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序論

本章では、本書で述べる電磁気学の式について、 その誘導のあらましを事前に述べておく。 本書は、いったんは電磁気学を学んだ人を対象に記載されているが、 初学の人でも読めるように記載した積りである。 しかし、初学の人には、本章の式の意味はほとんどわからないであろう。 それは気にしなくてよい。 というのは、本章は、単に、 これから展開される論旨を述べているだけであるからである。

電磁気学(electro-magnetism)は電荷(electic charge)同士に働く力と、 磁石(magnet)の磁極(magnetic pole)同士に働く力の解析から形成されていった。 前者は電場(electric field)、後者は磁場(magnetic field)である。 また合せて電磁場(electro-magnetic field)という。 なお、これらは物理系の呼び方であって、工学系では電界(electric field)、 磁界(magnetic field)、電磁界(electro-magnetic field)という。 私は工学系なので、電界・磁界と呼びたいところであるが、 個人的趣味によって電場・磁場を用いる。 分野によって用語が異なるは不幸なことであるが、 分野ごとに長い歴史を背負っているので、簡単には統一できないのが実状である 1.1

Figure 1.1: 磁石は微小な永久電流ループの集合体
\begin{figure}\centering
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(45,103)
\put(0,0){\s...
...magnet.dps llx=139 lly=681 urx=184 ury=784 rwi=450}}
\end{picture}
\end{figure}

磁場による力は磁石と電流(current)の間にも、また、電流同士にも働く。 現在、磁石は、図 1.1に示すように、 その中に沢山のループ状の微小電流を持つことが知られているので、結局、 磁場は電流と電流に働く力である。

電荷と電荷に働く力を、前者の電荷に着目してみよう。 この位置を徐々に変えると受ける力は徐々に変化していく。 何となく、後者の電荷が周りに何らかの影響力を有しており、 それを感じているように見ることができる。 このような影響のおよぶ範囲を(field)と呼ぶ。 この立場で、後者の電荷は電場と呼ばれる場を張っていると考え、 前者の電荷はそれを測定する手段と考える。 測定する電荷を特に区別したいときには、検電荷(testing charge)と呼ぶ。

Figure 1.2: ローレンツ力: 静止している電荷は電場を、 動いている電荷は加えて磁場を感じる
\begin{figure}\begin{center}
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(68,58)
\put(0,0)...
...ox(0,0)[lb]{{\footnotesize\rm\emph v}}}
\end{picture} \end{center}
\end{figure}

電流は電荷の移動であるから、電荷は動いていると磁場の影響を受け、 止まっていても電場の影響を受けることになる。 あちこちに電荷や電流があるとき、そこをある検電荷が動いているときに受ける力は、 図 1.2に示すローレンツ力(Lorentz force)であり、 式で与えると以下のようになっている。

$\displaystyle \emph F=Q\,(\emph E+\emph v\times\emph B)$ (1.1)

$ \emph E$を電場、$ \emph B$を磁場と呼ぶ。 $ \emph B$は厳密には磁束密度(magnetic flux density)と呼ばれるが、厳密に言う必要のない時は、 単に磁場と呼ぶ。 電荷が動くとその移動方向に垂直に力を受けることも不思議であるが、 移動方向にかかわらず、移動方向とある磁場ベクトルとのベクトル積で力が決るのが、 さらに興味深い。

電場や磁場は周りに置かれた電荷や電流が作り出す。 ここで、重要な性質がなりたつ。 場の原因となる電荷や電流が複数存在するとき、 全体の電荷と電流が作り出す電場や磁場は、 一つ一つの電荷なり電流が作り出す電場や磁場のベクトルを合成になるのである。 これを重ね合せの原理(principle of superposition)という。 つまり、電磁気学は、これら場の概念と重ね合わせの原理によって、 美しく体系化されているといっても過言ではなかろう。

電場は電荷により作られ、磁場は電流が作り出す。 重ね合わせの原理が成立するから、一つの電荷の作る電場、 一つの微小な長さの作る磁場がわかれば、任意の個数の電荷、 あるいは電流の作る電磁場を計算することができる。 まず、静止した電荷$ Q$の作る電場は次のクーロンの法則(Coulomb law)で与えられる。 $ \varepsilon_0$電気定数(electric constant)と呼ばれる定数である。

$\displaystyle \emph E=\frac Q{4\pi\varepsilon_0}\frac{\emph r}{r^3}$ (1.2)

この式から、$ \emph E$の発散と回転について、 それぞれ積分型と微分型を求めると、次のきれいな形が得られる。 1.2

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\cdot\emph E$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac1{\varepsilon_0}\int_VdV\,\rho$ (1.3)
$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot}\nolimits \emph E$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac1{\varepsilon_0}\rho$ (1.4)
$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph E$ $\displaystyle =$ 0 (1.5)
$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph E$ $\displaystyle =$ 0 (1.6)

なお、$ \rho$は電荷密度である。 また、$ \oint_V$とは、体積$ V$を囲む閉曲面での面積分1.3を示している。

電流の作る磁場は、ビオ・サバールの法則(Biot-Savart law)で与えらえることになっている。 しかし、これは理論的に得られたもので、 実験から直接求めることはかなり困難である。 そこで、本書では容易に実験で得られるものとして、 十分に細い有限の長さのソレノイド(solenoid)と呼ばれるコイルの作る磁場を 基本とする。 これは棒磁石(bar magnet)と等価であるので、棒磁石を用いて実験してもよい。 その結果は、ソレノイドや棒磁石の外部では、 磁極に電荷に対応する磁荷(magnetic charge)のようなものが発生し、 それがクーロンの法則(Coulomb law)にしたがう磁場を形成する。

$\displaystyle \emph B=\frac{Q_m}{4\pi}\frac{\emph r}{r^3}$ (1.7)

ここで磁荷は、$ K$をソレノイド側面の単位長当りの電流密度、 $ S$をソレノイドの断面積として、 $ Q_m=\mu_0KS$で与えられる。 またその正負は、 電流の方に右ネジ (もっとも普通のネジ) を回したときにネジの進む方、 つまり先端を正(N)、尻尾を負(S)とする。 これを右ネジの関係(right screw relation)と呼ぶ。 $ \mu_0$磁気定数(magnetic constant)と呼ばれる定数である。 ソレノイドや棒磁石の内部には、上記のクーロン場に加え、 これと逆向きの負(S)磁荷から正(N)磁荷に向う一様な磁場$ B=Q_m/S$が発生する。

これらの式から、$ \emph B$の回転と発散について、 それぞれ積分型と微分型を求めると、次のきれいな形が得られる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph B$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \mu_0\int_VdV\,\emph J$ (1.8)
$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph B$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \mu_0\emph J$ (1.9)
$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\cdot\emph B$ $\displaystyle =$ 0 (1.10)
$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot}\nolimits \emph B$ $\displaystyle =$ 0 (1.11)

なお、$ \emph J$は電流密度である。 この式1.9は、通常の書籍では線積分を用いて表現されているが、 本書では面積分表現になっている点が特徴である。 1.4

もう一つの重要な法則は、動的なものである。 これは磁場が変化するとき、 その周りを取り囲む配線上に起電力(electro-motive force)が生ずるというもので、 次のファラデーの法則(Faraday law)で与えられる。

$\displaystyle \oint_S\emph{dr}\cdot\emph E =-\D{}t\int_S\emph{dS}\cdot\emph B$ (1.12)

その結果、電場の回転は次のように修正される。
$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph E$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -\D{}t\int_VdV\,\emph B$ (1.13)
$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph E$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -\D{\emph B}t$ (1.14)

さらに、最後の法則として、電流については電荷の減少につながるという 電流連続の法則(current continuity law)が成立する。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\cdot\emph J$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -\D{}t\int_v dv\,\rho$ (1.15)
$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot}\nolimits \emph J+\D\rho t$ $\displaystyle =$ 0 (1.16)

これに矛盾しないようにするためには、磁場の回転を修正する必要があり、 次式が得られる。
$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph B$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \mu_0\int_VdV\left(\emph J
+\varepsilon_0\D{\emph E}t\right)$ (1.17)
$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph B$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \mu_0\emph J+\mu_0\varepsilon_0\D{\emph E}t$ (1.18)

$ \emph E$$ \emph B$の発散、回転を与える微分型の四つの式は、 マクスウェル方程式(Maxwell equations)と呼ばれ、電磁気学の基礎方程式である。

以上で、電磁気学の基本方程式について述べたが、量子力学が発展するにつれ、 実は電場・磁場よりも、ポテンシャル(potential)(スカラーポテンシャル(scalar potential)と ベクトルポテンシャル(vector potential))の方が本質的であることが判明してきた。 そう言った意味では、すべてをポテンシャルを基礎にして書きたいところであるが、 ポテンシャルの効果の実験的検証が直接的でないこともあり、従来の書のように、 まず電場・磁場について記述し、その後、ポテンシャルとの関連をつけてから、 改めてポテンシャルからの導入を行なうこととする。

スカラーポテンシャルを$ \phi$、ベクトルポテンシャルを$ \emph A$と書くと、 場の源との関係は次のように与えられる。

$\displaystyle \left(\mathop{\emph ▽}\nolimits ^2+\mu_0\varepsilon_0\D{^2}{t^2}\right)\phi$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -\frac1{\varepsilon_0}\rho$ (1.19)
$\displaystyle \left(\mathop{\emph ▽}\nolimits ^2+\mu_0\varepsilon_0\D{^2}{t^2}\right)\emph A$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -\mu_0\emph J$ (1.20)

また、これらの関係以外にローレンツゲージ(Lorentz gauge)と呼ばれる次式が、 成立する必要がある。

$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \cdot}\nolimits \emph A+\mu_0\varepsilon_0\D\rho\phi=0$ (1.21)


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Yoichi OKABE 2008-03-29