磁性体(magnetic materials)は、我々が意識して置いた自由電流(free current)以外に、
材料中に無数の微小電流ループのあるような材料である。
このような内部電流が存在することを磁化(magnetization)と呼ぶ。
磁化が永久に存在するときは磁石になり、
外部磁場によって誘起されるときには常磁性体になる。
この無数の微小電流ループを磁化電流(magnetization current)という。
このとき、電流値を
、
ループにより囲まれた面積ベクトルを
とするとき、
を磁気モーメント(magnetic moment)という。また、
に
なる面状デルタ関数を掛けて、
この面積上にだけ
が存在できるようにした
を磁化ベクトルという。
存在領域を少し厚くして、図 5.4に示すように、
厚さ
の板とすると、理解しやすいかも知れない。
この板の体積を
とするとき、磁化ベクトルは、
この板内だけで値
なる一定値となり、板外では0である。
第2章2.7節で示したように、こうした板状の一様ベクトル場は、その周辺に右ネジ方向の回転があり、
その値は
である。
板の厚さを限りなく薄くすると、この回転の厚さ方向の積分は、
となる
。
実際の磁性体にはこのようなループが無数にある。
したがって、通常、磁化ベクトル(magnetization vector)
は、
図 5.5に示すように、これらを集めたものである。
| (192) |
マクロの立場では、 磁気モーメントのつぶつぶが見えない程度の広い範囲で平均化することにより、 もっと滑らかな概念にすることが可能である。 このため、この式の両辺を適切なやや大きな体積で体積積分し、 両辺をその体積で除してみよう。
| (193) |
逆に磁化ベクトル
が与えれらていて、磁化電流を求めたい場合には、
の定義から明らかなように、次式により計算することができる。
物質のある場合のマクスウェルの方程式であるが、自由電流、磁化電流以外に、
誘電体も、分極の際に起こる電荷の移動も瞬時的な分極電流(polarization current)
を流すことを考慮する必要がある。
これらの合計である全電流(all current)
が、アンペールの法則に基づく磁場を発生する。
| (195) |
上式の結果、
次式で磁場強度(strength of magnetic field)
を定義する。
多くの材料は、
が
に比例するという線形応答をする。
さらに、マクロで均質な媒質を仮定すると、次式が成立する。
磁性体の場合には、歴史的に、まず自由電流があり、
これの作る磁場により磁化電流が誘導され、
これが自由電流の作る磁場を強めるという立場をとることが多く、
これに対応して、まず
があり、これにより
が誘導され、
強められた磁場が
であると理解する。
このため、
に対する
の比例係数
を、
磁気感受率(magnetic susceptibility)という。
線形応答する均質な材料中では、材料中に自由電流がない場合、
となる。
この結果、
が成立する。
つまり、磁化電流は材料中に現れず、材料表面にしか現れない。
例えば、図 5.6に示すように、断面に対し、
十分な長さを持つコイル中に置かれた磁性体の場合、対称性より、
磁場も磁束密度も、インダクタの内部では、コイル円筒軸のほうを向くベクトルとなる。
自由電流はコイルの中にしか流れていないが、磁化電流は磁性体表面にのみ発生する。
コイルが十分長いと、コイルの外部の磁場は0となるので、
自由電流と結び付いている
の大きさは、
コイルの内部で自由電流の面密度
と一致し、
となる。
方向は図に示すようになる。
この結果、磁性体のないコイル内の自由空間では
となる。
一方、透磁率
の磁性体中では、比透磁率を
として、
と、自由空間中の
より強くなる。
また、磁性体中の磁化は
となる。
磁化電流は
で与えられるが、
は磁性体内で一定、
空間では突然0となるため、面状デルタ関数となる。
つまり、磁性体表面で、面密度
の値を持ち、
自由電流と同じ方向となるベクトルとなる。
を固定して、
を大きくしていくと、
は変化しないので、
磁性体中の
はきわめて大きくなる。
このため、同じ自由電流に対し、きわめて大きな磁束を対応させることができる。
もし、自由電流を変化させると、大きな磁束変化が得られ、ファラデーの法則により、
コイル両端には大きな電圧変動が発生することになる。
これがインダクタ(inductor)の原理である。
図に示したような構造では、磁性体の断面積を
、
その他の空間の面積を
とすると、
コイルに囲まれた領域に存在する全磁束は次式のようになる。
| (204) |
自由電流に対する全鎖交磁束の比をインダクタンス(inductance)と呼ぶ。
この場合のインダクタンス
は、次式で与えられる。
次に、図 5.7に示す永久棒磁石を考えよう。
永久磁石では、自由電流がなくても、磁化の存在する物質である。
に対応して、棒磁石の側面に、磁化電流が流れる。
この磁化電流が作る磁場を考えると、磁化電流がソレノイドを形成しているので、
まさにソレノイドの作る磁場と一致する。
棒の長さが十分長いと、外部磁場はほぼ0となるため、
面電流密度
の磁化電流に対応した磁場
が、
ソレノイド内部に作られる。
棒の長さが短くなってくると、外にも棒端から溢れた磁場が、ある程度、できるため、
アンペールの法則より、内部磁場は、その分、弱くなってくる。
厳密な磁場の計算は、一見、困難そうであるが、
一様磁場
がソレノイドの端から端まで存在するとし、
それに、両端を発散源とした上下対称に発生する磁場を足せば、
計算可能となる
。
この辺の話は、
本章3.2節で行った磁石と電流の等価性の議論と同じである。
電束密度
と磁場強度
を導入したときのマクスウェル方程式を、
示しておこう。
このうち二本は、すでに示したものである。
対応
式5.24を利用して、物質のあるときの方程式のを
で書き換えてみよう。
| (210) | |||
| (211) | |||
| (212) | |||
| (213) |
ただし、右辺は、として、次のように定義する。
このうち、を磁流(magnetic current)、
を磁荷(magnetic charge)、
を電流と呼ぶ。 式5.43に示した磁荷の式は、分極
と分極電荷
を結び付ける式5.10と大変よい対応がとれている。 なお、この式の電流は我々の使う物質中の電流と、 磁化電流だけ異なることに注意が必要である。
電磁気学を作りあげた当初は、電流よりも磁荷が重要であったこと、 さらに式の対称性のよさから、 この対応と呼ばれる定式化が主流であった。
は磁化の昔の定義である。 現在は、磁気現象の成因はすべて電流であるとされていること、 さらに、前節で述べた磁石が受ける力に問題があること、 相対論的に問題があることなどから、 本書で採用された
対応の定式化が主流である。 なお、
対応では、
と
が対応する。 このため、
は磁束密度とも呼ばれる。