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面積分

スカラー場には勾配、ベクトル場については発散、 回転といった重要な概念がある。 これらの概念の導入にはいずれも閉曲面表面に沿う面積分が重要な役割を演ずる。

面積分(surface integral)とは次のような概念である。 例えば、地表の単位面積当たり受ける太陽光のエネルギーが簡単な関数$ f$ で与えられるものとする。 $ f$は、地球を中心とした極座標の$ \theta$$ \phi $の関数とするのがよいだろう。 このとき地球全体で受ける太陽光のエネルギーの総和を求めろといわれたら、 図 2.1のように、 地球の表面全体を十分小さな面積 $ \Delta S_i$で分割し、 各面積ごとのエネルギー $ \Delta S_if$を求め、それを合計すればよい。

$\displaystyle \sum_i\Delta S_if$ (22)

ここで、 $ \Delta S_i$を十分小さくしたときの極限を次式で表す。

$\displaystyle \int dS\,f$ (23)

これが面積分である。 つまり、面積分の$ \int$は本来$ \sum$のことであり、 $ dS$ $ \Delta S_i$のことであると理解してもらいたい。 通常、積分というと大きく二つの理解の仕方がある。 一つは、ここに示したような「総和の極限」という理解である。 通常の積分であるリーマン積分(Riemann integral)も、 微小区間$ \Delta x$$ f$に掛けて合計した $ \sum_i\Delta
x_if_i$の極限と定義されている。

図 2.1: 地球全体の受ける太陽光エネルギーは、 各微小面積の受けるエネルギーの総和で得られる。
\begin{figure}\centering
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(72,108)
\put(0,0){\s...
...ar-sum.dps llx=144 lly=663 urx=216 ury=771 rwi=720}}
\end{picture}
\end{figure}

もう一つの理解の仕方は積分演算という考え方である。 つまり、$ x^n$から $ x^{n+1}/(n+1)$を作り出すように、 関数から別の関数を作り出す演算であるという理解の仕方である。 これは、積分に段々慣れてくるとでき上がる概念であるが、 面積分をこの概念のように理解しようとすると、意味不明になる。 面積分を理解するにはあくまでも「総和の極限」と解釈してほしい。 したがって、積分を記載する際、よく見られるように、 $ \int f\,dS$のように積分記号と$ dS$で関数を囲む形にする必要はなく、 順番は問題ではない。

地球に当たる光の全エネルギーを計算してみよう[*]。 太陽の方向を極座標の軸方向とすると、光の強度は、 緯度$ \theta$(頭頂を$ 0^\circ$とする)が増える程、 減っていくことから、 $ f=I_0\cos\theta$で与えられる。 また、経度方向$ d\phi$、緯度方向$ d\theta$で囲まれた面積は、 ほぼ $ dS=a^2\sin\theta\,d\theta\,d\phi$で与えられるから、 全エネルギーは、これらの積を合計して、 $ \int\,I_0\cos\theta a^2\sin\theta\,d\theta\,d\phi$で計算できる。 ただし、光は $ 0<\theta<\pi/2$の範囲でしか当たらないことを、 考慮する必要がある。 この積分は簡単に実行でき、 $ =2\pi a^2I_0\int\cos\theta\sin\theta\,d\theta
=\pi a^2I_0\left.\sin\theta^2\right\vert _0^{\frac\pi2}
=\pi a^2I_0$となる。 つまり、$ I_0$に地球の断面積を掛けた結果となる。

もう一つ別の例を挙げよう。 それは浮力の計算である。 液体中の物体には圧力がかかっている。 その合力が浮力となるのである。 例えば、深さによらず一定の圧力$ p$を受けている物体を考えよう。 この場合にも、物体の表面Sを微小面積 $ \Delta S_i$に分割する。 各面積の受ける力は $ -\Delta\boldsymbol{S}_i\,p$となる。 ここで $ \Delta\boldsymbol{S}_i$は、大きさ $ \Delta S_i$で、 方向が物体の内から外を向き各面要素に垂直なベクトルである。 浮力はこれらのベクトルの合力となる。

$\displaystyle -\sum_i\Delta\boldsymbol{S}_i\,p$ (24)

この総和は極限として次のような面積分として表される。

$\displaystyle -\oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\,p$ (25)

ここで$ \oint$に見られるように積分記号に○を付けたのは、 閉曲面すべての面要素に対する総和を意味する。 こうした面積分の概念は「総和の極限」として考えると理解しやすいが、 演算子として考えると、絶対に理解できない。 電磁気学に出てくるさまざまな面積分が理解できなくなる最大の原因も、 ここにあるので、あくまでも「総和の極限」であるという立場で理解してほしい。 なお、$ \oint$のサフィックスは、ある体積を囲む閉曲面を指す。

ちなみに、$ p$が一定の場合には、$ p$を面積分の外に追い出せるが、 残る面積分は大きさ0のベクトルとなる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}=\boldsymbol{0}$ (26)

つまり、一定圧力中の浮力は $ \boldsymbol{0}$となる。

2.5の証明は簡単である。 この結果があるベクトル $ \boldsymbol {a}$になったと仮定してみよう。 両辺に $ \boldsymbol {a}$自身を内積の形で掛ける。 まず、右辺は$ a^2$となる。 一方、左辺の $ \boldsymbol{a}\cdot d\boldsymbol{S}$は、 $ a\,dS\cos\theta$となる。 ここで$ \theta$は二つのベクトルのなす角度である。 つまり、図 2.2の四角柱の断面積の$ a$倍になる。 ただし、$ \theta$$ \pi/2$以下であると正、以上であると負となる。 ところで、ある微小面積に着目し、それを $ \boldsymbol {a}$に平行な光線で照すと、 一般に、図 2.2に見られるように、 光線は閉曲面と二箇所で交わる。 つまり、光の当たる表側と影側の、 二つの対応する微小面積が存在することになるのであるが、 この二つの微小面積における $ \boldsymbol{a}\cdot d\boldsymbol{S}$は、 断面積の$ a$倍になるが、表側では負、影側では正となり、 ちょうど打ち消し合って0となる。 したがって、式2.5の左辺は、表側も裏側も含むため、 0となり、$ a^2=0$が誘導される。 この結果、 $ \boldsymbol {a}$は零ベクトルとなる。

図 2.2: 任意のベクトル $ \boldsymbol {a}$と平行な光線により、 二つの微小面積が対応する。
\begin{figure}\centering
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(93,100)
\put(0,0){\s...
...9,44.5){\makebox(0,0)[lb]{{\footnotesize\mc 表側}}}
\end{picture}
\end{figure}

次に、高さとともに圧力の変化する液体中での物体にかかる浮力を 計算してみよう。 $ p=p_0+\rho gz$$ z$方向に変化しているとしよう。 その場合の浮力は次式で与えられる。

$\displaystyle -p_0\oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}-\rho g\oint_\text Sd\boldsymbol{S}\,z$ (27)

このうち、第一項は式2.5に示したように $ \boldsymbol{0}$となる。 第二項は面積分部分が物体の体積となることが示される。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\,z=\boldsymbol{k}V$ (28)

ただし、 $ \boldsymbol{k}$$ z$方向の単位ベクトルである。 結局、「浮力は物体の排除する液体の重量に等しくなる」という アルキメデスの法則(Archimedes law)が導かれる。

これを証明するには、まず、閉曲面を図 2.3のように、 $ xy$面と平行な面で輪切りにする。 右辺は厳密には分割を無限に薄くした極限となるのだが、 $ \lim$の記号は省略した。 以後の議論でも、特に必要ない限り、$ \lim$の記号は省略する。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\,z =\sum_{i=1}^n\int_{\text S_i}\! d\boldsymbol{S}\,z_i =\sum_{i=1}^n z_i\int_{\text S_i}\! d\boldsymbol{S}$ (29)

各輪切り一枚ごとの側面の面積分 $ \int d\boldsymbol{S}$を求めるのであるが、 各輪切り全体の面積分を行うと最初に述べたように0となるはずである。

$\displaystyle \int_{\text S_i}\! d\boldsymbol{S}+\boldsymbol{k}A_{i+1}-\boldsymbol{k}A_i=\boldsymbol{0}$ (30)

ここで、$ A_i$$ i$番目の輪切りの底面の面積である。

この関係を使い、側面の面積分を面積差に置き換えることができる。 さらに変形すると証明が完了する。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\,z$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \sum_{i=1}^nz_i\,\boldsymbol{k}\,
(A_i-A_{i+1})=\boldsymbol{k}\left(\sum_{i=0}^{n-1}z_{i+1}
\,A_{i+1}-\sum_{i=1}^nz_i\,A_{i+1}\right)$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \boldsymbol{k}\sum_{i=1}^{n-1}\,(z_{i+1}-z_i)\,A_{i+1}=\boldsymbol{k}V$ (31)

図 2.3: $ z$方向にだけ変化するスカラー場の面積分は、 $ xy$平面に平行なスライスで行う。
\begin{figure}\centering
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(149,130)
\put(0,0){\...
...0,39.4){\makebox(0,0)[lb]{{\footnotesize\rm$z_i$}}}
\end{picture}
\end{figure}

いうまでもなく$ x$$ y$の重みについても同様の結果が得られる。 式2.5や式2.7などは、 今後もしばしば利用される大事な式である。


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日