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電気エネルギー

キャパシタに電荷を溜めていく過程を考えよう。 キャパシタを充電するには、負極側より正電荷を取り出し、正極側に運ぶ必要がある。 ところが、充電が進んでくると、正極側は負極側に対し電位が上がってくるため、 この電位差に逆らって、電荷を運ぶのにエネルギーを要するようになってくる。 電位差が$ \phi $のときに$ \delta Q$の電荷を運ぶには、 $ \phi\delta Q$のエネルギーを使う必要がある。 キャパシタンスを$ C$とすると、$ \phi=Q/C$が成立するので、 $ Q$だけの電荷を充電するために外部が使うエネルギー$ U$は次式のようになる。

$\displaystyle U=\int_0^QdQ\phi=\int_0^QdQ\frac QC=\frac{Q^2}{2C} =\frac{Q\phi}2=\frac{C\phi^2}2$ (320)

最後の三式は、同じ量を、色々に表現する方法があることを示している。

この外部が使ったエネルギーは、充電後に電極間を開放にしておくと、 そのままキャパシタに蓄えられている。 そのことは、後に、例えば両極の間を抵抗で結ぶと、 放電に伴って、同量のジュール熱が発生するなどすることから理解できる。 これを電気エネルギー(electric energy)と呼ぶ。 静電エネルギー(electro-static energy)と呼ぶ場合も多いが、 8.6節で説明するように、 動的な場合の電場によるエネルギーも同じ形になるので、 あえて、電気エネルギーとする。

図 8.3: 誘電体を途中まで入れたキャパシタは極板間に引き込まれる。
\begin{figure}\centering
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(237,74)
\put(0,0){\s...
...put(220.2,12.2){\makebox(0,0)[b]{{\footnotesize -}}}
\end{picture}
\end{figure}

図 8.3に示すように、 途中$ x$の深さまで誘電体の挿入された平行平板キャパシタを考えてみよう。 このキャパシタンスを$ C(x)$とすると、 この電気エネルギーは $ U=C(x)Q^2/2$である。 この誘電体が横向きに受ける力は、 $ x$を変化させたときにどのくらい$ U$が変化するかから求めることができる。 もし$ x$を増加させたときにエネルギー$ U$が下がれば、 誘電体は吸い込まれるような力を受けることになるので、力は次式で得られる。

$\displaystyle F=\left.-\D Ux\right\vert _Q=\left.-\D{}x\frac{Q^2}{2C(x)}\right\vert _Q =\frac{Q^2}{2C(x)^2}\frac{dC(x)}{dx}=\frac{\phi^2}2\frac{dC(x)}{dx}$ (321)

この場合、$ C(x)$は誘電体の挿入量$ x$が大きいほど大きな値をとるので、 その位置による微分は正である。 したがって$ F>0$となり、誘電体は引き込まれるという結論になる。 なお、誘電体の厚さが、極板間の距離$ H$にほぼ等しいときの$ C(x)$は、 次式で与えられる。

$\displaystyle C(x)=\frac{\varepsilon_0[\varepsilon_rx+(l-x)]W}H$ (322)

これから$ F$を求めるのは比較的簡単であるので、読者の演習問題としておこう。

間違えやすい誘導法として、 $ \phi=$constとする計算法である。

$\displaystyle F=\left.-\D Ux\right\vert _\phi=\left.-\D{}x\frac{C(x)\phi^2}2 \right\vert _\phi=-\frac{\phi^2}{2}\frac{dC(x)}{dx}$   (誤り) (323)

この結果は式8.12と同じであるが、よく見ると、 正負が反転している。 つまり、誘電体は同じ力で抜け出る方向の力を受けることになる。 しかし、この解析は誤っている。 というのは、 $ \phi=$constとしているからである。 電位差を一定に保つには定電圧電源が必要である。 ここを経由して電荷を運ぶと、電源は仕事をする(される)ことになり、 その仕事量をきちんと求めないと、力が計算できないことになるからである。 一方、電荷を一定にするには、両極をどこにも接続せず、自由にしておくだけでよい。 このため、外部におけるエネルギー収支を気にしなくてよいので、 力を計算するには、 $ Q=$constとして、 微分する必要があるのである。

もし、どうしても $ \phi=$constの条件で、 $ U=C(x)\phi^2/2$を利用して力を計算したい場合には、 定電圧電源の行う仕事を補正すればよい。 定電圧電源は $ \int dt(\phi I)=\int dt(\phi dQ/dt)=\int dQ\phi
=Q\phi$の仕事をするので、 $ U-Q\phi=C(x)\phi^2/2-C(x)\phi^2=-C(x)\phi^2/2=-U$ $ \phi=$constの条件で微分すればよい。

$\displaystyle F=\left.-\D{(-U)}x\right\vert _\phi=\left.\D{}x\frac{C(x)\phi^2}2 \right\vert _\phi=\frac{\phi^2}{2}\frac{dC(x)}{dx}$ (324)

なお、式8.11は、当然、 一様な誘電体で満たされた平行平板キャパシタにも適用できる。

$\displaystyle U_t=\frac{Q^2}{2C}=\frac H{2\varepsilon Wl}Q^2 =\frac H{2\varepsilon_0\varepsilon_rWl}Q^2$ (325)

つまり、誘電体のある場合の電気エネルギーは、同じ$ Q$に対し、 真空キャパシタのそれの $ 1/\varepsilon_r$であることが導かれる。 一方で、第5章で、物質のある場合の電磁気学は、 物質中の電荷や電流を明示して表現し、 全電荷、全電流が真空中に作る電磁場で説明できるとした。 この立場で平行平板キャパシタを見ると、電極上に$ Q$があり、それに近接して、 誘電体上に分極電荷 $ -Q_p=-Q(1-1/\varepsilon_r)$が誘引されているので、 全電荷は $ Q_t=Q-Q_p=Q/\varepsilon_r$となる。 この正負電荷が真空中にあるとすると、電気エネルギーは次のようになる。

$\displaystyle U=\frac H{2\varepsilon_0Wl}Q_t^2 =\frac H{2\varepsilon_0\varepsilon_r^2Wl}Q^2$ (326)

つまり、式8.16に比べ、 さらに $ 1/\varepsilon_r$少ないことになる。

この違いはどこに起因するのかをきちんとしておくべきであろう。 式8.11のエネルギーの計算式の積分要素を見てみよう。 見やすいように、$ Q_f=Q$と書き直してある。 また$ \phi(Q_t)$と記載して、電位が全電荷で決定されていることを明示してある。

$\displaystyle dU=\phi(Q_t)dQ_f=\phi(Q_t)(dQ_t+dQ_p)=\phi(Q_t)dQ_t+\phi(Q_t)dQ_p$ (327)

このうち、第一項は全電荷の移動に伴うエネルギー増であり、 式8.17で示される純粋な電気エネルギーの増加である。 一方、第二項は分極に費されるエネルギーであり、 正負電荷を引っ張って分極を起こす際に必要な力学的エネルギーとして蓄積される。 つまり、電気エネルギーの通常の定義である式8.16に示すキャパシタの充電に要するエネルギーには、 式8.17の全電荷の電気エネルギー以外に、 分極するのに使われる力学的エネルギーの増加分が含まれているのである。

純粋に電磁気的エネルギーを計算する場合には、 式8.17が正しいが、 誘電体の関わる系の力を計算する際は、多くの場合、 分極に必要なエネルギーを一々意識するのは大変なので、 これが自動的に含まれる式8.16、 つまり電気エネルギーの通常の定義を利用するのが得策である。

なお、8.6節で、それなりの正当性を示すが、 $ U$を誘電体(または間の真空)全体が持つエネルギーと解釈する立場がある。 となると、誘電体の単位体積当たりのエネルギーが定義できることになる。

$\displaystyle u=\frac U{HWl}=\frac 1{2\varepsilon}\frac Q{Wl}^2 =\frac{\sigma^2...
...on}=\frac{\boldsymbol{D}^2}{2\varepsilon} =\frac{\boldsymbol{D}\boldsymbol{E}}2$ (328)

さらに、誘電率が非線形の場合にも、 $ dU=\phi dQ$から推定して、 $ du=\boldsymbol{E}d\boldsymbol{D}$となり、各点で次の積分を実行することにより、 単位体積当たりのエネルギーが得られる。

$\displaystyle u=\int\boldsymbol{E}d\boldsymbol{D}$ (329)


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日