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ベクトル場の回転

ベクトル場の回転(rotation)について述べよう。 回転とはベクトルが渦状に並んでいることを指す。 地球のような閉曲面に沿って、ベクトル場が面の接線方向に絡み付いて、 ちょうど偏西風のように回っているとすると、 このベクトル場は明らかに地軸を軸とする渦上の流れを構成している。 もっと複雑な場合にも、次のような計算をすれば、 閉曲面全体で合計した渦の軸方向と強さを求めることができよう。

閉曲面の上のある面要素を考える。 そこで面の法線ベクトルとベクトル場の外積をとると、 その方向は回転軸の方向となり、ベクトルの接線方向の強さにもなっている。 ちょうど、力のモーメントのようなベクトルとなる。 これを面要素の重みを付けて合計すれば、 閉曲面全体をとりまく渦の方向と強さになろう。 外積があちこちを向いて全体として合計すると $ \boldsymbol{0}$になるときは、 渦はなかったというふうに考える。 流れの中に中心だけ固定したピンポン玉を入れたようなもので、 渦があればピンポン玉は、その渦にしたがって回転を始めるというアナロジーが、 分かりやすいかも知れない。

領域の周辺での回転の程度は次式で計算できる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\times\boldsymbol{A}$ (58)

これを回転積分(rotation integral)と呼ぼう。 この場合、外積が使われているため、もし $ d\boldsymbol{S}$ $ \boldsymbol{A}$ の順を入れ替えて記載する場合には、負号を付けねばならない。

例えば、直線上、下から上へ流れる電流の作る磁場は、 電流路を取り囲む円周に沿ったベクトル場になる。 これを電流路上の一点を中心とする球面上で回転積分をしてみると、 図 2.8に見られるように、 どの外積も球面に沿うベクトルになるが、球面から電流が流れ出す点、 つまり球の頭頂点を向いている。 これを積分すると上向きのベクトルとなる。 つまり、回転が存在し、その右ネジの進む方向のベクトルが得られる。

図 2.8: 面ベクトルと直線電流の作る磁場ベクトルとの外積は、 面内で頭頂点を向く。
\begin{figure}\centering
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(92,128)
\put(0,0){\s...
...36.0,122.0){\makebox(0,0)[b]{{\footnotesize\rm$I$}}}
\end{picture}
\end{figure}

一点の近傍の局所的回転の程度を次のように求めることができる。 この量は $ \boldsymbol{A}$rot(rotation)、もしくは単に回転とも呼ばれる。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{rot}}\nolimits \boldsymbol{A}\,\equiv\, \lim_{...
...ghtarrow0}\frac1{\Delta V}\oint_\text Sd\boldsymbol{S} \times\boldsymbol{A} \\ $ (59)

領域が小さく、ベクトル場が緩やかに変化している場合には、 この式を次の微分により求めることができる。 これを $ \mathop{\emph ▽}\nolimits \times\boldsymbol{A}$とも記載する。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{rot}}\nolimits \boldsymbol{A}=\mathop{\emph ▽...
...{j}\left(\D{A_x}z-\D{A_z}x\right) +\boldsymbol{k}\left(\D{A_y}x-\D{A_x}y\right)$ (60)

$ \mathop{\emph ▽}\nolimits \times\boldsymbol{A}$と同様に、 ベクトル演算子 $ \mathop{\emph ▽}\nolimits $ $ \boldsymbol{A}$の形式的な外積をとると、 微分形が得られるので、これを $ \mathop{\emph ▽}\nolimits \times\boldsymbol{A}$と記すが、 $ -\boldsymbol{A}\times\mathop{\emph ▽}\nolimits $と書くことはできない。

発散積分のときと同様に、領域の付近で $ \boldsymbol{A}=\boldsymbol{i}A_x+\boldsymbol{j}A_y+\boldsymbol{k}A_z$をテイラー展開する。 $ d\boldsymbol{S}\times\boldsymbol{A}$を一次の近似の範囲で積分すると、 一定値の面積分は $ \boldsymbol{0}$であり、$ x$$ y$$ z$に比例する部分は $ \boldsymbol{i}V$ $ \boldsymbol{j}V$ $ \boldsymbol{k}V$になるから、次のようになる。

    $\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\times\boldsymbol{A}$  
    $\displaystyle \quad=V\left[\boldsymbol{i}
\left(\D{A_z}y-\D{A_y}z\right) +\bold...
...t(\D{A_x}z-\D{A_z}x\right)+\boldsymbol{k}
\left(\D{A_y}x-\D{A_x}y\right)\right]$  
    $\displaystyle \qquad+\boldsymbol{O}^2$ (61)

ただし、 $ \boldsymbol{i}$ $ \boldsymbol{j}$ $ \boldsymbol{k}$の外積の計算は実行してある。

発散の場合とまったく同様に、回転の程度を、 大きな閉曲面上での回転積分により計算することができる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\times\boldsymbol{A} =\int_\text VdV\,\mathop\emph{\text{rot}}\nolimits \boldsymbol{A}$ (62)

厳密にはベクトル場のガウスの外積定理(Gauss outer product theorem of vector field)とでも呼ぶべきものであろうが、 以後、簡単にガウスの外積定理(Gauss outer product theorem)と呼ぼう。

例えば、クーロン場(Coulomb field) $ \boldsymbol{r}/r^3$の場合には、次のようになる。

$\displaystyle \oint_$$\displaystyle \text Sd\boldsymbol{S}\times\frac{\boldsymbol{r}}{r^3}=\boldsymbol{0}$ (63)

まず、クーロン場の $ \mathop\emph{\text{rot}}\nolimits $を計算してみよう。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{rot}}\nolimits \frac{\boldsymbol{r}}{r^3}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \boldsymbol{i}
\left[\D{(zr^{-3})}y -\D{(yr^{-3})}z\right]+\boldsymbol{j}
\cdots\,+\boldsymbol{k}\cdots$ (64)
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \boldsymbol{i} \left(-3zr^{-4}\frac yr+3yr^{-4}\frac zr\right)
+\boldsymbol{j} \cdots\,+\boldsymbol{k}\cdots\,=\boldsymbol{0}$  

この式は、少なくとも、被微分関数が$ \infty$となる原点を除いては、 必ず成立する。 式2.32に示したように、任意の閉曲面での発散積分は、 原点を囲む球殻上の積分に帰することができた。 その際の条件は、原点以外での $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $が0であることであった。 これと同様に、原点以外での $ \mathop\emph{\text{rot}}\nolimits $が0であるので、 任意の閉曲面に対する回転積分は、原点を囲む球殻上の積分と等しくなる。 さて球面上での回転積分であるが、 $ d\boldsymbol{S}\times\boldsymbol{A}$ $ d\boldsymbol{S}$ $ \boldsymbol{r}$がいつでも同方向であるため、 $ \boldsymbol{0}$となる。 したがって、球殻上の回転積分は明らかに $ \boldsymbol{0}$となり、 任意の閉曲面での回転積分も $ \boldsymbol{0}$となる。

別例として、直線電流の作る磁場を考えよう。 磁場のベクトルは、電流路からの距離を$ R$とするとき、 電流路を囲む円の円周方向を向き、大きさは比例係数を除いて$ 1/R$となる。 図 2.8に示すように、 球面上でのこのベクトルの回転積分を実行してみよう。 球の半径を$ r$とすると次のようになる。

$\displaystyle \oint_{球面}dS\,\frac{\sin\theta}R=2\pi L$ (65)

なお、電流路の長さ$ 2r$$ L$と置いた。 このように、右辺はこの体積中に存在する電流路の長さに比例する。

場のベクトルと $ d\boldsymbol{S}$の外積は、図のように、 球面に沿って頭頂点の方向を向いている。 二つのベクトルが直交していることから、外積には角度補正は必要としないが、 外積ベクトルの結果の総和を求めるときには、 電流路の成分を求めてから和をとる必要がある。

$\displaystyle \oint_{球面}dS\,\frac{\sin\theta}R=\int_0^\pi\int_0^{2\pi}r^2 \sin\theta\,d\theta\,d\phi\, \frac{\sin\theta}{r\sin\theta}=2\pi\,(2r)=2\pi L$ (66)

同じ回転積分を、別の手法で計算することもできる。 クーロン場の発散積分と同様に、電流路を囲む半径$ a$の筒状の領域と、 その部分を除いた領域の二つの積分の和に置き換えることができる。 除いた部分の積分は、このベクトル場の $ \mathop\emph{\text{rot}}\nolimits $ $ \boldsymbol{0}$であるので、 $ \boldsymbol{0}$となる。 筒状の領域の積分は、表面で外積がすべて同じ値の上向きで$ dS/a$ の値を持つベクトルとなることから簡単に計算できる。 $ 1/a$に筒状の領域の表面積を掛けた大きさ $ 2\pi(2r)=2\pi L$ のベクトルとなり、上記の結果と一致する。


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日