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誘電体

まず、誘電体(dielectric material)とは電気的に中性の材料であるが、電場をかけると、内部の 電荷がわずかに移動することにより、全体では相変わらず中性であるが、 部分的には電荷が発生するような材料である。 このような材料は正電荷と負電荷を組にして考えるとよい。 電場のない場合は、正電荷と負電荷が各点で正確に重なっており、 電荷がまったく見えないが、電場をかけると、これらが各点でわずかに 分離すると理解する。 こうした現象を分極(polarization)、発生した電荷を分極電荷(polarization charge)という。

このとき、組をなす電荷の電気量を$ Q$とし、 負電荷から正電荷に向かうベクトルを $ \boldsymbol{l}$とするとき、 $ \boldsymbol{p}=Q\boldsymbol{l}$電気モーメント(electric moment)という。 また、 $ \boldsymbol{p}$ $ \delta_L(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{l})$なる線状デルタ関数を掛けて、 この線分上にだけ $ \boldsymbol{p}$が存在できるようにした $ \boldsymbol{P}=\boldsymbol{p}\delta_L(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{l})$を分極ベクトルという。

図 5.1: 一つのミクロな電気モーメントに対する分極ベクトル。
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(60,110)
\put(0,0){\s...
...\put(40.3,8.8){\makebox(0,0)[lb]{{\footnotesize -}}}
\end{picture}
\end{figure}

この存在領域を少し太くして、図 5.1に示すように、 断面積$ S$の円柱とすると、理解しやすいかも知れない。 この円柱の体積を$ V$とするとき、分極ベクトルは、 この円柱内だけで値 $ Q\boldsymbol{l}/V$なる一定値となり、円柱外では0である。 第22.7節で示したように、こうした円柱状の一様ベクトル場は、その頭端に負の発散が、 また尾端に正の発散があり、それらの値は$ Ql/V=Q/S$である。 ただし、負の発散側に正電荷があるので、 電荷は発散の符号反転したものとなることに注意してほしい。 円柱の断面積を限りなく小さくすると、これら発散の体積積分は、 それぞれ$ \pm Q$となる[*]

実際には、誘電体にはこのような対が無数にある。 したがって、通常、分極ベクトル(polarization vector) $ \boldsymbol{P}$は、 図 5.2のように、これらを集めたものになる。

$\displaystyle \boldsymbol{P}=\sum_iQ_i\boldsymbol{l}_i\delta_L(\boldsymbol{r}-\...
...um_i\boldsymbol{p}_i\delta_L(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}_i, \boldsymbol{l}_i)$ (181)

ここで、 $ \boldsymbol{r}_i$は各電気モーメント $ \boldsymbol{p}_i$の存在する場所である。 この定義にしたがうと、 $ \boldsymbol{P}$は位置の関数であり、 ほとんどのところで0であるが、 各電気モーメントの正負を結ぶ直線上でのみデルタ関数的に大きな値を持つ ベクトル場のような概念である。

図 5.2: 分極ベクトルの例。 実線で示した直線領域にのみ、上向きのベクトル場が存在している。
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\begin{picture}(101,76)
\put(0,0){\s...
...d.pol.dps llx=104 lly=685 urx=205 ury=761 rwi=1010}}
\end{picture}
\end{figure}

マクロの立場では、 電気モーメントのつぶつぶが見えない程度の広い範囲で平均化することにより、 もっと滑らかな概念にすることが可能である。 このため、この式の両辺を適切なやや大きな体積で体積積分し、 両辺をその体積で除してみよう。

$\displaystyle \boldsymbol{P}=\frac1V\int dV\sum_i\boldsymbol{p}_i\delta_L(\bold...
... \boldsymbol{l}_i) =\frac1V\sum_i\boldsymbol{p}_i=n\langle\boldsymbol{p}\rangle$ (182)

ここで、$ n$は単位体積当たりのモーメントの個数、 $ \langle\boldsymbol{p}\rangle$は電気モーメントのベクトル的平均値である。 多くの場合、 $ \boldsymbol{p}$は、ある程度の範囲で同じ値をとることが多いので、 その場合には平均の記号は不要となる。

逆に電極分極ベクトル $ \boldsymbol{P}$が与えれらていて、分極電荷を求めたい場合には、 $ \boldsymbol{P}$の定義から明らかなように、次式により計算することができる。

$\displaystyle \rho_p=-\mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{P}$ (183)

マクロな立場の場合、分極ベクトルは滑らかなベクトル場となるため、 分極電荷は領域の縁にのみ発生する。

クーロンの法則に基づく電場は、 我々が意識して置いた電荷を自由電荷(free charge)$ \rho_f$ および分極の結果現れる分極電荷$ \rho_p$の 合計である全電荷(all charge) $ \rho=\rho_f+\rho_p$により形成される。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{E}=\frac1{\varepsil...
...=\frac1{\varepsilon_0}(\rho_f-\mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{P})$ (184)

この結果、

$\displaystyle \mathop\emph{\text{div}}\nolimits (\varepsilon_0\boldsymbol{E}+\boldsymbol{P})=\rho_f$ (185)

の式が得られる。 なお、$ \rho_p$は物質に束縛されているため、自由電荷に対し、 束縛電荷(bounded charge)$ \rho_b$とも書かれる。

次式で電束密度(electric flux density) $ \boldsymbol{D}$を定義する。

$\displaystyle \boldsymbol{D}=\varepsilon_0\boldsymbol{E}+\boldsymbol{P}$ (186)

電束密度を使うと、式5.12は次のように書き直すことができる。

$\displaystyle \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{D}=\rho_f$ (187)

これにより、電束密度は自由電荷を湧き出し、 吸い込みとするベクトル場であることが分かる。

多くの材料は、 $ \boldsymbol{P}$ $ \varepsilon_0\boldsymbol{E}$に比例するという線形応答(linear response)をする。 さらに、マクロな均質媒質を仮定すると、次式が成立する。

$\displaystyle \boldsymbol{P}=\chi_p\varepsilon_0\boldsymbol{E}$ (188)

この $ \varepsilon_0\boldsymbol{E}$に対する $ \boldsymbol{P}$の比例係数$ \chi_p$を、 電気感受率(electric susceptibility)という。 $ \chi_p$は一般に正数である。

この場合、 $ \boldsymbol{D}$ $ \boldsymbol{E}$に比例する。

$\displaystyle \boldsymbol{D}=(1+\chi_p)\varepsilon_0\boldsymbol{E}$ (189)

この $ \boldsymbol{E}$に対する $ \boldsymbol{D}$の比例係数 $ \varepsilon
=(1+\chi_p)\varepsilon_0$を、誘電率(permittivity)という。 $ \varepsilon$ $ \varepsilon_0$以上の正数となる。

図 5.3: キャパシタ内の誘電体における分極は、電場の方向に発生する。
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\begin{picture}(169,104)
\put(0,0){\...
...{\makebox(0,0)[lb]{{\footnotesize$\boldsymbol{P}$}}}
\end{picture}
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線形応答する均質な材料中では、材料中に自由電荷がない場合、 $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{D}=0$となる。 この結果、 $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{P}=0$が成立する。 つまり、分極電荷は材料中に現れず、材料表面にしか現れない。

例えば、図 5.3に示すように、厚さに対し、 十分広い電極面積を持つ平行平板キャパシタの中に、 電極と平行に厚みよりやや薄い誘電体を挿入した場合、対称性より、 電場も電束密度も、キャパシタの内部では、電極に対し、垂直なベクトルとなる。 自由電荷は両極板にしか存在しないが、分極電荷は誘電体表面にのみ発生する。 まず、 $ \boldsymbol{D}$は自由電荷のところでしか、発生、消滅が起こらないから、 $ \boldsymbol{D}$の大きさは $ D=\sigma_f$となる。 $ \sigma_f$は、自由電荷の面密度である。 下向きを正とすると $ D=\sigma_f$となる。 この結果、誘電体のない電極間空間では $ \varepsilon_0E=D=\sigma_f$となる。

一方、誘電率 $ \varepsilon$の誘電体中では、 比誘電率を $ \varepsilon_r=\varepsilon/\varepsilon_0$として、 $ \varepsilon_0E=D/\varepsilon_r=\sigma_f/\varepsilon_r$と、 絶対値は空間中の電場より弱くなる。 また、誘電体中の分極は $ P=D-\varepsilon_0E=(1-1/\varepsilon_r)\sigma_f$となる。 $ \boldsymbol{P}$は誘電体内で一定であるが、空間では突然0となるため、 $ \mathop\emph{\text{div}}\nolimits \boldsymbol{P}$で与えられる分極電荷は面状デルタ関数となる。 つまり、誘電体下面で面密度 $ \sigma_p=P=(1-1/\varepsilon_r)\sigma_f$となる。 誘電体表面の両側の電場の発散は、この面密度と一致する。

なお、$ \sigma_f$を固定して、 $ \varepsilon_r$を大きくしていくと、 $ D$は変化しないため、$ E$は誘電体中でほぼ0となり、 ほとんど導体のような性質を持ってくる。 このため、両電極間の電位差はきわめて少なくなる。 逆に電位差を固定すれば、きわめて多量の自由電荷を溜めることができることになる。 これがキャパシタ(capacitor)の原理である。 キャパシタはコンデンサ(condensor)とも呼ばれる。

図に示したような構造では、誘電体の厚みを$ d_d$、 その他の空間の厚みを$ d_v$とすると、両極間の電位差は次式で与えられられる。

$\displaystyle \phi=\frac{(d_d/\varepsilon_r)+d_v}{\varepsilon_0} \sigma_f$ (190)

また、電位差に対する自由電荷の比をキャパシタンス(capacitance)と呼ぶ。 この場合、電極面積$ S$とすると、キャパシタンス$ C$は次式で与えられる。

$\displaystyle C=\frac{\varepsilon_0S}{(d_d/\varepsilon_r)+d_v}$ (191)

$ \varepsilon_r$が大きいと、$ C$がどんどん増えていき、 さらにその傾向は、$ d_v$が少ないほど効果的であることが分かる。


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日