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まえがき

本稿は、自分が電磁気学を修得する際、分りづらかった部分を、 いかに他人に教育するかを意識してまとめたものである。 近年、初学の人を対象にした本は、数式をなるべく記載しない傾向にあるが、 本書は、ある程度、電磁気学を習得した人を対象としたため、 数式はふんだんに現われる。

しかし、数式の持つ意味、特に面積分などの概念については、 私自身が、初めて習ったときに、難々その意味が理解できなかったため、 それらの導入に当っては、特に丁寧に説明しており、その意味では、 初学の人にも十分理解できると信じている。 電磁気学をしっかり勉強したい人には適した書籍と考えている。

また、電磁気学は学生時代の研究対象であり、また教職に就いてからも、 いくつか電磁気学の講義を持っていたこともあり、 40年以上にわたって、 怪しいところは徹底して理解に努めた結果を記載したものであり、 同様な疑問を持たれるであろう人に対する解答は可能な限り記載した積りである。 それでも、解消しなかった疑問については、明示した。

本書は、大きく、次のような特徴を持つ。

  1. 従来、線積分で表現されていた「回転」の概念を、「発散」と同様に 面積分を基礎とするものに改めた。
  2. 電流の作成する磁場は、従来、実証の難しいビオ・サバールの法則により 表していたが、それを実証の楽なソレノイド (あるいは棒磁石) の作成する 磁場を基礎にすることとした。
  3. 従来、比較的無視されがちであったベクトルポテンシャルの重要性を 感じ、それにかなり重点を置くようにした。

このうち、最後の点については特記したい。

ある程度、電磁気学を習得した人間でもベクトルポテンシャルの意味や 重要性はなかなか分かっていないことが多い。 スカラーポテンシャルは電場という三次元的ベクトルを一次元的スカラー量で 代表できることから、それなりの意味を持っていることが理解できるし、 回路理論での重要な量である電圧そのものであるから、日頃から馴れ 親しんでいる量である。 一方、ベクトルポテンシャルは、三次元ベクトルである磁場を三次元的 ベクトルから導出できるだけでうまみがないし、ベクトルであるから表示も 難しく、電磁気学でもあまり顔を現さないため、不慣れな量である。

しかし、ベクトルポテンシャルはかなり重要な量である。 これは電場や磁場以上に実在する場なのである。 電気磁気学の基本法則にファラデーの電磁誘導の法則があるが、これは 時間変化する磁場中にループ状の導体を置くとその両端に電圧が 生じるというものである。 この磁場変化と誘起電圧の関係は鉄心があっても変わらない。 しかし、鉄心があると、磁束の大部分はその中を通過してしまい、肝心の コイルのあるあたりでは磁場はほとんど 0 のはずである。 それではコイルは何を感じて電圧を発生するのであろうか。 答は、鉄心の外部には、磁場はなくても鉄心を取り囲むような ベクトルポテンシャルがあり、コイルはそれを感じるのである。

古典電磁気学ではこれを次のように解釈する。 磁場は変化しているので電場が誘起される。 これを計算して見ると、磁場のほとんどないコイルの部分にも電場が存在し、 この積分がちょうど誘起電圧に等しくなるというものである。 したがって直流磁場の場合は電場も誘起されず、鉄心のまわりには本当に 何もなくなってしまう。 しかし、超伝導体の出現により直流磁場の場合にも鉄心のまわりには 何かがあると考えないとおかしいということが判明した。 超伝導体に限らず、量子力学的サイズの粒子のミクロな運動も鉄心のまわりの 何かを感じるのである。 それがベクトルポテンシャルである。

このようにベクトルポテンシャルは実在する場であるという意味で明かに重要な 量であるが、他にもいろいろ便利な量である。 磁場分布を電流分布から計算する場合、あるいは時間とともに変化する動的な 電磁場の解析になくてはならない量である。 さらにスカラーポテンシャルと組になって相対論を構成する重要な量である。 こうした点から本書では、ベクトルポテンシャルをスカラーポテンシャルと 対等に取り扱った電磁気学を論ずるつもりである。 対等であるということは他の本に比べかなりベクトルポテンシャルに偏った 印象を与えるかも知れないが、上述のように意義のある量であるので、頑張って 理解していただきたい。

著者

1997年:         回転の外積面積分による定義の導入
1998年11月21日: TeX 化
1999年3月14日:  電流の作る回転を面積分から導入
2001年9月17日:  TeX + perl 化、および章分割
2001年12月22日: Web 化
2002年1月17日:  Web 公開


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Yoichi OKABE 2008-03-29