現金出納簿(cashbook)では、現金だけが管理対象の財産となっている。 しかし預金や販売価値のある備品、土地建物など、 すべての財産(property)を管理したいとすると、これらの財産の現金価値を得て、 それらをすべてを統一的に取り扱う必要がある。 簿記(bookkeeping)の世界では、これらの財産のことを資産(assets)という。
借金があると、その分、財産は少いはずなので、 負の資産として同様に扱う必要がある。 負の資産のことを負債(liability)と呼ぶ。 なお借金のことを会計の世界では借入金(debt)という。
何を資産と考えるかには、ある程度、主観が入り込むが、 現在の会計(accounting)の世界では、 現金換算できるものは可能な限り取り込む方向である。 現在まだ取り込まれていないものは、 人的資産や情報資産といった価値の定めづらいものだけであろう。
現在の資産から負の資産である負債を引いたものが、純財産であるが、
これを純資産(net assets)という。
例えば、ある会計年度の始まりの時点、
期首(beginning of period, initial(adj.))における財産が、現金 10,000 と借入金 5,000 であったとしよう。
純資産は
である。
この記載の仕方を残高式(remainder style)という。 これでもよいのであるが、複式簿記(double-entry bookkeeping)では次のように記載する。
勘定式(account style)と呼ばれるこの方式では、正の資産は左の欄に、 負の資産である負債は右の欄に書く。 左の欄を借方(debit)、右の欄を貸方(credit)と呼ぶ。 借入金を記載するのが貸方であるのは納得できないかも知れないが、 そのまま覚えて欲しい。 本書ではなるべく左と借方を組にして左借方、右と貸方を組にして 右貸方のように記載する。
さらに、残高である純資産を負債側に置くのである。 こうすると左右の欄の合計がそれぞれ等しくなるのである。 この左右の合計が常に等しくなることを平衡の原理(principle of balance)と呼ぶ。 この平衡の原理が、あらゆるところで成立するよう記帳するのが、 複式簿記の最大の特長なのである。 一言で言えば、従来の残高式は計算の過程を示すことに重心があり、 本書で説明する勘定式は数値の正当性を示すことに重心があると言えよう。
このように、平衡のために入れる項を平衡残高(balance)と呼び、 「*」の記号を付しておく。
ここに示した表が、現金出納帳で言えば、前期繰越金に対応するのである。 この表を貸借対照表(balance sheet, B/S)と呼び、 一般に、ある時点での資産と負債の構成を勘定式に示したものである。 特に期首の貸借対照表を、期首貸借対照表(initial balance sheet, initial B/S)という。
メモ: 借方と貸方の用語の問題
借入金の増加なのに、 「貸方」に増加を記載することに違和感を感じたのではないだろうか。 逆に他人に財産を貸していると、左の「借方」に記載するのである。 これが、私の複式簿記への理解を阻害した要因の一つであった。 歴史を紐解くと、複式簿記の原形を作ったイタリアの商人が、客からの立場で 命名したもののようである。 つまり、貸方(credit)と借方(debit)の用語は、現在の概念とは 逆になっているのである。 それにしても、現在も昔の定義をそのまま使っているとは、 迷惑なことである。