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n-MOS FETの静特性

アナログ回路でもデジタル回路でも、電子回路の基本は三端子素子である FET やトランジスタを利用した増幅器である。 FETは電界効果トランジスタ (field effect transistor) の英語の略称である。 また、トランジスタは双極性トランジスタ (bipolar transistor) の略称であり、いずれも制御電極に電圧をかけることにより、主たる電極間の 電圧-電流の関係を制御することができる。

Figure 2.1: n-MOS FETの構造
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まず FET の特性を考えよう。 図 2.1 に示すように、FET の主たる二電極はドレイン (drain) とソース (source) である。 また、制御電極はゲート (gate) と呼ばれる。 FET の主たる二電極間の領域には絶縁体を挟んでゲートが存在するが、ゲートに 正の電圧をかけると、ソース電極やドレイン電極の接続された半導体部分に 沢山入っている電子が、ゲートの直下に引き出され、両電極間を電気的に 接続する。 こうした電子の接続部分をチャネルという。 ゲートにもっと電圧をかけると、より多量の電子が誘起され、両電極間はより 強く接続される。 逆にゲートに負の電圧をかけると、電子はソースやドレインに引っ込んで、 チャネルは消失してしまい、両電極間の接続が切れる。

このように負 (negative) のキャリヤである電子を利用して、両電極間の断接を 行うタイプの FET を、n-MOS FET という。 MOS とはここに示した FET の構造を示す。 つまり、ゲートの金属 (metal)、絶縁体の酸化物 (oxide)、チャネルの 形成される部分の半導体 (semiconductor) の頭文字を採ったものである。

FET には正 (positive) のキャリヤである正孔を利用した p-MOS FET もある。 p-MOS FET では、ソース電極やドレイン電極の接続された半導体部分には正孔が 沢山入っている。 したがって、ゲートに負の電圧をかけると、正孔のチャネルが形成され、 ゲートを負にすればするほど両電極間は電気的に強く結合する。 また、ゲートを正にしていくと正孔チャネルは消失する。

n-MOS FET の電気特性を、もう少し正確に調べてみよう。 ゲートに正方向の電圧をかけていくと、電子が誘起されてチャネルが 形成されるが、チャネル中に誘起される電子の総電荷量は、ゲートの 静電容量を $ C_g$ とすると、

$\displaystyle Q=-C_gV_{gc}=-\frac{\varepsilon LW}{t}V_{gc}$ (2.1)

で与えられる。 $ L$ はチャネル長、$ W$ はチャネル幅、$ t$ は絶縁膜の厚さである。 また、$ V_{gc}$ はゲートとチャネル間の電圧差である。

実際の素子では、ゲート絶縁膜の中や絶縁膜と半導体界面や半導体中に固定電荷 $ Q_f$ があり、ゲートの電荷とこれらとチャネル電子の合計が対向して 静電容量を形成するため、

$\displaystyle Q+Q_f=-\frac{\varepsilon LW}tV_{gc}$ (2.2)

が成立する。 さらに $ Q_f$ を電圧に換算すると、

$\displaystyle Q=-\frac{\varepsilon LW}t(V_{gc}-V_{th})$ (2.3)

と表現できる。 $ V_{th}$ のことは閾値電圧と呼ばれる。

ドレインにソースより僅かに高い電圧 $ V_{ds}$ をかけて、チャネル電子を ドレイン側に引き出して見よう。 電子は負電荷であるから、こうするとドレインからソース側に電流が流れる 事になる。 この電流をドレイン電流と呼ぶ。 ドレイン側からソース側にかけて電界が発生するが、電子はこの電界に引かれて ドレイン側にある速度で移動していく。 ミクロに見ると電子は最初は加速されるが、やがて半導体から摩擦を 受けるようになり、一定の終端速度で運動するようになる。 この終端速度はほぼ電界に比例するので、

$\displaystyle v=-\mu E$ (2.4)

と表すことができる。 比例定数は移動度 $ \mu$ と呼ばれる。 電界は $ L$ をチャネル長として

$\displaystyle E=-\frac{V_{ds}}L$ (2.5)

となるから、電子の速度を求めることが可能となる。 さて、速度が与えられると電子がソースからドレインまで抜ける時間が 計算できる。

$\displaystyle t=\frac Lv$ (2.6)

$ Q$ の負電荷がこれだけの時間でソース側に現れるので、ドレイン電流は

$\displaystyle I_d=-\frac Qt=C_g(V_{gc}-V_{th})\frac vL =\frac{\mu\varepsilon W}{Lt}(V_{gc}-V_{th})V_{ds}$ (2.7)

となる。

さて、問題は $ V_{gc}$ である。 と言うのはドレインとソース間に電圧をかけているので、チャネル内の電位は 一定ではないからである。 一つの近似としてソースとドレインの平均電圧を考え、それを基準にした ゲート電位と理解して見よう。 すると $ V_{gc}=(V_{gs}+V_{gd})/2=V_{gs}-V_{ds}/2$ となるから、

$\displaystyle I_d=\frac{\mu\varepsilon W}{Lt} \left(V_{gs}-V_{th}-\frac{V_{ds}}2\right)V_{ds}$ (2.8)

が得られる。

この関係は $ V_{gs}-V_{th}\ge 0$ でかつ $ V_{gd}-V_{th}\ge 0$ の 条件で成立する。 この二つの条件を満たす動作領域を抵抗領域と呼ぶ。 この領域の特性は $ I_d$$ V_{ds}$ の二次式で与えられることを 示しているが、上記条件を考えると図2.2に示すように、 放物線となる。 後の条件は $ V_{ds}\le V_{gs}-V_{th})$ と変形できるので、抵抗領域は 原点から放物線の最大点までとなる。

Figure 2.2: n-MOSの静特性
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この図にはドレイン-ソース電極間の電圧-電流特性を示してある。 つまり、ゲート電圧 $ V_{gs}$ を固定して、ドレイン電圧 $ V_{ds}$ を変えていったときのドレイン電流 $ I_d$ の変化を一本の曲線で示している。 $ V_{gs}$ を別の電圧に固定すると、別の $ I_d$$ V_{ds}$ の関係を 示す曲線、$ I_d$-$ V_{ds}$ 特性が得られる。 $ I_d$-$ V_{ds}$ 特性といった場合の'-'は、引き算ではなく $ I_d$$ V_{ds}$ の意味なので注意。 曲線群をまとめて n-MOS FET の静特性という。 通常、n-MOS FET は $ V_{ds}$ を正にして使うことが多いので、 その部分だけを示してある。

前の条件の成立しない場合を考えると、 $ V_{ds}\ge 0$ の条件から、 後の条件も当然成立しなくなる。 つまり、チャネル全体にわたって、ゲート電圧が電子を誘起できる程度に 高くないことを示している。 したがって、電流はまったく流れない。 こうした領域は遮断領域と呼ばれる。 つまり、図でいうと、 $ V_{gs}\le V_{th}$ であると、電流は流れず、$ x$ 軸上に張りついてしまう。

前の条件は成立するが、後の条件が成立しない場合を考える。 この場合、ソース側ではチャネルが形成されるが、ドレイン側はチャネルを 形成しないかに見える。 しかし、ドレイン電圧はキャリヤをソースから引き出すために高くされ、その 結果高くなりすぎて、 $ V_{gd}-V_{th}$ が負になったものであり、実際には 電流は流れる。 ドレイン電圧を上げたことにより、チャネルが形成しづらくなる効果と ドレインが強い力で電子を引っ張ることにより、ドレイン付近のチャネルでは、 僅かな電荷が高速で流れることになる。 このような言わば首を締めるような効果は、流体力学などでもよく見られる ピンチオフというもので、電流はほぼ一定に保たれ、この領域の動作は 飽和領域と呼ばれる。

飽和領域では、ドレイン電圧が十分高いため、ドレイン付近のチャネルは ゲートの影響よりもドレインの影響が大きくなる。 このため、先に述べた静電容量による簡単な解析は有効ではなくなる。 しかし、ソース付近では静電容量近似が効くため、電流はソース付近で 決定され、その結果は、ほぼ一定電流になることが示される。

以上をまとめると、

$\displaystyle A=\frac{\mu\varepsilon W}{Lt}$ (2.9)

として、
$\displaystyle {I_d=A\left(V_{gs}-V_{th}-\frac{V_{ds}}2\right)V_{ds}}$   抵抗領域: $\displaystyle 0\le V_{gs}-V_{th}\le V_{ds}$
$\displaystyle {I_d=0}$   遮断領域: $\displaystyle 0\ge V_{gs}-V_{th}$
$\displaystyle {I_d=\frac A2(V_{gs}-V_{th})^2}$   飽和領域: $\displaystyle V_{ds}\ge V_{gs}-V_{th}$

のようになる。


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Yoichi OKABE 2008-02-17