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座標変換

二つの座標系が、滑らかではあるが、 比較的任意の関係で結び付いている場合の変換を考える。 二つの座標系は、必ずしも直交座標である必要もないし、 その上の単位ベクトルの長さ (何 m か) も 1 である必要もない。 例えば極座標では、1 m、1 radian、1 radian の大きさの単位ベクトルが直交している。

変換前の空間の単位ベクトルを $ \{\emph u_i\,\vert\,\emph u_{\underline1},
\cdots,\emph u_{\underline N}\}$と記載する。 このように、変換前の量のサフィックスはアルファベットとし、 特にサフィックスを具体的な数字にしたいときには、 数字の下にアンダーラインを付すものとする。 一方、変換後の空間の単位ベクトルは $ \{\emph u_\mu\,\vert\,\emph u_1,
\cdots,\emph u_N\}$とする。 変換後の量のサフィックスはギリシャ文字とし、 数字の場合は、生のまま記載する。

この変換後の単位ベクトルそれぞれを、変換前の単位ベクトルの合成で表わそう。

$\displaystyle \emph u_\mu=\sum_i\alpha_\mu^i\emph u_i$ (C.1)

$ \alpha_\mu^i$変換係数(transform coefficient)と言う。

さらに、アインシュタイン規約(Einstein convention)を用いることとする。 これは、同じサフィックスが上下に一つずつ現われるときには、 合計記号を省略するというものである。 その結果、上式は次のように記載してよいことになる。

$\displaystyle \emph u_\mu=\alpha_\mu^i\emph u_i$ (C.2)

$ \alpha_\mu^i$ のサフィックス $ i$ が上付きなのは、 取り敢えず、この規約のためと理解しておいてよい。

この変換の逆変換を、上と同様に次のように書こう。

$\displaystyle \emph u_i=\alpha_i^\mu\emph u_\mu$ (C.3)

この変換係数 $ \alpha_i^\mu$ を逆変換係数と呼んでおこう。

この二つの変換を繋いでみよう。

$\displaystyle \emph u_i=\alpha_i^\mu\emph u_\mu
=\alpha_i^\mu\alpha_\mu^j\emph u_j$      

これから直ちに次の関係式が得られる。

$\displaystyle \alpha_i^\mu\alpha_\mu^j=\delta_i^j$ (C.4)

ここで、 $ \delta_i^j$ は、両サフィックスが等しいときだけ 1、 異なるとき 0 となるクロネッカーのデルタ(Kronecker delta)である。 つまり変換係数と逆変換係数は互いに逆行列の関係になっている。

任意のベクトル a を次のように二つの座標系で表わす。

$\displaystyle \emph a=a^\mu\emph u_\mu=a^i\emph u_i$ (C.5)

$ a^\mu$$ a^i$ はそれぞれの座標系におけるこのベクトルの成分である。 この式から、成分の間の変換式を誘導することができる。 右辺の単位ベクトルを逆変換してみよう。
$\displaystyle a^\mu\emph u_\mu=a^i\emph u_i=a^i\alpha_i^\mu\emph u_\mu$      

$ \emph u_\mu$ の成分同士を左右で比較すると、次式が得られる。

$\displaystyle a^\mu=\alpha_i^\mu a^i$ (C.6)

この変換は、逆変換係数 $ \alpha_i^\mu$ で結ばれていることに注意して欲しい。

このように、ある量の成分が、単位ベクトルと逆の変換係数で変換される場合、 それを反変テンソル(contravariant tensor)と呼ぶ。 すぐ後に述べるように、単位ベクトルと同じ変換係数で変換される量もあり、 それは共変テンソル(covariant tensor)と呼ぶ。 実は反変テンソルには下付きのサフィックス、 共変テンソルには上付きのサフィックスを付ける。 ただし変換、逆変換係数はそれ自身が変換を受けるわけではなく、 共変、反変テンソルではないが、これらの係数のように、 アインシュタインの規約を守るようにサフィックスを付けるものもある。

空間内の近接した二点間で定義される微分ベクトル dx を考える。

$\displaystyle \emph{dx}=dx^\mu\emph u_\mu=dx^i\emph u_i$ (C.7)

これもベクトルであるので、反変テンソルである。

$\displaystyle dx^\mu=\alpha_i^\mu dx^i$ (C.8)

一方、次の式が成立する。

$\displaystyle dx^\mu=\left(\D{x^\mu}{x^i}\right)dx^i$ (C.9)

これから次の式が誘導できる。

$\displaystyle \alpha_i^\mu=\D{x^\mu}{x^i}$ (C.10)

この逆変換から $ \alpha_\mu^i$ も求めることができる。

$\displaystyle \alpha_\mu^i=\D{x^\mu}{x^i}$ (C.11)

直感的理解を助けるために、 デカルト座標系に書かれた二次元の斜交座標系の例を、 図C.1に示した。 斜交座標の二つの単位ベクトルを、次のように定義している。

$\displaystyle \emph u_1$ $\displaystyle =$ $\displaystyle 1\emph u_{\underline1}+\frac13\emph u_{\underline2}$  
$\displaystyle \emph u_2$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -1\emph u_{\underline1}+\frac23\emph u_{\underline2}$ (C.12)

ここで、 $ \alpha_\mu^i$$ i$$ \mu$ 列 の行列で表わすと次のようになる。
Figure C.1: 反変ベクトルの表現
\includegraphics{fig/trans.cont.eps}

\begin{displaymath}\begin{array}{cc} & \rightarrow i \cr \begin{matrix}\downarro...
...rix} & {\displaystyle\frac13}\mat{3 & 1 \cr -3 & 2} \end{array}\end{displaymath} (C.13)

$ \alpha_i^\mu$ はこの逆行列で与えられる。

\begin{displaymath}\begin{array}{cc} & \rightarrow i \cr \begin{matrix}\downarro...
...rix} & {\displaystyle\frac13}\mat{2 & 3 \cr -1 & 3} \end{array}\end{displaymath} (C.14)

図中、デカルト座標で $ (0.5,1)$ の値を持つ $ \emph a$ なるベクトルが、斜交座標で次のように変換されることが容易に読み取れよう。

$\displaystyle \frac13\left(\begin{array}{cccc}4 \cr 2.5\end{array}\right) =\fra...
...r -1 & 3\end{array}\right) \left(\begin{array}{cccc}0.5 \cr 1\end{array}\right)$ (C.15)

次に共変テンソルの話に移るが、その前に双対座標(dual coordinate)のことを述べよう。 $ \emph u_\mu (\mu=1,\cdots,N)$ に対し、次式を満す $ N$ 個のベクトル $ \emph u^\mu (\mu=1,\cdots,N)$ を双対座標と呼ぶ。

$\displaystyle \emph u^\mu\cdot\emph u_\nu=\delta_\nu^\mu$ (C.16)

また、双対の関係は相互であるので、 $ \emph u^\mu$ に対し、 $ \emph u_\mu$ も双対座標であるとも言える。 なお、デカルト座標については、 $ \emph u_i\cdot\emph u_j=\delta_{ij}$ が成立しているから、 $ \emph u^i=\emph u_i$ であり、自己双対になっている。

前図に示した単位ベクトルに対し、 双対の単位ベクトルを計算すると、次のようになる。

$\displaystyle \emph u^1$ $\displaystyle =$ $\displaystyle 0.5\emph u^{\underline1}+0.25\emph u^{\underline2}$  
$\displaystyle \emph u^2$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -0.5\emph u^{\underline1}+0.75\emph u^{\underline2}$ (C.17)

これらを図C.2に示すが、 $ \emph u^\mu$ $ \emph u_\mu$ に対し直交していることがよくわかる。

Figure C.2: 双対な単位ベクトル
\includegraphics{fig/trans.dual.eps}

この新しい双対単位ベクトルについても、 元の単位ベクトルと同じような式がすべて成立する。 ただ、サフィックスの上下が逆なだけである。

    $\displaystyle \emph u^\mu=\alpha^\mu_i\emph u^i$ (C.18)
    $\displaystyle \emph u^i=\alpha^i_\mu\emph u^\mu$ (C.19)
    $\displaystyle \emph a=a_\mu\emph u^\mu=a_i\emph u^i$ (C.20)
    $\displaystyle a_\mu=\alpha^i_\mu a_i$ (C.21)

この際、ベクトル a $ \emph u^\mu$ の成分 $ a_\mu$ $ \emph e_\mu$ と同じ変換を受けている。 このような変換を受ける量を共変テンソル(covariant tensor)と呼ぶ。 共変テンソルには下付きのサフィックスを付ける。

次に任意のスカラー関数 $ f$ の空間微分 $ \partial f/\partial x^i$ の座標変換を行なってみよう。 これを $ \partial_if$ と書くことにしよう。

$\displaystyle \partial_if=\D{x^\mu}{x^i}\partial_\mu f =\alpha_i^\mu\partial_\mu f$ (C.22)

$ \partial f/\partial x^\mu$ は共変テンソルである。 この結果は、 $ \partial f/\partial x^\mu$$ dx_\mu$ に反比例することから何となく理解できよう。

このあたりの直感的理解を得るために、図C.3を見て欲しい。 先と同じ斜交座標系で、今度は $ f$ の等高線が記載してある。 まず、デカルト座標では $ \emph u^{\underline1}$ 方向に 2 動くと $ f$ は 1 増えるから、 $ \partial f/\partial x^{\underline1}=1/2$、また $ \emph u^{\underline2}$ 方向に 1 動くと $ f$ は 1 増えるから、 $ \partial f/\partial x^{\underline2}$ は 1/2 である。

変換後の座標系では、$ \emph u_1$ 方向へ 1.2 移動すると $ f$ は 1 増え、 $ \emph u_2$ 方向へ 6 移動すると $ f$ はやはり 1 増えるから $ \partial f/\partial x^1$ は 1/1.2、 $ \partial f/\partial x^2$ は 1/6 である。 しかし変換後の座標で (1/1.2, 1/6) なるベクトルは元のベクトルとは一致しない。 これを双対な単位ベクトル系の (1/1.2, 1/5) ベクトルだと思うと一致するのである。 つまり、共変ベクトルは、双対単位ベクトルを基準にしていることが、 よくわかろう。

Figure C.3: 共変ベクトルの表現
\begin{figure}\centering
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(176,94)
\put(0,0){\s...
....8){\makebox(0,0)[lb]{{\footnotesize\rm$\emph u_1$}}}
\end{picture} \end{figure}

$ A^{\mu\nu}\emph u_\mu\emph u^T_\nu$ といった行列の成分 $ A^{\mu\nu}$ は、ベクトルの変換則より反変テンソルと呼ばれる。 同様に共変テンソル $ A_{\mu\nu}$、混合テンソル $ A^\mu_\nu$$ A_\mu^\nu$ も定義される。 例えば $ A^\mu_\nu$ は次のように変換される。

$\displaystyle A^i_j=\alpha^i_\mu\alpha_j^\nu A^\mu_\nu$ (C.23)

サフィックスが三つ付く量も同じように、 反変、共変の組み合わさった変換を受けることとなる。 このように、ベクトル、行列、さらにサフィックスの多い量で、 サフィックスごとに変換係数や逆変換係数を付けるだけ座標変換できるものを、 まとめてテンソル(tensor)と呼ぶ。 スカラーもサフィックスのないテンソルと定義する。


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Yoichi OKABE 2008-03-29