名前と値を持ち、反対側に入る項はたびたび出現してくるので、 本書では、対項(coupled term) と呼ぼう。 対項の対項はいうまでもなく元項である。

図 2.7: 収益と損失を統合した名目フロー試算表
\begin{figure}\begin{center}
\begin{tabular}{rlr\vert lrr}
\hline
\hline
&\m...
...利益(収益-費用)&236\\
\hline
\hline
\end{tabular}
\end{center}\end{figure}

本書では、複式簿記における残高を特に平衡残高(balance)と呼び、 「*」の記号をつけ、 単式簿記の残高(remainder)と区別することとする。 ここで改めて、統合項「!当期利益」を再び元の !収益や !費用の各項に分解すると、 名目勘定だけのフロー試算表2.8が得らえる。

図 2.8: 名目フロー試算表
\begin{figure}\begin{center}
\begin{tabular}{rlr\vert lrr}
\hline
\hline
&\m...
...利益 &236 & & &2720\\
\hline
\hline
\end{tabular}
\end{center}\end{figure}

一見説明が長くなったが、要するに、複式簿記では、 どんな表も左右の平衡のとれた形で記載することになっているので、 名目フロー試算表においては、 一見反対側に見える左借方に「!*当期利益」なる項を置いて、 平衡がとるのである。

単式簿記ならば、!収益と !損失の項が終ったところでいったん仕切って、 右貸方に「!当期利益」と記載するのであろうが、 複式簿記における残高は、同じ仕切り内の左借方に書いて、 かつ全体の平衡をとるようにするのである。 くどいようであるが、気をつけなければならないのは、 利益が上がっているのに、!*当期利益 の項は、 収益側ではなく費用側に置くことである。

なお、費用が勝っているときには、 やはり同じ位置の左借方に「!*当期損失」として、 負数を入れることになっている。

メモ: 残高と平衡残高

日本語では「残高」に対しても「平衡残高」に対しても、 共に「残高」という同じ言葉を用いるが、 英語では二つの異なる単語を対応させている。 「残高」の「remainder」は当期のすべてを合計した表2.7 右貸方の「!当期利益」に対応するものである。 これに対し、平衡残高は「balance」と言ってハッキリ区別をしている。 もともと、balance は平衡残高と訳すべきでなかったのかと思っている。

次に実在勘定のフロー試算表を求めよう。 実在フロー試算表の方も平衡がとれなくなる。 表2.6からわかるように、実在フロー試算表では、 資産フローの方が大きくなる。 分離前のフロー試算表は平衡がとれていたので、右貸方に「!*当期利益」と 同額の「*当期利益」を置けば、平衡がとれるはずである。 平衡がとれなければ、どこかの計算が間違っていることになる。 「*」をつけたのは、 資産-負債のフローである当期残高の対項であるからである。

*当期利益 ← !*当期利益

正の財産である資産と負の財産である負債の差、 資産-負債のことは一般に純資産(net assets)と呼ばれるので次の式が成立する。

資産フロー = 負債フロー + 純資産フロー(含 *当期利益)

こうして実在フロー試算表2.9が得られる。

図 2.9: 実在フロー試算表
\begin{figure}\begin{center}
\begin{tabular}{rlr\vert lrr}
\hline
\hline
&\m...
...当期利益)&(236)&436\\
\hline
\hline
\end{tabular} \end{center}
\end{figure}

以上の立場から言えば、名目フロー試算表と実在フロー試算表とで、 独立に平衡残高を求め、これらの一致しなければ、 計算のどこかが間違っていることになる。 本書では、名目フロー試算表より平衡残高を求め、 同じ値を実在フロー試算表へ入れて、平衡を確認するという方法で検算を行う。

メモ: 当期利益の仕訳

形式的な議論であるが、以上の手続きは、 仕訳帳の最後に次のような互いに対項となる仕訳を付け加えてから、 実在勘定と名目勘定を分離することと一致する。

\begin{figure}\begin{center}
\begin{tabular}{rlr\vert lrr}
\cline{2-5}
&!*当期利益 &236 &*当期利益 &236 \\
\cline{2-5}
\end{tabular} \end{center}\end{figure}

統合項は現実の表では現わには見えないが、 これは見えるもの同士の対の関係である。 このように見えるもの同士は、別の表に分けて利用することが多い。

このような立場で表2.6を分離する過程を、 表2.10に示す。

図 2.10: 名目フロー試算表と実在フロー試算表の分離
\begin{figure}\begin{center}
\begin{small}
\begin{picture}(12500,2920)(0,-2920...
...3400,-3170){負債フロー 200}
\end{picture} \end{small}
\end{center}\end{figure}

計算が正しければ、この実在フロー試算表の左右は平衡するはずである。


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Yoichi OKABE 平成20年5月17日