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ラグランジュ・ダランベールの仮想変位の原理

まず剛体なども扱うことを前提に、多数の質点からなる系の静力学を考えよう。 各質点では力の総和が 0 になるはずであるから、次の式が成立する。

$\displaystyle \emph F_i+\emph R_i=0 \hspace{1cm} (i=1,\cdots,$質点の総数$\displaystyle )$ (A.1)

ここで、$ \emph F_i$ は各質点に働く外力であり、$ \emph R_i$ は、互いに束縛し合う質点間に働く束縛力(constraining force)である。

例えば、二つの質点が一定距離になるような束縛(constraint)を受けている場合、 束縛条件(constraint)の個数、つまり束縛力の数は 1個である。 3個の質点が一体として動く場合には、3個の束縛条件が存在する。 4個の質点が一体として動く場合には、新たな質点を他の 3個に対して固定するために、さらに 3個の束縛条件が存在する。 以下同様に質点の数が増えるごとに、束縛条件の数は 3 ずつ増えていくので、 $ m$ 個の質点が一体として動いている場合には、束縛条件の数は $ 3m-6$ ($ m=2$ の場合は 1) となる。 なお $ m$ 個の集団の運動を記載するには、 その重心の位置と角度の自由度の合せて 6個 ($ m=2$ の場合は 5) の自由度で十分であるので、自由度と束縛条件の数の和は、元の成分の総数 $ 3N$ になる。

同様に質点が個別にレールのような一次元的なものに束縛されている場合には、 質点ごとに 2個の束縛条件があることになる。 曲面に束縛されているときには、質点ごとに 1個の束縛条件があることになる。 その他、質点系と質点系が蝶番のように、 部分的な束縛条件を満す場合など、色々な束縛があるが、 同様に扱うことが可能である。

上式が成立すれば、これにどんな量を掛けても (元がベクトルであるので、スカラー倍でも内積でも外積でもよい) また、その結果をいくつ合計しても 0 となるから、次式が成立する。

$\displaystyle \sum_i(\emph F_i+\emph R_i)\cdot{\bf\delta r}_i=0$ (A.2)

この場合には、各質点の僅かな変位 $ {\bf\delta r}_i$ との内積をとって、総和をとっている。 なお、変位があれば $ \emph F_i+\emph R_i$ は僅かに変化する可能性があるが、その影響は二次の微小量となり無視できる。 このように変位に対して、それらの関数が 0 に保たれることを停留(stationary (adj.))すると言う。

さて、この変位 $ {\bf\delta r}_i$ がすべての束縛条件を満す場合、 次の式が成立する。

$\displaystyle \sum_i\emph F_i\cdot{\bf\delta r}_i=0$ (A.3)

この式はダランベールの仮想変位の原理(d'Alenbert principle of virtual displacement)と呼ばれるものである。

その理由は、質点そのものに束縛条件がある場合には $ \emph R_i\cdot{\bf\delta r}_i=0$ が成立するし、 質点間に束縛条件がある場合には $ \sum_{i}\emph R_i\cdot{\bf\delta r}_i=0$ が成立するからである。 後者の場合、例えば二質点に束縛がある場合には $ \vert\emph r_1-\emph r_2\vert^2$ が一定という関係が成立する。 これより、 $ (\emph r_1-\emph r_2)\cdot({\bf\delta r}_1-{\bf\delta r}_2)=0$、 つまり、 $ {\bf\delta r}_1-{\bf\delta r}_2=0$ は、 二質点を結ぶ直線に垂直になる。 一方、 $ \emph R_1=-\emph R_2$ は二質点を結ぶ直線に平行であるから、 $ \emph R_1\cdot{\bf\delta r}_1+\emph R_2\cdot{\bf\delta r}_2
=\emph R_1\cdot{\b...
...emph R_1\cdot{\bf\delta r}_2
=\emph R_1\cdot({\bf\delta r}_1-{\bf\delta r}_2)=0$ が得られる。

さて、議論に必要な成分の総数 $ N$ は、一般には質点数の 3倍であるが、 一次元空間の質点を議論する場合には、質点数の 1倍になるし、 二次元空間の質点を議論する場合には、質点数の 2倍になる。 こうした種々の場合を扱うことを考え、力や変位の成分をバラバラに分けて、 その最初から連続的に符番しておこう。 例えば位置のベクトルは、$ \emph r_1$ の三成分を $ x_1$$ x_2$$ x_3$ とし、$ \emph r_2$ の三成分を $ x_4$$ x_5$$ x_6$ と記載するのである。 力についても同様に符番する。 すると、ダランベールの仮想変位の原理(d'Alenbert principle of virtual displacement)の式は次のように書ける。

$\displaystyle \sum_i^NF_i\delta x_i=0$ (A.4)

ここで、$ N$ は質点の位置を表現するために必要な成分の総数で、 質点の数に空間の次元数倍したものである。

ラグランジュは、この原理を、動力学にも適用されるように拡張された。 動力学の場合には、各質点に、加速度に対応する加速力 $ -m_i{\bf\ddot r}_i$ が追加されたとすれば、 静力学と同じに議論できる。 ここでも、加速力を成分分けし、改めて符番しよう。 一質点の成分に現われる質量はすべて同じ値となるが、成分ごとに強制的に 1 から順に符番することとする。 つまり三次元空間の最初の質点の加速力の三成分 $ (m_1\ddot x_1,m_1\ddot y_1,m_1\ddot z_1)$ $ m_1\ddot x_1$ $ m_2\ddot x_2$ $ m_3\ddot x_3$ と表現することとする。 すると各質点の成分ごとに次の式が成立する。

$\displaystyle F_i+R_i-m_i\ddot x_i=0$ (A.5)

これに任意の変位を掛けたものも、またそれらの総和も 0 となる。

$\displaystyle \sum_i^N(F_i+R_i-\ddot m_ix_i)\,\delta x_i=0$ (A.6)

ここで $ \delta x_i$ を束縛条件にしたがった変位とすると

$\displaystyle \sum_i^NR_i\delta x_i=0$ (A.7)

であるから、次式が成立する。

$\displaystyle \sum_i^N(\ddot m_ix_i-F_i)\,\delta x_i=0$ (A.8)

ダランベールの仮想変位の原理(d'Alenbert principle of virtual displacement)と言うと、 この式を指すことが多いが、本書では前掲の静力学の式と区別するために、 またラグランジュに敬意を表する意味で、 ラグランジュ・ダランベールの仮想変位の原理(Lagrange d'Alenbert principle of virtual displacement)と呼ぶことにする。


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Yoichi OKABE 2008-03-29