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スカラー場の勾配

面積分の応用として、スカラー場$ \phi $勾配(gradient)について述べよう。 勾配とは、スカラー場が考えている領域で平均として、 どちらの方向に強くなっていくかを示すものである。 前述の圧力場もスカラー場の一例であったが、圧力を面ベクトルで積分した結果は、 圧力に勾配がある場合にのみ浮力という力が現れた。 そこで、次式のように面積分をスカラー場$ \phi $の重みを付けて実行してみよう。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\,\phi$ (32)

すると、$ \phi $の大きいところの $ d\boldsymbol{S}$が強調される。 つまり積分結果は$ \phi $の小さい辺りから大きい辺りへ向くベクトルとなる。 その結果はスカラー場の勾配の程度を表すことになる。 これを勾配積分(gradient integral)と呼ぼう。

この定義を利用すると、次式により、 任意の点のまわりの小さな体積領域$ \Delta V$の局所的な勾配を定義することができる。 勾配積分が$ \Delta V$に比例することから、 勾配積分を$ \Delta V$で除している。 この式で定義される量は$ \phi $grad(gradient)、もしくは単に勾配ともいう。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \phi\,\equiv\,\lim_{\Delta V\rightarrow0} \frac1{\Delta V}\oint_\text S d\boldsymbol{S}\,\phi$ (33)

スカラー場$ \phi $が比較的緩やかに変化する場合、 この式は次式の微分により計算することができる。 これを $ \mathop{\emph ▽}\nolimits \phi$とも書く。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \phi=\mathop{\emph ▽}\nolimits \phi=\boldsymbol{i}\D\phi x+\boldsymbol{j}\D\phi y+\boldsymbol{k}\D\phi z$ (34)

$ \mathop{\emph ▽}\nolimits $ナブラ, nabla)は、ベクトル表示されたベクトル微分演算子である。

$\displaystyle \mathop{\emph ▽}\nolimits \,\equiv\,\boldsymbol{i}\D{}x+\boldsymbol{j}\D{}y+\boldsymbol{k}\D{}z$ (35)

これを$ \phi $に左から形式的にベクトルとして掛け、 そこで得られた形を見ると、微分形と同じになることから、 しばしば便利に用いられる表示法である。 当然のことながら、純粋なベクトルではないので、 $ \phi\mathop{\emph ▽}\nolimits $と書くことはできない。

スカラー場$ \phi $が比較的緩やかに変化し、かつ領域が小さい場合には、 この積分を一次の近似の範囲内で簡単に計算することができる。 まず領域の付近で$ \phi $をテイラー展開する。

$\displaystyle \phi=\phi_0+\D\phi x\,(x-x_0)+\D\phi y\,(y-y_0)+\D\phi z \,(z-z_0)+O^2$ (36)

ここで、 $ \partial\phi/\partial x$などは展開の係数であり、現在考え ている範囲では一定値としてよい。

上式を一次の近似の範囲で勾配積分してみよう。 一定値の積分は0であり、$ x$$ y$$ z$に比例する部分は それぞれ $ \boldsymbol{i}V$ $ \boldsymbol{j}V$ $ \boldsymbol{k}V$になるので、 次式が得られる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\,\phi=V\left(\boldsymbol{i}\D\phi x +\boldsymbol{j}\D\phi y+\boldsymbol{k}\D\phi z\right)+\boldsymbol{O}^2$ (37)

つまり、勾配積分の結果は閉曲面の形によらず、囲む領域の体積に比例する。

例として、水中の圧力のように、 $ z$方向に徐々に強くなるスカラー場を考えてみよう。

$\displaystyle \phi=\phi_0+\phi_zz$ (38)

2.13を用いて、 この $ \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits $を求めると確かに$ z$方向を向いており、 スカラー場の面積分が勾配の程度を表していることが理解できよう。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \phi=\boldsymbol{k}\phi_z$ (39)

また、電磁気学でよく現れる代表的なスカラー場として$ \phi=1/r$があるが、 これを上式に代入してみると、次式が得られる。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \left(\frac1r\right)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \boldsymbol{i}\,\D{\,(r^{-1})}x+\boldsymbol{j}
\cdots+\boldsymbol{k}\cdots$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \boldsymbol{i}\left(-r^{-2}\frac xr\right)+\boldsymbol{j}\,(\cdots)\,
+\boldsymbol{k}\,(\cdots)\,=-\frac{\boldsymbol{r}}{r^3}$ (40)

この右辺のベクトルは、クーロンの法則(Coulomb law)などに現れる、 原点を中心とした放射状で距離の二乗に反比例する大きさを持つベクトル場になる。 一般に、 このような放射状で二乗に反比例するベクトル場はクーロン場(Coulomb field)と呼ばれ、 電磁気学ではもっとも頻繁に出現するベクトル場である。

次に大きな閉曲面上での面積分を計算してみよう。 囲まれた領域を図 2.4のように賽の目に切ると、 各微小領域では式2.12が成立している。 この式の左右を入れ替え、両辺を$ dV$倍して全領域で合計すると、 右辺は $ \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \phi$の体積積分になる。 一方、左辺の面積分は境界面で互いに打ち消し合い、 最表面の面積分だけが生き残るから、次の積分定理が得られる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\,\phi=\int_\text VdV\,\mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \phi$ (41)

この式をスカラー場のガウスの定理(Gauss theorem of scalar field)と呼ぼう。

図 2.4: 閉局面で囲まれた領域を賽の目に切る。
\begin{figure}\centering
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(72,77)
\put(0,0){\sp...
....cubic.dps llx=139 lly=694 urx=211 ury=771 rwi=720}}
\end{picture}
\end{figure}

この式を含め、次節以後に現れる面積分を体積積分に結び付ける公式は、 一般にガウスの定理(Gauss theorem)と呼ばれ、同じような手順を、 ベクトル場の発散積分や回転積分に対して適用することで、 発散や回転の微分形を求めることができる。

なお、 $ \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits $については、もう一つ大事な性質が存在する。 $ \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \phi$の微分形の定義の両辺に、 微小変位 $ d\boldsymbol{r}=\boldsymbol{i}dx+\boldsymbol{j}dy+\boldsymbol{k}dz$をスカラー的に掛ける。 すると右辺はちょうど$ \phi $の全微分の定義になる。

$\displaystyle d\boldsymbol{r}\cdot\mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \phi=\D\phi x\,dx +\D\phi y\,dy+\D\phi z\,dz =d\phi$ (42)

したがってこれを積分することにより、 積分路の終点と始点の$ \phi $の差が得られる。

$\displaystyle \int_$$\displaystyle \text P^\text Qd\boldsymbol{r}\cdot\mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \phi =\phi(\text Q)-\phi(\text P)$ (43)

このように線積分でも、面積分と同様に、 線積分要素 $ d\boldsymbol{r}$とベクトル量の内積をとって、 それを足し合わせることで、線積分という概念が定義されるのである。 この他、ベクトル量との外積を足し合わせるとか、 スカラー量を掛けて足し合わせる線積分も存在する。


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日