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連続空間と行列の関係

連続空間上の線形微分方程式と行列とは深い関係がある。それは、両者共、固有 値問題が存在することからも容易に想像されよう。

連続空間として、簡単のために、 $-L/2\le x\le L/2$ の一次元の有限長区間を 考えよう。これを $\Delta x$ ごとの $N$ 個の区間に区分する。$N=L/\Delta
x$ であるとともに、 $N\rightarrow\infty$ によって、連続空間にすることがで きる。これにより、左端の番号を $N_{min}$、右端を $N_{max}$ としよう。 $N_{max}-N_{min}=N-1$ である。

$N$ が奇数のときは、例えば左右対称に、 $N_{min}=-(N-1)/2$ $N_{max}=(N-1)/2$ とする。第 $i$ 番目の区間の中心の座標は $i\Delta x$ と なる。また、$N$ が偶数の場合には、全区間を半分ずらして設定し、 $N_{min}=-N/2+1$$N_{max}=N/2$ とすることにより、番号 $i$ を整数とする ことができる。もちろん、これ以外の定義も可である。

この空間上で、関数 $f(x)$ が定義されているものとする。上記各区間の中心点 $x_i=\Delta x\,i$ でのこの関数の値 $f(\Delta x\,i)$$N$ 個の要素とす るベクトルを定義してみよう。このベクトルを $\left\vert f\right\rangle $ と表わす。

また、この空間で、$i$ 番の一区間のみ値が 1 で、それ以外では 0 となる関 数に対応するベクトルは、いわゆる単位ベクトルであるが、これを $\left\vert i\right\rangle $ と表わそう。 $\ave{\left.i\right\vert f}$ が各中心点における関数の値である。

次に、この連続空間での線形微分方程式を考えてみよう。$d/dx$ は微分のそも そもの定義を利用して、

\begin{displaymath}
\frac{df(x_i)}{dx}\rightarrow\left\langle i\right\vert\wide...
...{\left.i+1\right\vert f}-\ave{\left.i\right\vert f}}{\Delta x}
\end{displaymath} (30)

ここで、$\widehat{D}$ とは、一階微分に対応する行列を意味する。

あるいは、これを一つ左にずらして計算したもの、あるいはこれらの平均である

\begin{displaymath}
\frac{df(x_i)}{dx}\rightarrow\left\langle i\right\vert\wide...
...eft.i+1\right\vert f}-\ave{\left.i-1\right\vert f}}{2\Delta x}
\end{displaymath} (31)

と考えればよい。いずれの定義でも $\Delta x\rightarrow0$ では $d/dx$ に一 致する。

これらはいずれも行列で表現できる。例えば、この最後の定義を採用すると、 $d/dx$ は次のような行列で表現できる。これは、 $\left\langle i\right\vert\widehat{D}\left\vert f\right\rangle =\sum_j\left\langle i\right\vert\widehat{D}\left\vert j\right\rangle \ave{\left.j\right\vert f}$ と展開し、 辺々を比較してみればよい。

\begin{displaymath}
\frac1{2\Delta x}\mat{0 & 1 & 0 & \cdots & -1 \cr
-1 & 0 &...
...\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \cr
1 & 0 & 0 & \cdots & 0}
\end{displaymath} (32)

なお、ここでは周期型境界条件を採用した。つまり、$(N-1)/2$ 番の一番右端の 区間のさらに右には、一番左端の $-(N-1)/2$ 番の区間が繋がっており、全体で ループを構成しているという境界条件である。この結果、行列の右上に $-1$、 左下に 1 が現われている。 $L\rightarrow\infty$ とすると、この影響は無視で きるようになる。

二階の微分は一階微分と一つ左の一階微分の差を $\Delta x$ で割ればよい。

\begin{displaymath}
\frac{d^2f}{dx^2}\rightarrow
\frac{\ave{\left.i+1\right\ve...
...ft.i-1\right\vert x}-2\ave{\left.i\right\vert x}}{\Delta x^2}
\end{displaymath} (33)

これも行列で表現することができる。
\begin{displaymath}
\frac1{\Delta x^2}\mat{-2 & 1 & 0 & \cdots & 1 \cr
1 & -2 ...
...vdots & \vdots & \ddots & \vdots \cr
1 & 0 & 0 & \cdots & -2}
\end{displaymath} (34)

この行列を $\widehat{D^2}$ と記載しよう。

例えば、波動方程式や量子力学でよく現われる次の微分方程式を解くことを考え よう。

\begin{displaymath}
\frac{d^2f}{dx^2}=af
\end{displaymath} (35)

この方程式は $-L/2\le x\le L/2$ の有限の領域 (例えば周期型境界条件) で解 くと、勝手な $a$ では解けず、ある定まった値の $a$ に対してだけ、解を持つ ことが知られている。その $a$ のことは固有値、また、そのときの解は固有解 と呼ばれる。

このことは、この方程式を行列化してみると一層理解できる。左辺は $\widehat{D^2}$ の行列に変換できるので、次のような問題に変換できる。

\begin{displaymath}
\widehat{D^2}\left\vert f\right\rangle =a\left\vert f\right\rangle
\end{displaymath} (36)

あるいは、成分に分けて記載すると、
\begin{displaymath}
\frac1{\Delta x^2}\mat{-2 & 1 & 0 & \cdots & 1 \cr 1 & -2 &...
...r f_{-(N-1)/2+1}\cr f_{-(N-1)/2+2}\cr
\cdots\cr f_{(N-1)/2}}
\end{displaymath} (37)

つまり、正に行列の固有値問題になっていることが理解できよう。$a$ は言うま でもなく固有値であり、そのときの非零の解 $\left\vert f\right\rangle $ が固有ベクトル (微分 方程式の場合には固有解) である。$N$ が偶数のときには、$f$ のサフィクスが 異なるが、以後の結論は変らない。

35 を解くには、$f(x)=\exp(sx)$ の形を試行解として解 くのがよいことが知られているが、式37 でも同様で、 $<i\vert f>=\exp(\alpha i)wl$ の形の試行解を利用すると簡単に解ける。これを上 式に代入し、各行を $<i\vert f>=\exp(\alpha i)wl$ で割ると、 $N_{max}-N_{min}=N-1$を利用して、

$\displaystyle \frac1{2\Delta x^2}\left[\exp(\alpha(N-1))-2+\exp(\alpha)\right]$ $\textstyle =$ $\displaystyle a$  
$\displaystyle \frac1{2\Delta x^2}\left[\exp(-\alpha)-2+\exp(\alpha)\right]$ $\textstyle =$ $\displaystyle a$  
$\displaystyle \frac1{2\Delta x^2}\left[\exp(-\alpha)-2+\exp(\alpha)\right]$ $\textstyle =$ $\displaystyle a$  
$\displaystyle \cdots$      
$\displaystyle \frac1{2\Delta x^2}\left[\exp(-\alpha)-2+\exp(-\alpha(N-1))\right]$ $\textstyle =$ $\displaystyle a$ (38)

が得られる。

ここで面白いのは、最初と最後の式を除いて、すべて同じ式になることである。 したがって、全部で三式になってしまう。また最初の式と中間の式は

\begin{displaymath}
\exp(\alpha N)=1
\end{displaymath} (39)

とすると完全に一致してしまう。この条件が成立するときには、最後の式も中間 の式と一致する。つまり、上の沢山の式は、この条件と中間の式にまとめられる ことがわかる。条件式を満すには、$\alpha=0$ であればよいが、それ以外にも
\begin{displaymath}
\alpha N=i2\pi I \hspace{5em} N_{min}\le I\le N_{max}
\end{displaymath} (40)

の場合に成立する。右辺の $i$ は複素単位であるが、サフィックスの $i$ と区 別して欲しい。これ以外の $I$ でももちろんよいが、実はこの範囲の $I$ が作 る複素数と一致してしまうので、この範囲に限定した。なお、$N$ 偶数のときに は、 $-N/2+1\le I\le N/2$ とする。

これで、固有値問題が解けたことになるのであるが、ピンと来ないかも知れない ので、まとめておく。

    $\displaystyle 固有値:\ a_I=\frac1{\Delta x^2}\cos{\frac{2\pi I}N}$  
    $\displaystyle 固有ベクトル:\ <i\vert I>=\frac1{\sqrt N}\exp\left(i\frac{2\pi I i}N
\right)$  
    $\displaystyle \mbox{ただし} N_{min}\le I\le N_{max} \hspace{1em}$ (41)

ただし、固有ベクトルの式で、exp のすぐ後の $i$ のみ複素単位、その他の $i$ は場所の $i$ である。さらに、固有ベクトルは正規化定数 $1/\sqrt N$ が 掛けてある。言うまでもないことであろうが、この固有解は $N$ 個存在する。

このように、線形微分方程式と行列が、無数の共通点を持つことが、線形性とい う言葉だけでなく、まったく本質的に同じ概念としてまとめられることが明らか になったであろう。


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Yoichi OKABE
平成16年10月19日