電場は点電荷の作る場を基に、きれいな理論体系を構築できたが、 磁場の場合には何を基にしたらよいのだろう。 若干面倒なのは、磁場の発生源は電流であり、電流は電荷のような点ではなく、 方向も持っているし、かつ三次元空間に形を持っているからである。
磁場源としてよく用いられるものは、磁荷(magnetic charge)、電流素片(current element)、
微小電流ループ(micro current loop)の三種類である。
これらのうち、歴史的に最も古くから使われてきた磁場源は磁荷である。
磁荷は電荷と同じようにクーロンの法則(Coulomb law)に従う磁場を発生する。
以後、クーロン場(Coulomb field)と呼ぼう。
不思議なのは、磁荷が単独で観測されることがなく、
必ず正負対になって存在することである。
そのことさえ気にしなければ、理想的な磁石の片側の磁極(magnetic pole)の作る磁場は、
磁極から放射状の方向を持ち、静電場と同様の形で与えられる。
ただし、
は磁荷であり、N極の場合に正、S極の場合に負とする。
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(3.10) |
磁荷モデルは静電場との相似性が高く、理論的には扱い易かったが、 そのうち電流が同じような磁場を作り、さらに、磁性体の作る磁場も、 内部電流の作る磁場であることが分ってくるにつれ、 電流を源と考える必要が増してきた。 しかし、電流路は複雑な形があり得るので、 それをどう取り扱うかはかなりの困難を生じる。 そこで考えだされたのが電流素片(current element)という概念である。 これは電流路を短かい寸法に切離したときの、各領域のことを言う。 その電流素片がどんな磁場をを作るのかという一種の仮説である。 これをビオ・サバールの法則(Biot-Savart law)と呼ぶ。
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実は、電流素片の先端から無限遠に電流が湧き出し、 終端は無限遠から電流を吸い込んでいるような形にすると、 その全体の作る磁場はビオ・サバールの法則と同じ形になることが判明している。 これは大きな水槽のようなものの中で実験することで実証可能である。 このような電流分布を持つものを繋ぎ合せると、 前の電流素片の先端から湧き出す電流と、 後の電流素片の終端が吸い込んでいる電流がキャンセルし合うため、 すべてをループ状に繋いだ瞬間、全体の電流ループと同じ形になる。
電流素片のもう一つの難点は、回転積分との対応が悪いことである。 静電場のときには、閉曲面内に電荷がなければ発散積分は0となり、 閉曲面内にあれば0でなくなるという明解な差が生じた。 一方、静磁場では回転積分がこれに対応するが、 電流素片が閉曲面外あっても回転積分が存在してしまう。 こう言った点から電荷に対応するような別の源があると分りがよいことが 期待される。
本書で採用する磁場源は、有限長の細いソレノイド(solenoid)である。 ソレノイドとは、図 3.1に見られるように、 円筒表面状にコイルを巻き付けた空心の電磁石である。 コイルというと、現実的には導線を螺旋状に巻き付けて作るが、理想的には、 十分に細い導線を一巻ごとに巻始めと巻終りが一致するように巻いた単巻コイルを、 長軸方向に垂直に稠密に積み重ねたものを想定する。 ソレノイドの断面積は非常に小さく、磁極と観測点の距離から見ると、 ほぼ点にみなせる程度である必要がある。 また、ソレノイドの断面の面積は一定でなければならないが、 ソレノイドの長さ方向の形状は直線である必要はなく、図のように曲っていてよい。 ただ、断面寸法に比べ、十分ゆっくり曲っている必要がある。 ただし、我々は当面、直線的なソレノイドだけを扱おう。
棒磁石(bar magnet)は内部電流が流れており、ソレノイドと等価である。 この際、電流と磁荷の関係は、右ネジをS極からN極に向けて置くと、 電流はネジを進める方向、つまり右回転方向に流れる。 そして、ネジの進行方向から磁場が湧き出すことになる。 これを、右ネジの関係(right screw relation)という。 この関係から、N極とS極が必らず対になって表われることも理解できる。
実際の磁石の中の電流は、磁性原子の電子スピンや電子軌道などにしたがって、 分布して流れているのであるが、 それをならして観測できる程度のマクロな視点で見ると、 隣接する内部電流は互いに相殺し、結局、もっとも外壁の電流のみが観測できるので、 ソレノイドによる等価表現は、かなりよい近似となっている。 近似といっても、電磁気学を構築するまでの話であり、 電磁気学そのものは精密な理論であるので、それをよりミクロな物理の理解に使って、 何ら問題はないことは言うまでもないであろう。
電流がすべて磁石の側面を流れているとして、等価性を定量的に議論しよう。 磁石の形状を直方体としてみよう。 等しい磁石を横に二つ集めると、それらの作る磁場は、磁荷が二倍になるので、 遠方で観測する限り二倍となる。 一方、側面電流は、二つの磁石の境界では相殺し合って消え失せるが、 最表面では元々の電流値と同じである。 同様にして、多数の磁石を集めることにより、任意形状の磁石を作ることができるが、 その磁場は磁石の個数に比例する。 一方、周辺電流は同じであるので、磁極の強さは断面積に比例することがわかる。
次に等しい磁石を縦に繋いでみよう。 二つの磁石の境界では、N極とS極が相殺するため、最両端のN極とS極しか残らない。 つまり磁荷は変らない。 一方、側面の電流密度も変らない。 そこで前文の考察と合せて、磁石とソレノイドの関係は、 次のように表わされることが理解できよう。
あるいは、棒磁石でもソレノイドでも、クーロン場を作り出す磁荷は、 両端に一様に発生すると考えられるので、磁荷密度で言うと次のようになる。
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(3.13) |
棒磁石の場合、磁荷はその両極に発生することになるのであるが、等価性から、 ソレノイドの場合にも同じ場所に磁荷が発生することになる。 しかし、ソレノイドの両端はただの空間であり、 何も特別なものが存在している訳ではない。 磁場はそこでも連続でなければならない。 これは電荷から発散する電場ともっとも異なる点である。
実測からもわかることであるが、ソレノイドの内部には、前述のクーロン場に加え、 ソレノイドの長軸に平行に、S極側からN極側に一様な場が存在するのである。 この場を加えることにより、ソレノイドの両端は特別な場所ではなくなり、 磁場は連続的になる。 この一様な場は次式で与えられる。
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実際、両端でクーロン場だけの発散は、
単位面積当り
であるが、
そこへ一様な場の負の発散が同量だけあるので、発散の総和は丁度0となる。
つまり、磁場は連続となるのである。
棒磁石の内部の磁場は計測不能であるが、ソレノイドと同じ形であると考える。
これにより、磁場はいかなる場合でも連続であることが保証される。
ソレノイドが曲っていても、この追加の磁場は、 ソレノイドの長軸に沿って発生する。 より厳密には、面積に拡がった正の磁荷が作るクーロン場と、 同じく拡がった負の磁荷が作るクーロン場と、長軸に沿った上記磁場の総和となる。 実際にこの総和を計算してみると、棒磁石であろうと、ソレノイドであろうと、 ギクシャクとしないきれいに連続した磁場が得られ、 実測の磁場とのよい一致を感じることができる。