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変分法

力学の世界でよく用いられる方法の一つとして、変分法というのがある。これは 質点の軌跡 $x(t)$ をいろいろ変化し、その軌跡で与えられるある関数 $L$ の 積分を計算する。すると、この積分の極値を与える軌跡が実際の運動の際の軌跡 となるというものである。

\begin{displaymath}
I=\int_{t_0}^{t_f}dt\ L(\dot{x}(t), x(t))
\end{displaymath} (49)

この積分を経路積分という。この被積分関数 $L$ を Lagrangian と呼び、軌道 を表わす $x(t)$ だけでなく、その時間微分 $\dot{x}(t)$ の関数にもなってい る。なお、以後 $x(t)$ などは、式の簡略化のために単に $x$ などと記載する。

自由度が一つの運動の場合、$T$ を運動エネルギー、$U$ を位置エネルギー として $L$ は次のように定義される。

\begin{displaymath}
L=T(\dot{x}, x)-U(x)
\end{displaymath} (50)

例えば、重力下の質点の場合、 $T=m\dot{x}^2/2$$U=mgh$ である。

変分法を式で書くと、軌道を色々変えることを $x(t)+\delta x(t)$ で表し、

\begin{displaymath}
\delta I=\int_{t_0}^{t_f}dt\ L(\dot x+\delta\dot x, x+\delta x)
-\int_{t_0}^{t_f}dt\ L(\dot x, x)
\end{displaymath} (51)

を計算し、$\delta x(t)$ に対し $\delta I=0$ となるための $x(t)$ を求める 極値問題を解こうというものである。この計算の結果、運動方程式に対応する Lagrange 方程式と呼ばれる微分方程式が得られるというのが変分法の骨子であ る。

変分法では、変化させるのは関数であって単純な変数ではないので、ちょっとやっ かいな仕事である。本書に興味のある人は、すでに変分法の原理を読んで、さら にその取り扱いの複雑さに困っていると思われるので、通常の変分法の原理は後 へ回すことにして、ここでは、別の方法で同じ結果を示そうと思う。時間を離散 化することにより、関数を有限変数に置き換えることにより、同じ結果を誘導し よう。

連続時間を考える代わりに、$t=t_0$ から $t=t_f$$N$ 等分する。 $t_N=t_f$ である。また、軌道は $t=t_i (i=0, \dots, N)$ において、$x=x_i$ をとるという形で表現する。こうすることにより、変分法を $N-1$ 個の独立変 数 $x_i$ の極値問題とすることができるのである。もちろん、$I$$x_i$ の 線形な関数ではないので、行列的扱いはできないが、(時間)空間の離散化という ことで、本書でまとめて述べることにした。

ここで $\dot{x}_i=(x_{i+1}-x_i)/\Delta t$ と近似すると、 $L((x_{i+1}-x_i)/\Delta t, x)$ とできる。これらを用いると経路積分は次の ように定義でき、確かに $N$ 個の $x_i$ の関数となる。

\begin{displaymath}
I=\sum\Delta t\ L\left(\frac{x_{i+1}-x_i}{\Delta t}, x_i\right)
\end{displaymath} (52)

したがって、この停留値問題の答は $\delta x_0=\delta x_N$ の条件で、 $\partial I/\partial x_i$ をすべて 0 とすることで求められる。
$\displaystyle \D{(I/\Delta t)}{x_i}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \D{}{x_i}\left[\cdots+L\left(\frac{x_i-x_{i-1}}
{\Delta t}, x_{i-1}\right)+L\left(\frac{x_{i+1}-x_i}{\Delta t},
x_i\right)+\cdots\right]$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac1{\Delta t}\left.\D L{\dot{x}}\right\vert _{x=x_{i-1}}-\frac...
...lta t}\left.\D L{\dot{x}}\right\vert _{x=x_i}+\left.\D Lx\right\vert _{x=x_i}=0$ (53)

ここで $\Delta t\rightarrow0$ とし、全体の符号反転すると、Lagrange 方程 式と呼ばれる微分方程式が得られる。

\begin{displaymath}
\frac d{dt}\left(\D L{\dot{x}}\right)-\D Lx=0
\end{displaymath} (54)

さらに $L$$T-U$ を代入すると、簡単に運動方程式に対応する微分方程式が 得られる。
\begin{displaymath}
\frac d{dt}\left(\D T{\dot{x}}\right)-\D Tx-\D Ux=0
\end{displaymath} (55)

実際に重力下の質点の $T=m\dot{x}^2/2$$U=mgx$ を代入すると

\begin{displaymath}
\frac d{dt}\left(\D T{\dot{x}}\right)-\D Tx-\D Ux
=\frac{d(m\dot{x})}{dt}-mg=0
\end{displaymath} (56)

となり、Newton の運動方程式と一致する式が得られる。

なお、変分法の結果を使うことが本当に便利なのは、運動を極座標などで表した 場合である。単振子の軌道は $xy$ 座標で表わすより $\theta$ を使う方が楽で あるが、そうすると運動方程式が立てにくい。しかし、変分法により得られた Lagrange 方程式を用いると、簡単に運動方程式が得られる。 $T=ma^2\dot{\theta}^2/2$ $U=-mg\cos\theta$ であるから、

\begin{displaymath}
\frac d{dt}\left(\D T{\dot{x}}\right)-\D Tx-\D Ux
=\frac{d(ma^2\dot{\theta})}{dt}-mg\sin\theta=0
\end{displaymath} (57)

また、自由度が増えても、同じようにして運動方程式が得られる。例えば、単振 子の先にさらに単振子のついたような二重振子の問題などは、 $\partial
T/\partial x$ も現われ、この方法によると圧倒的に簡単に運動方程式が得らえ る。

さて、力学では変分法そのものを使うかというと、それは極めて稀である。大部 分の問題では、変分法により導かれた Lagrange 方程式そのものを利用すること が多い。しかし、経路積分の変分法による考え方は量子力学でも利用されるなど、 この概念を知っていることは決して無駄ではない。

最後に、どの書籍にも出ている、連続系のままでの Langrange 方程式を誘導を 示しておこう。まず $L$ の変動を計算する。

\begin{displaymath}
L(\dot{x}+\delta\dot{x}, x+\delta x)
=L(\dot{x}, x)+\D L{\dot{x}}\delta\dot{x}+\D Lx\delta x
\end{displaymath} (58)

したがって
\begin{displaymath}
\delta I=\int_{t_0}^{t_f}dt\left(\D L{\dot{x}}\delta\dot{x}
+\D Lx\delta x\right)
\end{displaymath} (59)

ここで最初の項に対して、$\delta\dot{x}$ の時間による積分が $\delta x$ で あることを利用して部分積分を適用する。
\begin{displaymath}
\delta I=\left.\D L{\dot{x}}\delta x\right\vert _{t_0}^{t_f...
...dt}\left(\D L{\dot{x}}\right)\delta x
+\D Lx\delta x\right]=0
\end{displaymath} (60)

このうち、第1項は $t_0$$t_f$$\delta x$ が 0 であるから 0 となる。 また次の積分は $\delta x$ を括り出すと、括弧内が常に 0 でなければならな いことが誘導され、結局、Lagrange 方程式が誘導できる。


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Yoichi OKABE
平成16年10月19日