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四元ベクトル

相対論的座標変換では、三次元空間における回転で、$ x$$ y$ が 混ざるように、空間と時間が混ざってくる。 このような場合には、ベクトルの概念を使うと便利である。 当然、時間成分を加えた四元ベクトル(four-vector)となる。 ただし、時間成分は、空間成分とはやや異なる扱いを受け、 変換も異なることに注意したい。

力学におけるベクトルの代表は位置ベクトルである。 これに対応する四元ベクトルは $ (x,y,z,ct)$ である。 $ (\emph r,ct)$ とも表わす。 時間項が $ c$ 倍されているのは、空間と同じ次元になって、 空間座標との対応がよくなるからである。 これを まとめて $ x^\mu$ と記載する。 上付きのサフィックスは冪乗の意味ではなく、 このベクトルが反変ベクトル(contravariant vector)と呼ばれるものであるからである。 それについては、徐々に後述していく。

四元ベクトルについては、サフィックスとしてギリシャ文字を用い、 $ \mu=1,2,3,4$などとする。 これに対し、三次元ベクトルのサフィックスはローマンを用い、 $ i=x, y, z$などとすることとする。 また、drなどは三次元のベクトルとし、 四元ベクトルは$ dr^{\mu}$などと記載することとする。

一般には $ x=0$$ t=0$ が必ずしも $ x'=0$$ t'=0$ に対応していなくても相対論は成立するので、 前節の式10.4の変換式には定数のずれが入りうる。 しかしその場合でも、位置ベクトルの微小量 $ dx^\mu$$ dx'^\mu$ の間には、式10.4の変換式が成立する。 変換行列を $ T$ で表わすと次のように記載できる。

$\displaystyle dx'^\mu=\sum_\nu T^{\mu.}_{.\nu}dx^\nu %7.4
$ (10.8)

ただし $ T$ の成分 $ T^{\mu.}_{.\nu}$ は次のようである。

$\displaystyle T=\left(\begin{array}{cccc} \gamma & 0 & 0 & -\gamma\beta \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ -\gamma\beta & 0 & 0 & \gamma \end{array}\right)$ (10.9)

なぜ行列のサフィクスを $ T_{\mu\nu}$ のように書かないで、 上下に書くのかは、反変といった概念と関連がある。 それについては、後に説明する。

なお、四元の世界では、通常の行列やベクトル表示をせず、 成分を記載することとしたので、これらの積が現われる都度、 $ \sum$の記号が出現し、うっとうしくなる。 このため、上下に同じギリシャ文字が現われたときには、 $ \sum$の記号がなくても、そのギリシャ文字に関する合計をするものと約束する。 これをアインシュタイン規約(Einstein convention)という。 例えば式10.8は次式のようになるが、$ \nu$が上下にあるため、 $ \sum_\nu$が省略されていることになる。

$\displaystyle dx'^\mu=T^{\mu.}_{.\nu}dx^\nu$ (10.10)

本章で四元ベクトルと言う場合は、 この式と同じ形の$ T$で変換されるものを指すものとする。 なお、逆変換の行列は$ T^{-1}$となる。 これは$ T^{-1}T=I$より明かであろう。 また、$ T^{-1}$の成分を求めてみると、 $ T$ $ -\gamma\beta$のところだけが符号反転し、 $ \gamma\beta$となるだけである。

次に速度の四元ベクトルを考えよう。 元々、$ v_x=dx/dt$ などと定義されているが、 これをそのまま第四成分に拡張すると $ v_t=d(ct)/dt=c$ となって、 第四成分だけ定数となってしまい、何かがおかしい。 $ \left(dx,dy,dz,d(ct)\right)=\left(\emph{dr},d(ct)\right)$ は 確かに四元ベクトルになっているが、 分母の $ dt$ はローレンツ変換不変ではないからである。 そこで $ dt$ に極めて近い概念で、かつ $ dt$ とは高速で僅かに異なるローレンツ変換不変の概念である世界時 $ ds$ なる概念が、分母として使われる。

$\displaystyle ds=\sqrt{dt^2-(dx^2+dy^2+dz^2)/c^2}=\sqrt{1-\beta_v^2}\ dt$ (10.11)

平方根の中は、微小距離の「絶対値の二乗」であるので、 ローレンツ変換不変量であることは容易に理解できよう。 なお、上式で $ \beta_v=v/c$ である。 $ \beta$ は座標変換の際の座標間の速度 $ V$ に対応するものであるが、 質点の速度 $ v$ に対応するものについては $ \beta_v$ を用いることとした。 同様に、$ \gamma$ は座標変換の際の座標間の速度 $ V$ に対応するものであるが、質点の速度に対応しては $ \gamma_v=1/\sqrt{1-\beta_v^2}$ を定義する。

粒子の速度 $ v$ が光速に比べ十分遅い場合には、 $ ds\approx dt$ となる。 この $ ds$ を用いて、速度の四元ベクトルである四元速度 $ v^\mu$ を次式のように定義する。

$\displaystyle (v^1,v^2,v^3,v^4)=\left(\frac{dx}{ds},\frac{dy}{ds}, \frac{dz}{ds},\frac{d(ct)}{ds}\right)=\gamma_v(\emph v,c)$ (10.12)

通常の速度とは、サッフィクスを$ i=x, y, z$としないで、 $ \mu=1,2,3,4$と数字をギリシャ文字を使うことで区別することにする。 低速では $ \gamma_v\rightarrow1$なため、四元速度は古典的速度と一致する。

四元速度に、静止質量 $ m$ を掛けたものは、四元運動量 $ p^\mu$ と呼ばれる。

$\displaystyle (p^1,p^2,p^3,p^4)=m(\emph u,\ u_t) =m\gamma_v(\emph v,\ c)$ (10.13)

四元運動量の空間成分は、低速では古典的運動量に一致する。 第四成分は、 $ p_t=mc^2+(1/2)mv^2+\cdots$ となるが、 低速では固定分 $ mc^2$ の差はあるものの、運動エネルギーに一致する。 このため、この項は質点のエネルギーと考えられる。 また、固定分、つまり静止時のエネルギー $ mc^2$ は原子爆弾の概念の基礎となった有名な式でもある。

$ u^\mu$ が四元ベクトルなら、その微小量も四元ベクトルである。 したがって、四元速度を $ s$ で微分することにより、 四元ベクトルである四元加速度が定義できる。

$\displaystyle \left(\frac{du^1}{ds},\frac{du^2}{ds},\frac{du^3}{ds}, \frac{du^4...
...ac{d^2x}{ds^2},\frac{d^2y}{ds^2}, \frac{d^2z}{ds^2},\frac{d^2(ct)}{ds^2}\right)$ (10.14)

$ \emph F$ を古典的な力として、 ニュートンの運動方程式は $ d\emph p/dt=\emph F$ などと書ける。 これから、相対論における運動方程式も $ d\emph p/ds=\emph f$ となることが予想できる。 f は低速で F に一致する四元力の空間成分であり、 多くの場合、 $ \emph f=\gamma\emph F$ である。 また古典力学では $ dE/dt=\emph F\cdot\emph v$ が成立するので、 四元運動量の第四項がエネルギーに対応することを考慮して、 $ dp^4/ds=\emph f\cdot\emph u/c$ が誘導できる。 つまり $ f^4=\emph f\cdot\emph u/c$ として、次式が誘導できる。

$\displaystyle m\D{u^\mu}s=f^\mu$ (10.15)

続いて、空間微分 $ \mathop{\emph ▽}\nolimits $ に対する四元空間微分演算子の変換を調べてみよう。 S' 系での $ {\displaystyle(\mathop{\emph ▽}\nolimits ',\partial/\partial(ct'))}$ は次のように書ける。

    $\displaystyle \D{}{x'}=\D x{x'}\D{}x+\D{(ct)}{x'}\D{}{(ct)}
=\gamma\left(\D{}x+\beta\D{}{(ct)}\right)$  
    $\displaystyle \D{}{y'}=\D y{y'}\D{}y=\D{}y$  
    $\displaystyle \D{}{z'}=\D z{z'}\D{}z=\D{}z$  
    $\displaystyle \D{}{(ct')}=\D x{(ct')}\D{}x+\D{(ct)}{(ct')}\D{}{(ct)}
=\gamma\left(\D{}{(ct)}+\beta\D{}x\right)$ (10.16)

ここで、 $ \partial x/\partial x'$ などの計算にはローレンツ逆変換を利用している。 この結果を見ると、 $ (d\emph r,d(ct))$ などとは異なり、 ローレンツ逆変換$ T'=T^{-1}$を受けることがわかる。 このようにローレンツ変換で逆変換を受けるベクトルを、 共変ベクトル(covariant vector)と呼び、 $ \partial_\mu$のように下付きサフィクスを付ける。

$\displaystyle (\partial_1,\partial_2,\partial_3,\partial_4) =\left(\D{}x,\ \D{}...
... \right)=\left(\mathop{\emph ▽}\nolimits ,\ \frac\partial{\partial(ct)}\right)$ (10.17)

時間微分の項の符号を反転するだけで、反変ベクトルとなるので、 本書では、そのようにした四元ベクトルを使うことにする。 なお、これをしばしば $ \partial^\mu$のように記載する。

$\displaystyle (\partial^1,\partial^2,\partial^3,\partial^4) =\left(\D{}x,\ \D{}...
...\right)=\left(\mathop{\emph ▽}\nolimits ,\ -\frac\partial{\partial(ct)}\right)$ (10.18)

ここで、 以下の成分 $ g_{\mu\nu}$を持つ計量テンソル(metric tensor)$ g$を導入しよう。 なお、テンソル(tensor)とは、ここでは行列のことと思って差し支えない。

$\displaystyle g=\left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -1 \end{array}\right)$ (10.19)

この$ g$を使うと、任意の共変ベクトル$ a_\mu$と、 それから誘導される反変ベクトルの$ a^\mu$間に、次式の関係が成立する。

$\displaystyle a_\mu=g_{\mu\nu}a^\nu$ (10.20)

同様に、式10.19と同じ要素を持つ計量テンソル $ g^{\mu\nu}$ も定義され、これにより、 次式のように共変ベクトルから反変ベクトルを得ることもできる。

$\displaystyle a^\mu=g^{\mu\nu}a_\nu$ (10.21)

次に四元ベクトル同士の内積を定義しておこう。 三次元の内積は $ \sum_ia_ib_i$で与えられたが、四元ベクトルの内積は $ \sum_\mu a^\mu b_\mu$で定義される。 この際、反変ベクトルと共変ベクトルの組合せであることに注意して欲しい。 ベクトルの要素で書くと、 $ a_xb_x+a_yb_y+a_zb_z-a_tb_t$である。 このようにすると、この値は座標変換に対し、不変量となる。 同様に $ \sum_\mu a_\mu b^\mu$も不変量である。 このように、サフィックスが上下に組み合わさると、不変量となるが、 反変ベクトル同士、あるいは共変ベクトル同士の積は不変量とはならないので、 内積とは言わない。

この値が不変量であることは次のようにして証明できる。

$\displaystyle a'^\kappa b'_\kappa =(T^{\kappa.}_{.\mu}a^\mu)({T'}^{\kappa.}_{.\...
...\mu}{T'}^{\kappa.}_{.\nu})\,\/b_\nu =a^\mu\delta_{\mu.}^{.\nu}b_\nu=a^\mu b_\mu$ (10.22)

アインシュタイン規約をふんだんに使っているので、注意して欲しい。 なお、四元ベクトルの自身との四元内積を、 「長さ」あるいは「絶対値」の二乗と呼ぶ。

逆に、任意のベクトルとある四元ベクトルとの内積が不変量であるとき、 この任意のベクトルが四元ベクトルであることも言える。 証明は各自、行なってみて欲しい。

内積を反変ベクトルのみで定義しようとすると、 $ b_\mu=g_{\mu\nu}b^\nu$であるため、 $ a^\mu g_{\mu\nu}b^\nu$により$ g$の絡んだ定義となる。

四元ベクトルの内積がローレンツ変換不変量であることから、 いくつかのことが言える。 例えば四元速度の長さの二乗は $ (dx/ds)^2+\cdots-(d(ct)/ds)^2=(dx^2
+\cdots-d(ct)^2)/ds^2=-c^2ds^2/ds^2=-c^2$ となる。 また四元運動量の長さの二乗は $ -(mc)^2$ となる。

四元速度の長さの一定性の式 $ v^\mu g_{\mu\nu}v^\nu=c^2$ の両辺を $ s$ で微分すると、次の式が誘導できる。

$\displaystyle v^\mu g_{\mu\nu}\frac{dv^\nu}{ds}=0$ (10.23)

つまり、四元速度と四元加速度の内積は 0 となる。 これから四元速度と四元力の内積も 0 となることが証明できる。

$\displaystyle v^\mu g_{\mu\nu}F^\nu=0$ (10.24)


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Yoichi OKABE 2008-03-29