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電流の作る磁場

きわめて微小な電流ループの作る磁場を、きちんと計算しておこう。 ただし、この節は、数学的にやや面倒なので、読み飛ばしてもらっても構わない。

3.2節に示したように、微小電流ループと微小磁石は等価である。 これを利用して、まず微小磁石の磁荷モデルによる磁場を求めよう。 微小磁石は、長さ$ l'$、断面積$ \Delta S$の細長い形状とし、 両端に正負の磁荷$ Q_m$$ -Q_m$を有しているとしよう。 $ \boldsymbol{l}'$は十分小さなベクトルとし、 負磁荷および正磁荷の位置ベクトルを $ \boldsymbol{r}'$ $ \boldsymbol{r}'+\boldsymbol{l}'$とする。 なお、源側の座標変数には「$ '$」を付けた。 これら磁荷はクーロン場を作るので、磁場は次式のようになる。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=\frac{Q_m}{4\pi}\left(\frac{\boldsymbol{r}-\boldsy...
...dsymbol{r}-\boldsymbol{r}'} {\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^3}\right)$ (121)

ここで、微小磁石を十分小さくする、つまり$ l'$$ \Delta S'$をともに十分小さくした極限を考えよう。 右辺の前の二項は、 $ \boldsymbol{r}'$による微分の形をしている。 ただし、ベクトルを変数とするベクトル関数の微分であるので、 ちょっと工夫が必要であり、次式を利用して変形する。

$\displaystyle \boldsymbol{f}(\boldsymbol{r}'+\boldsymbol{l}')-\boldsymbol{f}(\boldsymbol{r}')$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \boldsymbol{i}
(f_x(\boldsymbol{r}'+\boldsymbol{l}')-\boldsymbol{f}_x(\boldsymbol{r}'))+\cdots$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \boldsymbol{i}\left(\D{f_x}{x'}l'_x+\D{f_x}{y'}l'_y+\cdots\right)+\cdots$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \boldsymbol{i}(\boldsymbol{l}'\cdot\mathop{\emph ▽}\nolimits \bo...
...
=(\boldsymbol{l}'\cdot\mathop{\emph ▽}\nolimits \boldsymbol{'})\boldsymbol{f}$ (122)

$ \mathop{\emph ▽}\nolimits $に「$ '$」が付いているのは、 $ \boldsymbol{r}'$を微分することを指す。

その結果は次式のようになる。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=\frac1{4\pi}(\boldsymbol{p}_m\cdot\mathop{\emph ▽...
...rac{\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^3}$ (123)

ただし、 $ \boldsymbol{p}_m=Q_m\boldsymbol{l}'$である。

なお、今後、電流モデルと比較したいため、 式3.15から得られた関係、 $ \boldsymbol{p}_m=Q_m\boldsymbol{l}'=\mu_0K\Delta S'\boldsymbol{l}'=\mu_0I\Delta\boldsymbol{S}'=\mu_0\boldsymbol{m}$を利用して、上式を書き換えておこう。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}(\boldsymbol{m}\cdot\mathop{\emp...
...rac{\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^3}$ (124)

ここで、電流に面積ベクトルを掛けて得られる $ \boldsymbol{m}$を、 磁気モーメント(magnetic moment)と呼ぶ。 簡単のために $ \boldsymbol{r}'=\boldsymbol{0}$として、この微分計算を実行すると、次式が得られる。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{3(\boldsymbol{m}\cdot\boldsymbol{r})\boldsymbol{r}-\boldsymbol{m}r^2}{r^5}$ (125)

さて、この場は磁荷モデルの結果であるので、発散はあるが、回転のない場である。 電流モデルの作る場は、逆に回転はあるが、発散のない場である。 そうするためには、磁極間に一様な磁場を追加する必要がある。 このモデルでは磁極は点磁荷であり、また距離は無限に短いとしているので、 追加すべき磁場はデルタ関数で与えられることになる。 この結果、発散がなく、回転がある微小電流ループの作る磁場は、 次式で与えられることになる。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}(\boldsymbol{m}\cdot\mathop{\emp...
...ol{r}'\vert^3} +\mu_0\frac{\boldsymbol{m}}{l'}b(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')$ (126)

ここで、第一項は負磁荷に入る放射状の磁場、 第二項は、負磁荷から正磁荷に向かう一様磁場である。 この一様磁場を表すのに、関数 $ b(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')$ と記載した関数を使っているが、 この関数は、負磁荷から正磁荷までを繋ぐ細い領域でだけ、 $ 1/\Delta S'$の大きさを有する線状デルタ関数である。

この第二項については、面積だけでなく、長さもきわめて短いことから、 点状デルタ関数で表すことができる。 関数$ b$に体積を掛けたものが$ l'$になることから、 第二項の体積積分は $ \mu_0\boldsymbol{m}$倍に収束するので、 以下のように変形することができる。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}(\boldsymbol{m}\cdot\mathop{\emp...
...ldsymbol{r}'\vert^3} +\mu_0\boldsymbol{m}\delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')$ (127)

上式は、デルタ関数を式2.36により、 クーロン場の $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $に置き換えることにより、 次にように書き換えられる。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}\left[(\boldsymbol{m}\cdot\matho...
...l{r}-\boldsymbol{r}'}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^3}\right)\right]$ (128)

$\displaystyle \mathop\emph{\text{grad}}\nolimits (\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbo...
...mbol{B}) +\boldsymbol{B}\times(\mathop{\emph ▽}\nolimits \times\boldsymbol{A})$    

の公式と $ \boldsymbol{m}$が一定であること、かつ、 $ \mathop{\emph ▽}\nolimits \boldsymbol{'}\times
[(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')/\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^3]=\boldsymbol{0}$を利用すると、 次のように変形できる。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=-\frac{\mu_0}{4\pi} (\boldsymbol{m}\times\mathop{\...
...rac{\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^3}$ (129)

簡単のために $ \boldsymbol{r}'=\boldsymbol{0}$として、この微分計算を実行すると、 次式のようになる。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}\left( \frac{3(\boldsymbol{m}\cd...
...dsymbol{r}-\boldsymbol{m}r^2}{r^5} +\boldsymbol{m}\delta(\boldsymbol{r})\right)$ (130)

3.41との差は、原点にあるデルタ関数だけとなる。

3.40と式3.45の差を際立たせるために、 両式に現れる $ (\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')/\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^3$を、 $ a$ぐらいの範囲に緩めた $ (\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')/\sqrt{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^2+a^2}^3$なる関数に置き換えてみよう。 この場合、両者の差は $ (\mu_0/4\pi)\boldsymbol{m}\mathop\emph{\text{div}}\nolimits \left[(\boldsymbol...
...\boldsymbol{r}')/\sqrt{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^2+a^2}^3\right]$となる。 結果は、図 3.7に示すように、両者の作る磁場は、 十分遠方ではほぼ同じ形になるが、原点付近では、 前者は発散があって回転のない場となり、 後者は回転があって発散のない場となっている。 また、両者の差は $ a\rightarrow0$でデルタ関数の $ \boldsymbol{p}_m$倍となる。 やはり、前者の場には拡がったデルタ関数を加えないと、 電流モデルの磁場としてはおかしいことになる。

図 3.7: 微小磁石の磁荷モデルと電流モデルの作る磁場 $ \boldsymbol {B}$を真横から見る($ a=1$)。
\includegraphics[width=0.5\columnwidth]{fig/field.dipole.eps} \includegraphics[width=0.5\columnwidth]{fig/field.solenoid.eps}

ここでは、原点付近の構造を知るために、微分が連続な関数で説明を行ったが、 次のような微分は不連続であるが、 より平易なデルタ関数モデルを使うことも可能である。

3.41は原点での発散や回転の情報が欠損しているが、 そこを若干補足すれば、発散も回転も計算できるようになるのである。 まず式3.41の磁場は面白い性質を持っている。 原点を中心とする任意の半径$ a$の球面で、 $ d\boldsymbol{S}$ $ \boldsymbol {B}$の内積と外積を計算してみると、 それぞれ、次のような簡単な形となるのである。

$\displaystyle d\boldsymbol{S}\cdot\boldsymbol{B}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle 2\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{dS m}{a^3}\cos\theta
\cr
d\boldsymbol{S}\times\boldsymbol{B}$ (131)

ただし$ \theta$は極座標の頭頂角である。

そこで、球外の場は式3.41のままとし、 球内だけを、 $ -\mu_0\boldsymbol{m}/4\pi a^3$と一定ベクトル場に置き換えると、 いたるところ回転が消失する。 これを、発散あり回転なしの磁荷モデルと見なすのである。 次に、電流モデルとして、同様に、球内だけを、 $ 2\mu_0\boldsymbol{m}/4\pi a^3$の一定ベクトル場に置き換えると、 この場合はいたるところ発散が消失し、回転あり発散なしの場が得られる。

この二つの場の差は、 $ 3\mu_0\boldsymbol{m}/4\pi a^3$となるが、 これを体積積分すると、 $ \mu_0\boldsymbol{m}$となるから、確かに、 デルタ関数 $ \mu_0\boldsymbol{m}\delta(\boldsymbol{r})$となっていることが確認できる。

この磁場のほうが、簡単な形をしているが、これらの関数の $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits $ $ \mathop\emph{\text{rot}}\nolimits $をとると、 面磁荷や面電流になるため、先のような例を示したのである。

さて、式3.45で与えられる微小電流の作る磁場を使って、 ビオ・サバールの法則を導き出すことができる。 前にも述べたように、 任意の電流ループは、そのループの囲む曲面を分割することにより、 複数の微小電流ループの集合に置き換えることが可能である。 この際、分割された各要素には、 大きな電流ループに流れているのと同じ電流が流れているものとする。

この結果、任意の電流ループの作る磁場は以下のようになる。

$\displaystyle \boldsymbol{B}=-\frac{\mu_0I}{4\pi}\int_$$\displaystyle \text S(d\boldsymbol{S}'\times\mathop{\emph ▽}\nolimits \boldsym...
...ldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'\vert^3} %3.10
$ (132)

この式は、ビオ・サバールの法則の積分形となっている。 このように、微小電流ループの作る磁場からも、 ビオ・サバールの法則を導くことができるのである。


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日