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スカラー場の勾配

面積分の応用として、スカラー場$ \phi$勾配(gradient)について述べよう。 勾配とは、スカラー場が考えている領域で平均として、 どちらの方向に強くなっていくかを示すものである。 前述の圧力場もスカラー場の一例であったが、圧力を面ベクトルで積分した結果は、 圧力に勾配がある場合にのみ浮力という力が現れた。 そこで、次式のように面積分をスカラー場$ \phi$の重みをつけて実行してみよう。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\,\phi$ (2.11)

すると、$ \phi$の大きいところの$ \emph{dS}$が強調される。 つまり積分結果は$ \phi$の小さい辺りから大きい辺りへ向くベクトルとなる。 その結果はスカラー場の勾配の程度を表すことになる。 これを勾配積分(gradient integral)と呼ぼう。

この定義を利用すると、次式により、 任意の点の周りの小さな領域の勾配(gradient)を定義することができる。

$\displaystyle \lim_{\Delta V\rightarrow0}\frac1{\Delta V}\oint_{\Delta V} \emph{dS}\,\phi =\emph i\D\phi x+\emph j\D\phi y+\emph k\D\phi z$ (2.12)

スカラー場$ \phi$が比較的緩やかに変化し、かつ領域が小さい場合には、 この積分を一次の近似の範囲内で簡単に計算することができる。 まず領域の付近で$ \phi$をテイラー展開する。

$\displaystyle \phi=\phi_0+\D\phi x\,(x-x_0)+\D\phi y\,(y-y_0)+\D\phi z \,(z-z_0)+O^2$ (2.13)

ここで、 $ \partial\phi/\partial x$などは展開の係数であり、現在考え ている範囲では一定値としてよい。

上式を一次の近似の範囲で勾配積分して見よう。 一定値の積分は0であり、$ x$$ y$$ z$に比例する部分は それぞれ$ \emph iV$$ \emph jV$$ \emph kV$になるので、 次式が得られる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\,\phi=V\left(\emph i\D\phi x +\emph j\D\phi y+\emph k\D\phi z\right)+\emph O^2$ (2.14)

つまり、勾配積分の結果は閉曲面の形によらず、囲む領域の体積に比例する。

右辺の微分は$ \phi$grad(gradient)ということで次のように定義される。

grad$\displaystyle \,\phi=\mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits }\nolimits \phi\,\stackrel\triangle =\,\emph i\D\phi x+\emph j\D\phi y+\emph k\D\phi z$ (2.15)

grad$ \,\phi$と書いてもよいし、 $ \mathop{\emph ▽}\nolimits \phi$と書いてもよいが、 本書ではなるべく $ \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits }\nolimits \phi$を使うこととする。

$ \mathop{\emph ▽}\nolimits $(ナブラ)は、ベクトル表示されたベクトル微分演算子である。

$\displaystyle \mathop{\emph ▽}\nolimits \,\stackrel\triangle=\,\emph i\D{}x+\emph j\D{}y+\emph k\D{}z$ (2.16)

これを$ \phi$に左から形式的にベクトルとして掛け、 そこで得られた表示形を見ると、右辺の式と同じになることから、 しばしば便利に用いられる表示法である。 当然のことながら、純粋のベクトルではないので、 $ \phi\mathop{\emph ▽}\nolimits $と書くことはできない。

なお、単に勾配と言うと、勾配積分のことではなく、 小さな領域に対し定義されたgradのことを指すことが多い。

まず、水中の圧力のように、$ z$方向に徐々に強くなるスカラー場を考えてみよう。

$\displaystyle \phi=\phi_0+\phi_zz$ (2.17)

2.15を用いて、このgradを求めると確かに$ z$方向を向いており、 スカラー場の面積分が勾配を表していることが理解できよう。

$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits }\nolimits \phi=\emph k\phi_z$ (2.18)

また、電磁気学でよく現れる代表的なスカラー場として$ \phi=1/r$があるが、 これを上式に代入してみると、次式が得られる。

$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits }\nolimits \left(\frac1r\right)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \emph i\,\D{\,(r^{-1})}x+\emph j
\cdots+\emph k\cdots$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \emph i\left(-r^{-2}\frac xr\right)+\emph j\,(\cdots)\,
+\emph k\,(\cdots)\,=-\frac{\emph r}{r^3}$ (2.19)

この右辺のベクトルは、クーロンの法則(Coulomb law)などに現れる、 原点を中心とした放射状で距離の逆二乗に比例する大きさを持つベクトル場になる。 一般に、 このような放射状で逆二乗に比例するベクトル場はクーロン場(Coulomb field)と呼ばれ、 電磁気学ではもっとも頻繁に出現するベクトル場である。

Figure 2.3: 閉局面で囲まれた領域を賽の目に切る
\begin{figure}\begin{center}
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(72,85)
\put(0,0)...
...x=139 lly=690 urx=211 ury=775 rwi=720}}
\end{picture} \end{center}
\end{figure}

次に大きな閉曲面上での面積分を計算して見よう。 囲まれた領域を図 2.3のように賽の目に切ると、 各微小領域では式2.12が成立している。 この両辺を$ dV$倍して全領域で合計すると、 右辺は $ \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits }\nolimits \phi$の体積積分になる。 一方、左辺の面積分は境界面で互いに打ち消し合い、 最表面の面積分だけが生き残るから、次の積分定理が得られる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\,\phi=\int_VdV\,\mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits }\nolimits \phi$ (2.20)

この式をスカラー場面積分のガウスの定理(Gauss theorem of surface integral of scalar field)と呼ぼう。

この式を含め、次節以後に現れる面積分を体積積分に結び付ける公式は、 一般にガウスの定理(Gauss theorem)と呼ばれている。 ここに述べた手法は「勾配」の概念だけでなく、 次節以後に述べる、ベクトル場の「発散」や「回転」といった概念にも、 利用することができる。 まず、発散や回転を閉曲面に関する面積分で定義する。 次に、ベクトル場の一次展開近似を利用して微分形を求める。 続いてガウスの定理を求めるという手順である。

なお、勾配の微分形については、もう一つ大事な性質が存在する。 $ \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits }\nolimits \phi$の微分形の定義の両辺に、 微小変位 $ \emph{dr}=\emph idx+\emph jdy+\emph kdz$をスカラー的に掛ける。 すると右辺はちょうど$ \phi$の全微分の定義になる。

$\displaystyle \emph{dr}\cdot\mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits }\nolimits \phi=\D\phi x\,dx +\D\phi y\,dy+\D\phi z\,dz =d\phi$ (2.21)

したがってこれを積分することにより、 積分路の終点と始点の$ \phi$の差が得られる。

$\displaystyle \int_P^Q\emph{dr}\cdot\mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits }\nolimits \phi=\phi(Q)-\phi(P)$ (2.22)


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Yoichi OKABE 2008-03-29