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ベクトル場の発散

ベクトル場として流体の各点の流速のようなものを考えよう。 ある面を通過して単位時間当たり、どれだけ流れ出していくかは、 ベクトルの面垂直成分と面積を掛ければ計算できる。 このように、ベクトル場に対して、場を流れのように見なし、 それがある領域からどのくらい流れ出ているかを示す概念を発散(divergence)と呼ぶ。 ベクトル場に対して、これと同じ計算をしたものを発散積分という。 考えている面上で、ベクトル場が出たり入ったりするときには、 面全体を十分細かな微小面積に分割し、 各微小面積で計算した結果を、合計すればよい。 つまり、ベクトルの面垂直成分を考え、それを面全体で積分すればよい。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{A}$ (44)

これを発散積分(divergence integral)と呼び、ベクトル場の発散の程度を示すものとする。 例えば、クーロン場 $ \boldsymbol{r}/r^3$は、原点を中心に、 外向きに光輪のように配列しているので、発散積分は正となり、 正の発散があることになる。

$ \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits \phi$と同様に、 一点の近傍の局所的発散の程度を次のように求めることができる。 この式で定義される量は $ \boldsymbol{A}$div(divergence)、もしくは単に発散とも呼ばれる。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{A}\,\equiv\,\lim_{\...
...V\rightarrow0} \frac1{\Delta V}\oint_\text S d\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{A}$ (45)

ベクトル場が比較的緩やかに変化する場合、 この式は次の微分により計算することができる。 これを $ \mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot\boldsymbol{A}$とも書く。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{A}=\mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot\boldsymbol{A}=\D{A_x}x+\D{A_y}y+\D{A_z}z$ (46)

ベクトル演算子 $ \mathop{\emph ▽}\nolimits $ $ \boldsymbol{A}$の形式的な内積をとることにより、 右辺の式の形が得られるので、これを $ \mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot\boldsymbol{A}$と記載するが、 あくまでも演算子であるので、 $ \boldsymbol{A}\cdot\mathop{\emph ▽}\nolimits $と書くことはできない。

ベクトル場が比較的緩やかに変化し、かつ領域が小さい場合には、 この発散積分を一次の近似で計算することができる。 まず領域の付近で $ \boldsymbol{A}=\boldsymbol{i}A_x+\boldsymbol{j}A_y+\boldsymbol{k}A_z$をテイラー展開する。

$\displaystyle \boldsymbol{A}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \boldsymbol{i}\left[A_{x_0}+\D{A_x}x\,(x-x_0)
+\D{A_x}y\,(y-y_0)+\D{A_x}z\,(z-z_0)\right]$  
    $\displaystyle +\boldsymbol{j}\,[\cdots]\,+\boldsymbol{k}\,[\cdots]\,+\boldsymbol{O}^2$ (47)

$ d\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{A}$を一次の近似の範囲で積分してみよう。 一定値の面積分は $ \boldsymbol{0}$であり、$ x$$ y$$ z$に比例する部分は、 $ \boldsymbol{i}V$ $ \boldsymbol{j}V$ $ \boldsymbol{k}V$になるから、次のようになる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{A} =V\left(\D{A_x}x+\D{A_y}y+\D{A_z}z\right)+O^2$ (48)

ただし、 $ \boldsymbol{i}$ $ \boldsymbol{j}$ $ \boldsymbol{k}$の異なるもの同士の内積は $ \boldsymbol{0}$にした。 ここでも、積分の結果は閉曲面の形によらず、囲む領域の体積に比例する。

スカラー場と同様に、大きな閉曲面上での発散積分を計算することができる。 囲まれた領域を賽の目に切ると、各微小領域では上式が成立している。 これを$ dV$として全領域で合計すると、左辺は $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{A}$の体積積分になる。 一方、右辺の発散積分は境界面で互いに打ち消し合い、 最表面の面積分だけが生き残るから、 次の面積分と体積積分を結び付ける式が得られる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{A} =\int_\text VdV\,\mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{A}$ (49)

これは、厳密にはベクトル場のガウスの内積定理(Gauss inner product theorem of vector field)と呼ぶべきものであるが、 三つのガウスの定理のなかでは、この定理がもっとも知られており、 以後、単にガウスの定理(Gauss theorem)というと、これを指すものとしよう。

例として、クーロン場、 $ \boldsymbol{r}/r^3$の発散積分 $ \oint_$$ \text Sd\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{r}/r^3$を考えてみよう。 このベクトル場は、電荷のような何らかの源が原点に置かれており、その結果、 そこから放射状の方向を取り、 原点からの距離の二乗に反比例する大きさを持っている。 この積分の結果は立体角を利用して次のようになることが知られている。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\cdot\frac{\boldsymbol{r}}{r^3}=4\pi$ (50)

証明は、通常、ややトリッキーな方法によりなされ、立体角を利用する。 発散積分の $ d\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{r}/r^3$なる項は $ dS\cos\alpha/r^2$になる。 ただし、$ \alpha$は、二つのベクトル $ d\boldsymbol{S}$ $ \boldsymbol{r}$のなす角度である。 そこで $ d\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{r}/r^3$は、 $ d\boldsymbol{S}$を 原点の方向から見た(つまり $ \boldsymbol{r}$の方向から見た)面積 $ dS\cos\alpha$を、 $ r^2$で除したものになる。 つまり、図 2.5に見られるように、 $ d\boldsymbol{S}$を見た 立体角になっている。 立体角とは、この四角錐が、原点を中心とし半径1の球面に作る面積のことである。 もし、閉曲面が原点を囲んでいるときには、 全閉曲面を見込む立体角の総和は$ 4\pi$となるから、 前式2.29が成立する。

図 2.5: 閉局面上の面要素を見込む立体角。
\begin{figure}\centering
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(68,77)
\put(0,0){\sp...
...(62.5,0.7){\makebox(0,0)[lb]{{\footnotesize\rm O}}}
\end{picture}
\end{figure}

一方、閉曲面が点電荷を囲んでいないときには、 点電荷から閉曲面の裏側を見る場合と、表側を見る場合の二つの場合が発生する。 いずれも見込む立体角は同じ値となるが、 表側については $ d\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{r}$が負となるため、負の立体角となる。 このため二つの場合を加えると0となる。 ひだが重なる閉曲面など、もっと複雑な場合でも、 立体角の正負をきちんと考えることにより、閉曲面が電荷を囲めば上式が成立し、 囲まなければ0となることが導かれる。

しかし、この発散積分の手順も、次のように内積面積分の定理を用いると、 著しく機械的、かつ簡単になる。 まず場の $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $を求めてみよう。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \left(\frac{\boldsymbol{r}}{r^3}\right)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \D{(xr^{-3})}x+\D{(yr^{-3})}y+\D{(zr^{-3})}z$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \left(r^{-3}-3xr^{-4}\frac xr\right)+\cdots\,+\cdots$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle 3r^{-3}-3(x^2+y^2+z^2)r^{-5}=0$ (51)

ただし、原点では被微分関数が$ \infty$となるので、 0とは断定できないので注意が必要である。

ここで、目的の任意の閉曲面上での発散積分を考えよう。 まず閉曲面が原点を囲まない場合は、 その内部の空間に内積面積分の定理を適用すると、 $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{A}=0$より左辺は0となる。 これより、Sが原点を囲まない場合に対し、次式がただちに導かれる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\cdot\frac{\boldsymbol{r}}{r^3}=0$ (52)

図 2.6: 原点を小さな球面で囲む。
\begin{figure}\centering
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(69,66)
\put(0,0){\sp...
...(42.2,21.6){\makebox(0,0)[lb]{{\footnotesize\rm O}}}
\end{picture}
\end{figure}

次に閉曲面が原点を囲む場合を考えよう。 まずこの閉曲面の中に、図 2.6に示すように、 原点を中心とする小さな球面を考える。 閉曲面の囲む空間から球の囲む空間を除外したいわば殻状の空間に対して、 内積面積分の定理を適用してみよう。 そこでは $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $は0であるので、左辺の体積積分は0となる。 一方、右辺の面積分はこの殻空間を囲む全表面となるので、 閉曲面上の発散積分と球面上の発散積分を加えたものになる。 しかし、球面上では $ d\boldsymbol{S}$は殻空間の外向き、 つまり原点の方向を向いている。 これを通常の原点から外向きの $ d\boldsymbol{S}$に定義し直すと、 符号が反転する。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\cdot\frac{\boldsymbol{r}}{r^3} -\oint_\text{球面}d\boldsymbol{S}\cdot\frac{\boldsymbol{r}}{r^3}=0$ (53)

この結果、閉曲面上での発散積分は球面上での発散積分と一致する。

第二項の球面上の積分はきわめて簡単に計算できる。 というのは、球面上では $ d\boldsymbol{S}$ $ \boldsymbol{r}$の方向は完全に一致しており、 球の半径を$ a$とすると、 $ d\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{r}/r^3=
dS\,a/a^3=dS/a^2$となる。 したがって、Sが原点を囲む場合に対し、次のようになる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\cdot\frac{\boldsymbol{r}}{r^3}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \oint_$球面$\displaystyle d\boldsymbol{S}\cdot\frac{\boldsymbol{r}}{r^3}
=\oint_$球面$\displaystyle dS\,\frac1{a^2}$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac1{a^2}\oint_$球面$\displaystyle dS
=\frac1{a^2}\,4\pi a^2=4\pi$ (54)

ここで $ \oint_$球面$ dS$は球の表面積$ 4\pi
a^2$となることを利用している。 この式と前式から閉曲面だけの発散積分が$ 4\pi$になることが、ただちに導かれる。

このように、ベクトル場 $ \boldsymbol{r}/r^3$の発散積分を、 内積面積分の定理で体積積分に置き換えると、原点付近だけが特別であり、 あとの空間の寄与はまったくないことが理解できよう。 したがって、閉曲面が原点を囲むか囲まないかだけが重要であり、 発散積分の結果が閉曲面の形に依存しないことが分かる。 このように閉曲面上の面積分が、 源付近だけの特異性によって決定されるようなことは、 電磁気でたびたび現れる現象である。

クーロン場の $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $を求めておこう。 本節で示したように、原点以外では $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $は0である。 問題は原点における $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $である。 式2.33から分かるように、原点を囲む積分は、 体積によらず一定であるので、 これを体積で割って得られる $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $は無限大に発散してしまう。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \left(\frac{\boldsymbol{r}}{r^3...
...ol{r}}{r^3} =\lim_{\Delta V\rightarrow0} \frac{4\pi}{\Delta V}\rightarrow\infty$ (55)

この処理法については、ある一点でのみ無限大となり、 その点を除くいたるところで0となり、 かつ全世界で体積積分すると1となるデルタ関数と呼ばれる関数を導入することにより、 解決することができるが、詳細は次節で述べる。

要は、クーロン場は、原点を除くあらゆるところで、 $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $が0、 つまり原点以外では発散のない比較的簡単な場であることが分かる。


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日