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静磁場の性質

まず、微小電流ループの作る磁場の発散積分を求めよう。 微小電流ループといってもソレノイドの一種である。 ソレノイドは前述のように発散のない磁場しか作らないから、 発散積分はいかなる場合でも0となる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\cdot\emph B=0 %3.16
$ (3.15)

どんな電流ループも微小電流ループに分解することができることから、 この式はどんな電流ループ、あるいはどんな磁石が作る磁場に対しても、 成立する式である。 この式の左辺は $ \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot}\nolimits \emph B$の体積積分となっているので、 体積積分記号を外すと直ちに次式が得られる。

$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot}\nolimits \emph B=0%3.17
$ (3.16)

このように、磁場の場は、電場とは逆に、 いたるところ発散の存在しない場である。 つまり、磁力線が連続となることを示している。 磁石でもソレノイドでも、磁極から発生するクーロン磁場の磁力線は、 ソレノイド中の一定磁場の磁力線が補っており、 磁極での不連続性はないように接続されているのである。 これが、電荷の作る電場と最も異なる点である。

続いて閉曲面上での回転積分を計算しよう。 クーロン場の回転積分は、静電場の場合に計算したように、常に0となる。 したがって、内部磁場の補正分だけを考えればよい。 これが回転積分に寄与するのは、言うまでもなく、 この補正磁場が閉曲面に絡んでいるときだけである。 つまり、微小電流ループが閉曲面に絡んでいる場合だけを考えればよい。 なお、微小電流ループが完全に閉曲面外にあるとき、 あるいは完全に閉曲面内にあるときには、回転積分は0となる。

Figure 3.2: 微小電流ループと閉曲面の交差
\begin{figure}\begin{center}
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(149,95)
\put(0,0...
...\makebox(0,0)[b]{{\footnotesize\rm S}}}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

図 3.2のように磁石の両磁極共、あるいは 片側が閉曲面と交差している場合には、回転積分は次のようになる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph B=\mu_0I\int_V\emph{dr}$ (3.17)

証明は次のようである。 その交差領域の面積を$ dS$とすると、回転積分は次のように計算できる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph B=\emph{dS}\times \emph B=\frac t{\sin\theta}\,\mu_0K\sin\theta\,\emph{dl} =\mu_0I\,\emph{dl}=\mu_0I\int_V\emph{dr}$ (3.18)

ただし、$ t$は磁石の厚さである。

最後の等号は分りづらいかも知れない。 交差領域の一辺$ \emph{dl}$を、閉曲面内の電流路に沿った 微小線分ベクトル$ \emph{dr}$の積み重ねたものにより置き換えている。

微小磁石が完全に閉曲面の外部にある場合には、右辺は明かに0となり、 前の考察結果と矛盾しない。 また完全に内部にあるときには、右辺の線積分は始点と終点が同じになる 一周積分となるため、やはり0となり、前の考察と矛盾しない。

さらに、ここでは議論を省略するが、微小磁石の片側の磁極のみが閉曲面と 交差するよう場合にも同じ結果が得られる。

Figure 3.3: 大きな電流ループの作る磁場は、微小電流ループの作る磁場の総和 で与えられる
\begin{figure}\begin{center}
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(148,54)
\put(0,0...
...lx=108 lly=717 urx=256 ury=771 rwi=1480}}
\end{picture} \end{center}\end{figure}

図 3.3に示すように、 ある程度広い曲面を囲む閉曲線を考え、この曲面を、小さな領域に分割してみる。 そしてその小さな各領域ごとに、すべて同じ値の周回電流が流れているとしてみよう。 すると、隣接し合う微小ループの境界では、互いに電流が打ち消し合うので、 結局、最外周の電流のみが生き残ることになる。 このことから、大きな電流ループは、 微小電流ループの集合で表現できることが理解できよう。 このことから、大きなループの電流についても、次式が成立する。 3.1

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph B=\mu_0I\int_V\emph{dr} %3.13
$ (3.19)

つまり、磁場の回転積分は、電流のうち、 閉曲面に囲まれた部分を方向も含めて合計したもので与えられる。 これをアンペールの面積分法則(Ampere surface integral law)と呼ぶ。 重ねて述べるが、磁場の回転積分は、 積分を行なう閉曲面と電流路が交差するときだけ0でない値を持つが、 電流路全体が閉曲面内に入っている場合や、 全部が閉曲面外に存在する場合は0となる。

ここで、一般の電流分布の代表を何故ループにしたのかという疑問に答えておこう。 それは電流は恒に連続でなければならないからである。 どんな電流も必ずぐるっと回って、元の地点に戻ってくるからである。 直線電流はそうなっていないではないかという反論があるかも知れないが、 直線電流は理論上の存在であって、実際に実験しようとすると、 巨大な戻り線を十分遠方に配置することで実現するしかないのである。

さて、前出の式の右辺は、閉曲面内の電流のベクトルとしての総和になっているが、 電流が分布して流れている場合には電流密度Jの体積積分となる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph B=\mu_0\int_VdV\,\emph J %3.13
$ (3.20)

また、左辺は $ \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph B$の体積積分になっている。 したがって、体積積分記号を外すと直ちに、 アンペールの法則の微分形(differential form of Ampere law)と呼ばれる次式が得られる。

$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph B=\mu_0\,\emph J%3.14
$ (3.21)

この式から一つ重要な法則を導き出すことができる。 両辺のdivをとると、任意のベクトル場のdiv rotは0になることから、 次式が導かれる。

$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot}\nolimits \emph J=0 %3.15
$ (3.22)

電流密度ベクトルの発散が常に0ということは、 電流が連続であるということを示している。 これを、電流連続の法則(current continuity law)という。

なお、ビオ・サバールの法則から、 アンペールの法則が直接導けないかと予想する読者も多いかと思われる。 残念ながら、電流素片の作る磁場からはアンペールの法則は導けないのである。 例えば、球面での回転積分をその中心に電流素片を置いて実行してみよう。

$\displaystyle \frac{\mu_0I}{4\pi}\int dS\,\frac{\sin\theta}{r^2} =\frac{\mu_0I}...
...{2\pi}r^2 \sin\theta\,d\theta\,d\phi\,\frac{\sin\theta}{r^2} =\frac\pi4\,\mu_0I$ (3.23)

期待する右辺は$ \mu_0I$であるので、やや少い値しか得られない。 しかも、電流素片の位置を変えてみると、この係数は値が変るのである。

点電荷は静電場において、極めて便利な要素であった。 点電荷が閉曲面の外にあると、発散積分にはまったく影響を与えないからである。 これと比較すると、電流素片はそのような要素になっていない。 例えば、球外に半径方向に置かれた電流素片は、球面上に回転的な磁場を作りだす。 そのため、回転積分が存在するのである。 上の式が期待通りにならないのは、この辺の事情が深く関与している。

回転の伝統的な表現であるアンペールの線積分法則を、 微小電流ループに対して求めてみよう。 これも、微小電流ループの優位さを示すことになるのだが、 微小電流ループが閉曲線に絡んでいるときだけ、スカラー積線積分に寄与がある。 まず、前章で述べたように、 微小電流ループの両極の磁荷が発生するクーロン場の線積分は0である。 したがって、磁石内部の補正磁場だけが議論の対象となる。 したがって、微小電流ループが閉曲線と絡まないときには、積分に寄与しない。

ここでも、微小電流ループは十分薄いとし、 両磁極が閉曲線と交わる場合だけを検討する。 ここでは議論を省略するが、仮に電流路の一部だけが交わる場合も結果は同じになる。 まずクーロン場は回転がないので、線積分には効いてこない。 このため、磁極間の一様磁場の積分だけを行なえばよい。 また微小電流ループは十分小さいので、積分路はほとんど直線に見えるとして、 計算を行なう。

$\displaystyle \oint_S\emph{dr}\cdot\emph B=\emph{dr}\cdot \emph B=\frac t{\sin\theta}\,\mu_0K\sin\theta=\mu_0I$ (3.24)

大きな電流ループの場合も、それを構成している微小磁石のうち、 閉曲線と交差しているものだけが線積分に寄与するので、 $ I$は閉曲線を通過する全電流として、上と同じ結果が得られる。 これがアンペールの線積分法則(Ampere line integral law)である。

$\displaystyle \oint_S\emph{dr}\cdot\emph B=\mu_0I$ (3.25)

同じ法則を別の方法で求めることもできる。 式3.21で表わされるアンペールの法則の微分形を、 任意の閉曲線$ C$で囲まれた曲面上$ S$で、スカラー積の面積分をしてみよう。

$\displaystyle \int_S\emph{dS}\cdot\mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph B =\mu_0\int_S\emph{dS}\cdot\emph J %3.18
$ (3.26)

左辺は、式2.54で表わされるスカラー積線積分の定理により、 $ \emph B$の閉曲線上の線積分に置き換えることができ、 同じアンペールの線積分法則が得られる。

$\displaystyle \oint_S\emph{dr}\cdot\emph B =\mu_0\int_S\emph{dS}\cdot\emph J=\mu_0I %3.19
$ (3.27)

アンペールの面積分法則(Ampere surface integral law)もアンペールの線積分法則(Ampere line integral law)も、 単にアンペールの法則(Ampere law)と呼ぶが、多くの書では特に後者を指すことが多い。 本書でも、単にアンペールの法則と言った場合は、 この式3.27を指すこととする。 なお、閉曲線で囲まれた面を通過する電流をしばしば、 閉曲線に鎖交(cross-link)する電流と呼ぶ。 また、逆に、電流ループを通過する磁束も鎖交すると呼ぶ。

教育法
ややしつこくなるが、本稿の目的の一つは、 磁場の導入教育を変更できないかということにもあるので、 私の提案している教育法をまとめておこう。
  1. 細いソレノイドまたは棒磁石の間の力が、 磁極間のクーロンの法則に従うことを示す。
  2. この結果、これらの作る磁場がクーロンの法則で与えられることを示す。
  3. ソレノイド内部には、 これら両極の磁場の作る磁束と連続となるような一様な磁場の存在することを示す。 その磁場の存在は、ソレノイド中に別のより細い磁石を入れて力を測ることにより、 証明できる。
  4. 細いソレノイドの作る磁場のベクトル積面積分を計算し、 この閉曲面に囲まれた電流ベクトルの総和になることを示す。
  5. 任意の電流分布が、細いソレノイドの組み合せで構成できることを示し、 外積面積分の形のアンペールの法則を誘導する。

アンペールの面積分法則の応用として、 ビオ・サバールの法則(Biot-Savart law)を導き出してみよう。 本節の最初に述べたように、電流素片だけではなく、 素片の先端から湧き出す電流と終端へ吸い込まれる電流の全体が作る磁場を、 計算してみよう。

その準備として、放射状電流の放射点を原点とし、 $ z$軸から$ \theta$だけ離れたところに円があるとして、 その円が、全放射状電流のどれだけと鎖交するかを求めておこう。 原点を中心にし、この円を通る球を考え、その球が取り囲む球面積を、 全球面積で割ってやればよい。 球の半径を$ r$とすると、この面積は次のようにして求められる。

$\displaystyle \left.\int_0^\theta d\theta\ 2\pi\sin\theta\,r^2 =-2\pi\cos\theta\,r^2\right\vert _0^\theta =2\pi(1-\cos\theta)\,r^2 %3.20
$ (3.28)

この結果を利用して、$ z$のところにある半径$ \rho$の円に、 放射状電流がどれだけ鎖交するかを求めると、 $ z>0$$ z<0$のそれぞれに対し、次のようになる。

$\displaystyle I\,\frac{1-\cos\theta}2$ $\displaystyle =$ $\displaystyle I\left(\frac12-\frac z
{2\sqrt{\rho^2+z^2}}\right)$ (3.29)
$\displaystyle -I\,\frac{1-\cos\theta}2$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -I\left(\frac12+\frac z
{2\sqrt{\rho^2+z^2}}\right)
%3.21
$ (3.30)

電流素片の方向を$ z$軸とする。 $ z$軸の任意の点を通り、それに直角な面で、 軸から半径$ \rho$のごく薄い円板を置き、その円板の表面で面積分を実行する。 電流が$ z$軸に対称であることから、磁場は$ z$軸を中心にした円に沿うように、 かつ、電流に対し右ネジの関係の方向に、半径と高さで決まる一定値をとる。 円板の上下面での積分は外積が中心方向を向くことから、すべて相殺し、 側面の積分だけが生き残る。 その値は、円板の厚さ$ t$が十分薄い場合には磁場と側面積の積となり、 $ 2\pi\rho Bt$である。

Figure 3.4: 閉曲線と鎖交する放射状電流は立体角で計算できる
\begin{figure}\begin{center}
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(117,144)
\put(0,...
...){\makebox(0,0)[b]{{\footnotesize$z$}}}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

一方体積中の電流のベクトル的総和は$ z$軸方向を向くので、 電流の$ z$成分の総和をとる、つまり、 この円周に鎖交する電流と厚みの積をとればよいが、 これは円板の位置によって異なる。 囲みの結果を利用して、図 3.4のように、 $ z=L/2$に発散電流の放射点があり、$ z=-L/2$に集束電流の放射点があり、 それらの間に電流素片がある場合に、円に鎖交する総電流を求めると、 $ z$が両放射点より上、または下になっているときには、 放射状発散電流と放射状集束電流のみの鎖交量を求めればよいし、間にある場合には、 それに加え、電流素片との鎖交量を考える必要がある。

$ z>L/2$の場合には

$\displaystyle I\left(\frac12-\frac{(z-L/2)}{2\sqrt{\rho^2+(z-L/2)^2}}\right) -I\left(\frac12-\frac{z+L/2}{2\sqrt{\rho^2+(z+L/2)^2}}\right) \\ $    

$ L/2>z>-L/2$の場合には

$\displaystyle -I\left(\frac12+\frac{(z-L/2)}{2\sqrt{\rho^2+(z-L/2)^2}}\right) -I\left(\frac12-\frac{z+L/2}{2\sqrt{\rho^2+(z+L/2)^2}}\right)+I \\ $    

$ z<-L/2$の場合には

$\displaystyle -I\left(\frac12+\frac{(z-L/2)}{2\sqrt{\rho^2+(z-L/2)^2}}\right) +I\left(\frac12+\frac{z+L/2}{2\sqrt{\rho^2+(z+L/2)^2}}\right) \\ $    

さて、$ L$$ z$$ \rho$に対し十分小さいとして、以下のように近似する。

$\displaystyle \frac1{\sqrt{\rho^2+(z-L/2)^2}}=\frac1r+\frac{zL}{\,2r^3} %3.23
$ (3.31)

その結果は、至るところ同じ形となる。

$\displaystyle IL\left(\frac 1{2r}-\frac{z^2}{2r^3}\right) =\frac{IL\sin^2\theta}{2r} %3.24
$ (3.32)

この式を$ \mu_0t$倍し、円板の側面積 $ 2\pi\rho t=2\pi r\sin\theta
t$で割ると、ビオ・サバールの法則の磁場が得られる。

$\displaystyle B=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{IL\sin\theta}{r^2} %3.25
$ (3.33)

ビオ・サバールの法則とは、 この磁場を電流素片だけが作っているとみなしたものである。

同様の結果は、アンペールの線積分法則からも得ることができる。 その場合には円板の周辺の位置に積分路を置けばよい。 磁場は積分路に鎖交する電流を積分路の長さで割り、 さらに$ \mu_0$倍すればよいから、結果は上記の計算とまったく同じになる。


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Yoichi OKABE 2008-03-29