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四元ベクトル

相対論的座標変換では、三次元空間における回転で、$ x$$ y$が 混ざるように、空間と時間が混ざってくる。 このような場合には、ベクトルの概念を使うと便利である。 当然、時間成分を加えた四元ベクトル(four-vector)となる。 ただし、時間成分は、空間成分とはやや異なる扱いを受け、 変換も異なることに注意したい。

力学におけるベクトルの代表は位置ベクトルである。 これに対応する四元ベクトルは $ (x,y,z,ct)$である。 $ (\boldsymbol{r},ct)$とも表す。 時間項が$ c$倍されているのは、空間と同じ次元になって、 空間座標との対応がよくなるからである。 これをまとめて$ x^n$と記載する。 また、基準系に対し移動している方の系 $ (x',y',z',ct')$の座標をまとめる際は、 ギリシャ文字を使って$ x^\nu$としよう。

上付きのサフィックスはべき乗の意味ではなく、 このベクトルが、すぐ後に説明される反変ベクトルと呼ばれるものであるからである。 また、 $ d\boldsymbol{r}$など太字で書いた量は、古典的な三次元のベクトルとする。

一般には$ x=0$$ t=0$が必ずしも$ x'=0$$ t'=0$ に対応していなくても相対論は成立するので、 前節の式11.4の変換式には定数のずれが入りうる。 しかしその場合でも、位置ベクトルの微小量に対しては同じ変換式が成立する。 位置ベクトルの微小量$ dx^n$$ dx^\nu$を次式のように定義する。 左辺は本来 $ (dx^n \vert n=1,\dots,4)$などと記載すべきであろうが、 簡単に$ (dx^n)$などと省略した。

$\displaystyle (dx^n)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle (dx, dy, dz, cdt)$ (469)
$\displaystyle (dx^\nu)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle (dx', dy', dz', cdt')$ (470)

すると、これらの間には式11.4の変換式が成立する。

$\displaystyle dx^\nu=\sum_n u^\nu_n dx^n %7.4
$ (471)

ここで

$\displaystyle u^\nu_n=\D{x^\nu}{x^n}$ (472)

である。

なお、四元の世界では、通常の行列やベクトル表示をせず、 成分を記載することが多いので、これらの積が現れる都度、 $ \sum$の記号が出現し、うっとうしくなる。 このため、上下に同じサフィックスが現れたときには、 $ \sum$の記号がなくても、そのサッフィクスに関する合計をするものと約束する。 なお、分数の分母に上(下)付き変数がある場合は、 分数全体の下(上)付きとみなす。 これをアインシュタイン規約(Einstein convention)という。 例えば式11.10は次式のようになるが、$ n$が上下にあるため、 $ \sum_n$が省略されていることになる。

$\displaystyle dx^\nu=u^\nu_n dx^n$ (473)

この変換係数(transform coefficient)$ u^\nu_n$順変換係数(forward transform coefficient)と呼び、 $ \nu$$ n$列の行列で書くと、 次のようになる(以後、上下にサフィックスがある場合には、 上のサフィックスを行、下のサフィックスを列とする)。

$\displaystyle (u^\nu_n)=\left(\D{x^\nu}{x^n}\right) =\left(\begin{array}{cccc} ...
... 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ -\gamma\beta & 0 & 0 & \gamma \end{array}\right)$ (474)

このように座標変換の際、$ u^\nu_n$ によって変換されるベクトルを、反変ベクトル(contravariant vector)と呼ぶのである。 また、反変ベクトルは$ A^\nu$のように、 サフィックスを上に付ける約束になっている。

これに対し、後に紹介されるある種のベクトルは、 $ u^n_\nu=\partial x^n/\partial x^\nu$ によって座標変換される。 この変換係数は$ dx^\nu$$ dx^n$へ逆変換する際に用いられるものであり、 逆変換係数(reverse transform coefficient)と呼ぶ。 逆変換係数で変換されるベクトルは共変ベクトルと呼び、$ A_\nu$のように、 サフィックスを下に付ける約束になっている。 この行列の成分を求めてみると、 順変換行列の $ -\gamma\beta$のところだけが符号反転し、 $ +\gamma\beta$となるだけである。

$\displaystyle (u^n_\nu)=\left(\D{x^n}{x^\nu}\right) =\left(\begin{array}{cccc} ...
...& 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ \gamma\beta & 0 & 0 & \gamma \end{array}\right)$ (475)

改めて、四元ベクトルとは順変換係数で変換される反変ベクトルや 逆変換係数で変換される共変ベクトルのことである。

逆変換行列$ (u^n_\nu)$ は順変換行列$ (u^\nu_n)$の逆行列になっている。 これは $ \partial x^n/\partial x^m=\delta^n_m$であることと、 この式の左辺が、$ x^\nu$を媒介変数として次のように変形できることから、 明かである。

$\displaystyle \D{x^n}{x^m}=\D{x^n}{x^\nu}\D{x^\nu}{x^m} =u^n_\nu u^\nu_m\qquad(=\delta^n_m)$ (476)

速度の四元ベクトルを考えよう。 もともと、$ v_x=dx/dt$などと定義されているが、 これをそのまま第四成分に拡張すると $ v_t=d(ct)/dt=c$となって、 第四成分だけ定数となってしまい、何かがおかしい。 $ \left(dx,dy,dz,d(ct)\right)=\left( d\boldsymbol{r},d(ct)\right)$は 確かに四元ベクトルになっているが、 分母の$ dt$はローレンツ変換不変ではないからである。 そこで$ dt$にきわめて近い概念で、かつ$ dt$ とは高速で僅かに異なるローレンツ変換不変の概念である世界時$ ds$ なる概念が、分母として使われる。

$\displaystyle ds=\sqrt{dt^2-(dx^2+dy^2+dz^2)/c^2}=\sqrt{1-\beta_v^2}\ dt$ (477)

平方根の中は、微小距離の「絶対値の二乗」であるので、 ローレンツ変換不変量であることは容易に理解できよう。 なお、上式で $ \beta_v=v/c$である。 $ \beta$は座標変換の際の座標間の速度$ V$に対応するものであるが、 質点の速度$ v$に対応するものについては$ \beta_v$を用いることとした。 同様に、$ \gamma$は座標変換の際の座標間の速度$ V$ に対応するものであるが、 質点の速度に対応しては $ \gamma_v=1/\sqrt{1-\beta_v^2}$を定義する。

粒子の速度$ v$が光速に比べ十分遅い場合には、 $ ds\doteqdot dt$ となる。 四元ベクトル$ dx^n$を、 変換不変量であってかつ$ dt$にきわめて近い概念である$ ds$で割ることにより、 速度の四元ベクトルである四元速度(four-vector velocity)$ v^n$を定義する。

$\displaystyle (v^n)=\left(\frac{dx^n}{ds}\right) =\left(\frac{dx}{ds},\frac{dy}{ds}, \frac{dz}{ds},\frac{d(ct)}{ds}\right)=\gamma_v(\boldsymbol{v},c)$ (478)

四元速度に、静止質量$ m$を掛けたものは、四元運動量(four-vector momentum)$ p^n$ と呼ばれる。

$\displaystyle (p^n)=m(v^n)=m\gamma_v(\boldsymbol{v},\ c)$ (479)

四元運動量の空間成分は、低速では古典的運動量に一致する。 第四成分は、 $ p_t=mc^2+(1/2)mv^2+\cdots$となるが、 低速では固定分$ mc^2$の差はあるものの、運動エネルギーに一致する。 このため、この項は質点のエネルギーと考えられる。 また、固定分、つまり静止時のエネルギー$ mc^2$ は原子爆弾の概念の基礎となった有名な式でもある。

$ v^n$が四元ベクトルなら、その微小量も四元ベクトルである。 したがって、四元速度をさらに$ s$で微分することにより、 四元ベクトルである四元加速度(four-vector acceleration)$ a^n$が定義できる。

$\displaystyle (a^n)=\left(\frac{dv^n}{ds}\right) =\left(\frac{d^2x^n}{ds^2}\right)$ (480)

$ \boldsymbol{F}$を古典的な力として、 ニュートンの運動方程式は $ d\boldsymbol{p}/dt=\boldsymbol{F}$などと書ける。 これから、相対論における運動方程式も $ dp^n/ds=F^n$となることが予想できる。 $ (F^1,F^2,F^3)$は低速で $ \boldsymbol{F}$に一致する四元力の空間成分であり、 より厳密には $ (F^1,F^2,F^3)=\gamma_v\boldsymbol{F}$である。 また古典力学では、$ E$を質点のエネルギーとして、 $ dE/dt=\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v}$が成立するので、 四元運動量の第四項がエネルギーに対応することを考慮して、 $ dp^4/ds=\gamma_v\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v}/c$が誘導できる。 つまり、運動方程式

$\displaystyle m\D{v^n}s=F^n$ (481)

を満す四元力(four-vector force)$ F^n$は、次式で定義される。

$\displaystyle (F^n)=\gamma_v(\boldsymbol{F}, \boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v}/c)$ (482)

続いて、反変ベクトルの例として、任意のスカラー関数$ f$の空間微分 $ \mathop{\emph ▽}\nolimits f$ に対する四元空間微分演算子の変換を調べてみよう。 S$ '$系での $ {\displaystyle(\mathop{\emph ▽}\nolimits ' f,\partial f/\partial(ct'))}$ は次のように書ける。

    $\displaystyle \D f{x'}=\D x{x'}\D fx+\D{(ct)}{x'}\D f{(ct)}
=\gamma\left(\D fx+\beta\D f{(ct)}\right)$  
    $\displaystyle \D f{y'}=\D y{y'}\D fy=\D fy$  
    $\displaystyle \D f{z'}=\D z{z'}\D fz=\D fz$  
    $\displaystyle \D f{(ct')}=\D x{(ct')}\D fx+\D{(ct)}{(ct')}\D f{(ct)}
=\gamma\left(\D f{(ct)}+\beta\D fx\right)$ (483)

ここで、 $ \partial x/\partial x'$ などの計算にはローレンツ逆変換を利用している。 この結果を見ると、 $ (d\boldsymbol{r},d(ct))$などとは異なり、 ローレンツ逆変換を受けることが分かる。

$\displaystyle \partial_\nu f=u^n_\nu\partial_n f$ (484)

ここにあるように、 $ \partial/\partial x^\nu$などは、 しばしば $ \partial_\nu$などと略記される。 このようにローレンツ変換で逆変換を受けるベクトルを、 共変ベクトル(covariant vector)と呼び、 $ \partial_n$ $ \partial_\nu$のように下付きサフィックスを付ける。
$\displaystyle (\partial_n)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \left(\D{}{x^n}\right)
=\left(\D{}x,\ \D{}y,\ \D{}z,\ \frac\parti...
...
\right)=\left(\mathop{\emph ▽}\nolimits ,\ \frac\partial{\partial(ct)}\right)$ (485)
$\displaystyle (\partial_\nu)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \left(\D{}{x^\nu}\right)
=\left(\D{}{x'},\ \D{}{y'},\ \D{}{z'},\ ...
...right)=\left(\mathop{\emph ▽}\nolimits ',\ \frac\partial{\partial(ct')}\right)$ (486)


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日