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古典的力と量子論的力

古典的粒子の受ける力は、ローレンツ力で示したように、 電場 $ \boldsymbol{E}$と磁場 $ \boldsymbol {B}$により、簡明に理解できるが、一方で、 量子力学的粒子はスカラーポテンシャルやベクトルポテンシャルを感じると説明した。

これら二つの古典力学と量子力学の双方の効果を、一気に説明する手法がある。 それは付録Cに示した最小作用の原理(principle of minimum action)と呼ばれる手法である。 もともとは、束縛力のあるような複雑な力学系の問題を解くために、 ラグランジェが発展させた解析力学と呼ばれる手法の一つの表現形であるが、

$\displaystyle L=\frac12m\left(v_x^2+v_y^2+v_z^2\right) -Q\left(\phi-v_xA_x-v_yA_y-v_zA_z\right)$ (316)

と定義して、この値を種々の軌道を仮定して時間積分する。

$\displaystyle S(x(t))=\int_{t_0}^{t_1}dt\ L(x(t),\dot x(t))$ (317)

この積分を作用(action)と呼ぶ。 実際の運動は、作用が最小になるような軌道を選ぶというものである。

さて古典力学の場合には、軌道を少し動かしても、 この値がほとんど変わらない付近に軌道が選ばれる。 一方、量子力学の場合には、異なる複数の軌道に対し、 この積分の値が同じ値となるときに、強い干渉が起こることになる。 例えば、図 8.2にあるように、 板状のソレノイドの上下を通る電子ビームを考えよう。 ソレノイドの作る磁場の方向を$ z$軸、ビームの進行方向を$ x$方向、 ソレノイドの板の面に垂直な方向を$ y$方向としよう。 板状のソレノイドのまわりにはベクトルポテンシャルが誘起されるが、 その方向は主として$ x$方向である。板の端では$ y$ 方向のポテンシャルも存在するが、その領域は端付近に限られているので、 この議論では無視しよう。

図 8.2: ベクトルポテンシャルの異なる領域を通る二つのビームの干渉縞は移動する。
\begin{figure}\centering
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(211,70)
\put(0,0){\s...
...7.1,45.1){\makebox(0,0)[b]{{\footnotesize\rm$t_1$}}}
\end{picture}
\end{figure}

試しの軌道として$ x$方向にソレノイドの上を通る直線と、 下を通る直線の二種類を仮定し、 それぞれのビームの作用を計算してみよう。 まず、上のベクトルポテンシャルが $ -\Delta A_x$だったとしよう。 また、そこでは速度がベクトルポテンシャルのなかったときに比較し、 $ v_0+\Delta v$になったとしよう。 すると作用積分は次のようになる。

$\displaystyle S$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \int_{t_0}^{t_1}dt\left[\frac12m(v_0+\Delta v)^2
+Q(v_0+\Delta v)(-\Delta A_x)\right]$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \int_{t_0}^{t_1}dt\left[\frac12mv_0^2+v_0(m\Delta v
-Q\Delta A_x)+O^2\right]$ (318)

同様に、下を通ったときの作用積分は、上式の括弧内が $ (m\Delta v+Q\Delta A_x)$と置き換わる。

これらが同じ値となる条件を考えてみよう。 そのためには上の軌道では $ \Delta v=(Q/m)\Delta A_x$ とし、下の軌道では $ \Delta v=-(Q/m)\Delta A_x$ としなければならない。 つまり、上の軌道ではやや早目、下の軌道ではやや遅目に動くことになる。 ベクトルポテンシャルの存在領域の長さ$ l$、スリット間隔$ d$ とすると、下の軌道の粒子がスリットに到着したとき、 上の軌道の粒子はスリットを通り越して、 $ l(2\Delta v/v_0)
=2lQ\Delta A_x/mv_0$だけ先に居ることになる。 これら二つの軌道を通る粒子がゴールのスクリーンに同時に到着するには、 スリットを出てから下方斜めの方向に動くしかない。 その振れ角を$ \theta$とすると、

$\displaystyle \sin\theta=\frac{2lQ\Delta A_x}{mv_0d}=\frac{Q\Phi}{mv_0d}$ (319)

となり、前出の結果と一致する。

このように、古典力学の運動は量子力学で説明できるが、 ポテンシャルが空間的にあまり激しく変化すると、 ビームは広い範囲に拡がってしまい、 古典力学で扱う粒子のようなイメージを持たなくなる。 つまり、古典力学の粒子を扱うには、 ポテンシャルは緩やかに変化している必要がある。 このような条件で粒子の受ける軌道変化を計算すると、 結局、運動はポテンシャルの一次変化にだけ依存するようになり、 ローレンツ力の与える式になってしまう。 つまり、力という概念を議論しようとすると、どうしても古典的近似になり、 電場、磁場だけが現れ、ポテンシャルは現れなくなってしまうのである。 したがって、本章では、以後、マクロに観察されるローレンツ力を使った話を行う。


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日