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四元ベクトル

力学におけるベクトルの代表は位置ベクトルである。 これに対応する四元ベクトルは $ (x,y,z,ct)$ である。 $ (\emph r,ct)$ とも表わす。 時間項が $ c$ 倍されているのは、空間と同じ次元になって、 空間座標との対応がよくなるからである。 これを まとめて $ x^\mu$ と記載する $ \mu$ が上付きになっているが、 この表記はアインシュタインが導入したもので、冪乗の意味ではない。 座標変換の際、上記の変換を受けるベクトルを反変ベクトル(contravariant vector)と呼び、 その場合にはサフィックスを上付きにすると決めたものである。 また、四次元でのサフィックスには $ \mu$$ \nu$ などのギリシャ文字を用い、三次元のサフィックスである $ i$$ j$ と区別する。

次に速度ベクトルを考えよう。 元々、$ v_x=dx/dt$ などと定義されているが、 これをそのまま第四成分に拡張すると $ v_t=d(ct)/dt=c$ となって、 第四成分だけ定数となってしまい、何かがおかしい。 $ \left(dx,dy,dz,d(ct)\right)=\left(\emph{dr},d(ct)\right)$ あるいは $ dx^\mu$ は式10.4で変換されるから、 確かに四元ベクトルになっているが、 分母の $ dt$ はローレンツ変換不変ではないからである。 そこで $ dt$ に極めて近い概念で、かつ $ dt$ とは高速で僅かに異なるローレンツ変換不変の概念である世界時 $ ds$ なる概念が、分母として使われる。

$\displaystyle ds=\sqrt{dt^2-(dx^2+dy^2+dz^2)/c^2}=\sqrt{1-\beta_v^2}\ dt$ (C.89)

ここで $ \beta_v=v/c$ である。 $ \beta$ は座標変換の際の座標間の速度 $ V$ に対応するものであるが、 質点の速度 $ v$ に対応するものについては $ \beta_v$ を用いることとした。 同様に、$ \gamma$ は座標変換の際の座標間の速度 $ V$ に対応するものであるが、質点の速度に対応しては $ \gamma_v=1/\sqrt{1-\beta_v^2}$ を定義する。

なお、$ ds$ がローレンツ変換に対し不変であることは、 次のようにして簡単に証明できる。

$\displaystyle ds'=\sqrt{dt'^2-(dx'^2+dy'^2+dz'^2)/c^2} =\sqrt{dt^2-(dx^2+dy^2+dz^2)/c^2}=ds$ (C.90)

粒子の速度 $ v$ が光速に比べ十分遅い場合には、 $ ds\approx dt$ となる。 この $ ds$ を用いて、速度の四元ベクトルである四元速度 $ u^\mu$ を次式のように定義する。

$\displaystyle (u^1,u^2,u^3,u^4)=\left(\frac{dx}{ds},\frac{dy}{ds}, \frac{dz}{ds},\frac{d(ct)}{ds}\right)=\gamma_v(\emph v,c)$ (C.91)

四元速度に、静止質量 $ m$ を掛けたものは、四元運動量 $ (p^\mu)
=(p_x,p_y,p_z,E/c)=(\emph p,\ E/c)$ と呼ばれる。

$\displaystyle (p^1,p^2,p^3,p^4)=\left(\emph p,\ \frac Ec\right) =m(\emph u,\ u_t)=m\gamma_v(\emph v,\ c)$ (C.92)

四元運動量の空間成分は、低速では古典的運動量に一致する。 第四成分は、 $ E=mc^2+(1/2)mv^2+\cdots$ となるが、 低速では固定分 $ mc^2$ の差はあるものの、運動エネルギーに一致する。 このため、この項は質点のエネルギーと考えられる。 また、静止時のエネルギー $ mc^2$ は原子爆弾の概念の基礎となった有名な式でもある。

$ u^\mu$ が四元ベクトルなら、その微小量も四元ベクトルである。 したがって、四元速度を $ s$ で微分することにより、 四元ベクトルである四元加速度が定義できる。

$\displaystyle \left(\frac{du_x}{ds},\frac{du_y}{ds},\frac{du_z}{ds}, \frac{du_t...
...ac{d^2x}{ds^2},\frac{d^2y}{ds^2}, \frac{d^2z}{ds^2},\frac{d^2(ct)}{ds^2}\right)$ (C.93)

$ \emph f$ を古典的な力として、 ニュートンの運動方程式は $ d(m\emph v)/dt=\emph f$ などと書ける。 また $ dE/dt=\emph f\cdot\emph v$ が成立する。 これらの式から、次の諸式が誘導できる。


$\displaystyle m\frac{du_x}{ds}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{dp_x}{ds}
=\frac{dp_x}{dt}\frac{dt}{ds}=\gamma_vf_x$  
    $\displaystyle \cdots$  
$\displaystyle m\frac{du_t}{ds}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{d(mc)}{ds}=\frac{d(E/c)}{ds}
=\frac{d(E/c)}{dt}\frac{dt}{ds}=\gamma_v\frac{\emph f\cdot\emph v}c$ (C.94)

この右辺は、四元力 $ F^\mu$ である。

$\displaystyle (F^1,F^2,F^3,F^4)=\gamma_v(\emph f,\frac{\emph f\cdot\emph v}c)$ (C.95)

ここで、やや形式論であるが、相対論でよく使われる記載法をまとめて示そう。 まず、座標変換であるが、下記のような成分を持つ行列 $ a^{\mu\ }_{\ \nu}$ を定義しよう。

$\displaystyle \left(\begin{array}{cccc} \gamma & 0 & 0 & -\gamma\beta \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ -\gamma\beta & 0 & 0 & \gamma \end{array}\right)$ (C.96)

この行列を用いて、座標変換は次のように表わすことができる。

$\displaystyle x'^\mu=\sum_\nu a^{\mu\ }_{\ \nu}x^\nu$ (C.97)

アインシュタインはさらに、この式の $ \nu$ で見られるように、 同じサッフィックスが上下に入るときには $ \sum$ 記号を省略することを提案している。 他書を見るときには、注意して欲しい。

この関係式は、微小距離 $ d'x_\mu$$ dx_\nu$ の間にも成立する。 また一般に次の式が成立する。

$\displaystyle dx'^\mu=\sum_\nu\D{x'^\mu}{x^\nu}dx^\nu$ (C.98)

このことから次式が導かれる。

$\displaystyle a^{\mu\ }_{\ \nu}=\D{x'^\mu}{x^\nu}$ (C.99)

この行列によって変換されるベクトルは反変ベクトルと呼ばれる。 ここまでに表われた四元ベクトルはすべて反変ベクトルである。

続いて、空間微分 $ \mathop{\emph ▽}\nolimits $ に対する四元空間微分演算子の変換を調べてみよう。 S' 系での $ {\displaystyle\left(\mathop{\emph ▽}\nolimits ',\D{}{(ct')}\right)}$ は次のように書ける。

    $\displaystyle \D{}{x'}=\D x{x'}\D{}x+\D{(ct)}{x'}\D{}{(ct)}
=\gamma\left(\D{}x+\beta\D{}{(ct)}\right)$ (C.100)
    $\displaystyle \D{}{y'}=\D y{y'}\D{}y=\D{}y$ (C.101)
    $\displaystyle \D{}{z'}=\D z{z'}\D{}z=\D{}z$ (C.102)
    $\displaystyle \D{}{(ct')}=\D x{(ct')}\D{}x+\D{(ct)}{(ct')}\D{}{(ct)}
=\gamma\left(\D{}{(ct)}+\beta\D{}x\right)$ (C.103)

ここで、 $ \partial x/\partial x'$ などの計算にはローレンツ逆変換を利用している。 この結果を見ると、 $ (d\emph r,d(ct))$ などとは異なる、次成分を持つ 行列 $ b_{\mu\ }^{\ \nu}$ により変換される。

$\displaystyle \left(\begin{array}{cccc} \gamma & 0 & 0 & \gamma\beta \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ \gamma\beta & 0 & 0 & \gamma \end{array}\right)$ (C.104)

この変換はローレンツ逆変換になっており、 変換行列は互いに逆行列の関係になっている。

    $\displaystyle \sum_\mu a^{\mu\ }_{\ \lambda}b_{\lambda\ }^{\ \nu}
=\delta^\mu_\nu$ (C.105)
    $\displaystyle \sum_\mu b_{\mu\ }^{\ \lambda}a^{\lambda\ }_{\ \nu}
=\delta^\mu_\nu$ (C.106)

このように、 ローレンツ逆変換を受けるベクトルを共変ベクトル(covariant vector)と呼ぶ。

上式を利用すると、 「任意の反変ベクトルと共変ベクトルの積は不変量となる」ことが直ちに得られる。

$\displaystyle \sum_\mu A'^\mu B'_\mu =\sum_{\mu\nu\lambda}a^{\mu\ }_{\ \nu}A^\n...
... =\sum_{\nu\lambda}\delta_{\nu}^{\lambda}A^\nu B_\lambda =\sum_{\nu}A^\nu B_\nu$ (C.107)

共変ベクトルは、次に示す $ g^{\mu\nu}$ を成分とする行列 $ g$ を掛けることにより、簡単に反変ベクトルとすることができる。

$\displaystyle g=\left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -1 \end{array}\right)$ (C.108)

これは $ \sum_\nu g^{\mu\nu}B_\nu$ を変換した結果が、 $ \sum_\nu g^{\mu\nu}B'_\nu
=\sum_\nu g^{\mu\nu}\sum_\nu b_\nu^\lambda B_\lambda$ に一致すること確認すればよいが、 $ \sum_\nu g^{\mu\nu}a^{\nu\ }_{\ \lambda}
=\sum_\nu g^{\mu\nu}\sum_\nu b_\nu^\lambda$ なので、直ちに証明できる。

同様にして、反変ベクトルに上記行列成分と同じ値を持つ行列 $ g_{\mu\nu}$ を掛けることにより、共変ベクトルとすることができる。


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Yoichi OKABE 2008-03-29