現在の論理回路はほとんど FET でできている。 第1章でFETを一つ使ったインバータ (NOTゲート) を紹介したが、 これを改めて図4.2に示す。 厳密には n-MOS インバータと呼ばれる。 その理由は、図4.3に見られるような n-MOS と呼ばれる FET を 使っているからである。 MOSとは金属-酸化物-半導体 (metal-oxide-semiconductor) の英語略で、FET の構造を指している。
ゲートに電圧をかけると、ドレイン-ソース間のコンダクタンスが 増加するのは、酸化物を挟んだゲート電極の反対の半導体側に、チャネルと 呼ばれる電子層が形成されるからである。 n-MOS の n は電子の持つ負電荷の負 (negative) を指す。 n-MOS インバータの特徴は、1 入力になるにしたがって電力損失は増えるが、0 入力に対しては電力損失がないことである。
図4.4のようにチャネルが正電荷の正孔で構成される FET は p-MOS FET と呼ばれ、ゲート電圧を上げると、逆にコンダクタンスが 低下するようになる。 この p-MOS FET を用いても、インバータを作ることができる。 p-MOS FET は正電荷を使っているので、ドレインはソースよりも電圧を 低くしておく必要がある。 このため電圧関係は、すべて正負が逆になる。 電圧の高い方を上に描くことにすると、p-MOS インバータの回路は 図4.5のようになる。 p-MOS インバータの特徴は、n-MOS インバータと逆に、0 入力に近くなると 電力損失が増えるが、1 入力に対しては電力損失のないことである。 なお、この回路で抵抗と FET を上下逆に配置することは、前章で述べた ソース接地回路になるため、増幅率が 1 になりうまくない。
現在、ほとんどのデジタル回路にはc-MOS論理回路が使われている。 その基本となるのが、c-MOSインバータである。 c-MOSインバータは図4.6のように、n-MOS インバータと p-MOS インバータを合併させたような形となっている。 n-MOS インバータの抵抗の部分を p-MOS に替えたとも見えるし、逆に p-MOS インバータを変形したようにも見える。 実は n-MOS と p-MOS FET が相互に補てん的に動作するので、相補型 MOS という意味で c-MOS (complimentary MOS) という名前が付いている。
このインバータの動作を調べてみよう。
入力電圧を固定すると n-MOS FET の特性も p-MOS FET の特性もそれぞれ一本の
曲線で与えられる。
それらを、図4.7のように一つの図にまとめてみる。
この際、横軸は出力電位
、縦軸は各 FET のドレイン電流とする。
まず、n-MOS FET に流れる電流を求めると、横軸はそのまま n-MOS FET の
であるから、n-MOS FET の特性をそのまま写せばよい。
一方、p-MOS FET に流れる電流を求めると、p-MOS FET にかかる
は
となるから、p-MOS FET の特性を
を原点として
左右逆に写せばよいことがわかる。
さて、回路からわかるように、出力端子から電流をとらない場合は、両者には
共通の
が流れるから、両曲線の交点がこの回路の動作点となる。
交点の横軸座標が出力電位、縦軸座標が両 FET を通し、縦に流れる
電流である。
入力電位を変えていくと、両方の FET の特性とも変化していくので、交点は
複雑に移動していく。
そのようすを図4.8に示す。
まず、入力電位が n-MOS FET の
より低いときは、(a)のように、
n-MOS FET の特性が横軸に張りつき、交点は
で動かない。
をこれより上げていくと、(b)のように、交点は動き始める。
入力電圧が、およそ
ぐらいのところで、(c)のように両特性の
水平な部分が重なる。
このとき交点は(c)の右の交点から左の交点へ一瞬に移動する。
さらに入力電圧をあげると、(d)のように、交点は図の原点付近で移動を行う。
をさらに上げて、
を越えると、今度は p-MOS
FET が遮断状態となり、横軸に張りつく特性となる。
したがって、交点は
になり、そこで動かなくなる。
この間の交点の横軸座標、つまり出力電位の変化を図4.9に、
また、縦軸座標、つまり両FETに流れる共通電流の変化を
図4.10に示す。
図4.9を見ると、n-MOS インバータや p-MOS インバータの
特性と比較し、インバータ閾値付近で、無限大に近いきわめて高い増幅率を
持っていることがわかる。
また、入力がインバータ閾値からわずかにずれるだけで、出力電位はきちんと
または 0 になることがわかる。
さらに、電流特性は
倍することで、この回路の消費電力となるが、
出力電位が 0 付近でも
付近でも、消費電力 0 となり、きわめて
低消費電力であることが見える。
このように、c-MO Sインバータは理想的な特性を有していることが
理解できよう。