平衡の原理が恒に成立するとよいのだが、崩れる場合もある。 例えば、500 円のお金を拾ってネコ婆したとしよう。 現金という財産が増えるだけで何も減る財産がない。 当然、平衡の原則が崩れることになる。 複式簿記ではこのような場合にも断固、平衡を保つように努力をし、 表1.4のように、名目勘定(nominal accounts)と呼ばれる実財産の 不平衡を消すための科目を導入する。 これが第二の大発明である。
本書では見易いように、名目勘定科目の頭には、「!」 の記号を付した。 実際の会計書類には付いていないが、正確な理解に役立のみならず、 計算機処理を考えた場合にも名目勘定を機械的に分類でき、極めて便利である。 また、一旦概念が分ってしまうと、この記号がなくても、直ちに 理解できるようになるので、心配しないで読み進んで欲しい。
名目勘定という言葉に対して、実財産である現金、預金、借入金、 資本金といった勘定を実在勘定(real accounts)と言う。
| 実在勘定増加による不平衡発生は右貸方の !名目勘定で平衡をとる |
| 財産の増加 !収益の発生 |
逆の場合もある。備品の一部が使いものにならなくなって、捨てたとしよう。 この際も備品という財産が減っただけで、平衡する他の財産増は何もない。 このような場合には表1.5のように記載する。
一般に財産増加に対応する名目勘定科目を収益(income,revenue)と呼ぶ。 また、財産減少に対応する名目勘定科目を費用(expenses,costs)と言う。 現金を落としても費用と言うのは若干常識的な言葉遣いとは異なるが、これも 簿記世界の専門用語であると割切って欲しい。
なお、現金出納帳では収入が左欄、支出が右欄だったのに、複式簿記では !収益が右欄、!費用が左欄と逆なので、注意して欲しい。
| 実在勘定減少による不平衡発生は左借方の !名目勘定で平衡をとる |
| !費用の発生 財産の減少 |
これら名目勘定の導入によって、いかなる場合にも、厳密に平衡が 成立することになる。 実在勘定と名目勘定の組が記帳される場合には、財産全体の純増や純減が 発生する。 現金出納帳の収入、支出を見張っていれば現金の増減の要因がわかるのと 同じように、名目勘定を見張っていれば、財産全体の増減が監視できることが 分ろう。
土地、家、家具、自動車などはいかにも財産であるが、鉛筆や消し ゴムなどはどう扱ったらよいだろう。 例えば、鉛筆を買った時、それが消耗品としての購入であると、!費用として 左借方に名目勘定を置く。 しかし、それが自分の扱っている商品としての仕入であると、仮に同じ 品物でも、財産として左借方に実在勘定を置く。このようすを 表1.6に示す。
この差は何なんだろうか。商品として仕入した場合には、販売したときに別の 価格になりうる。 その際、その差が大事になる。つまり、商品には継続性があるのである。 一方、消耗品として購入した場合には、再度その価格を議論することはない。 つまり、消耗品は一過性なのである。 消耗品と備品を価格で議論することがあるが、厳密には一過性なのか 継続性があるのかで議論すべきである。 継続性があると後に述べるストックとしての財産性が生じるのである。