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ベクトル場の回転

ベクトル場の回転(rotation)について述べよう。 回転とはベクトルが渦状に並んでいることを指す。 地球のような閉曲面に沿って、ベクトル場が面の接線方向に絡み付いて、 ちょうど偏西風のように回っているとすると、 このベクトル場は明らかに地軸を軸とする渦上の流れを構成している。 もっと複雑な場合にも、次のような計算をすれば、 閉曲面全体で合計した渦の軸方向と強さを求めることができよう。

閉曲面の上のある面要素を考える。 そこで面の法線ベクトルとベクトル場のベクトル積をとると、 その方向は回転軸の方向となり、ベクトルの接線方向の強さにもなっている。 これを面要素の重みをつけて合計すれば、 閉曲面全体をとりまく渦の方向と強さになろう。 ベクトル積があちこちを向いて全体として合計すると0になるときは、 渦はなかったというふうに考える。 領域の周辺での回転は次式で計算できる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph A$ (2.35)

これを回転積分(rotation integral)と呼ぼう。 この場合、ベクトル積が使われているため、もしdSA の順を入れ替えて記載する場合には、負号を付けねばならない。

Figure 2.6: 面ベクトルと直線電流の作る磁場ベクトルとのベクトル積の分布
\begin{figure}\begin{center}
%
\unitlength 1pt
\begin{picture}(113,139)
\put(0,...
...makebox(0,0)[b]{{\footnotesize\rm$I$}}}
\end{picture} \end{center}
\end{figure}

例えば、直線上、下から上へ流れる電流の作る磁場は、 電流路を取り囲む円周に沿ったベクトル場になる。 これを電流路上の一点を中心とする球面上で回転積分をしてみると、 図 2.6に見られるように、 どのベクトル積も球面に沿うベクトルになるが、球面から電流が流れ出す点、 つまり北極点を向いている。 これを積分すると上向きのベクトルとなる。 つまり、回転が存在し、その右ネジの進む方向のベクトルが得られる。

領域が小さく、ベクトル場が緩やかに変化している場合には、 この回転積分を一次の近似で計算することができ、次式が得られる。

    $\displaystyle \lim_{\Delta V\rightarrow0}\frac1{\Delta V}\oint_{\Delta V}\emph{dS}
\times\emph A$ (2.36)
    $\displaystyle \qquad=\emph i\left(\D{A_z}y -\D{A_y}z\right) +\emph j
\left(\D{A_x}z-\D{A_z}x\right) +\emph k
\left(\D{A_y}x-\D{A_x}y\right)$  

これを、一点付近の回転(rotation)という。 ここでも、積分の結果は閉曲面の形によらず、囲む領域の体積に比例する。

発散積分のときと同様に、領域の付近で $ \emph A=\emph iA_x+\emph jA_y+\emph
kA_z$をテイラー展開する。 $ \emph{dS}\times\emph A$を一次の近似の範囲で積分すると、 一定値の面積分は0であり、$ x$$ y$$ z$に比例する部分は$ \emph iV$$ \emph jV$$ \emph kV$になるから、次のようになる。

    $\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph A$  
    $\displaystyle \quad=V\left[\emph i
\left(\D{A_z}y-\D{A_y}z\right) +\emph j
\left(\D{A_x}z-\D{A_z}x\right)+\emph k
\left(\D{A_y}x-\D{A_x}y\right)\right]$  
    $\displaystyle \qquad+\emph O^2$ (2.37)

ただし、$ \emph i$$ \emph j$$ \emph k$のベクトル積の計算は実行してある。

この一点の回転を表す微分形を$ \emph A$rot(rotation)と定義する。

rot$\displaystyle \emph A\!=\!\mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \...
...+\emph j \left(\D{A_x}z-\D{A_z}x\right) +\emph k \left(\D{A_y}x-\D{A_x}y\right)$ (2.38)

rotAと記してもよいし、 $ \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph A$と記してもよいが、 本書では原則 $ \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph A$とする。 この場合も、 ベクトル演算子 $ \mathop{\emph ▽}\nolimits $$ \emph A$の形式的なベクトル積をとると、 右辺の式と同じ形になることから便利に使われる表記法である。

さらに、発散とまったく同様に大きな閉曲面上での回転積分を計算することができ、 面積分と体積積分を結び付けるベクトル場ベクトル積面積分のガウスの定理(Gauss theorem of vector product surface integral of vector field)が 得られる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph A =\int_VdV\,\mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph A$ (2.39)

例えば、クーロン場(Coulomb field) $ \emph r/r^3$の場合には、次のようになる。

$\displaystyle \oint_V\emph{dS}\times\emph A=\emph0$ (2.40)

まず、クーロン場の rot を計算してみよう。

$\displaystyle \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \frac{\emph r}{r^3}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \emph i
\left[\D{(zr^{-3})}y -\D{(yr^{-3})}z\right]+\emph j
\cdots\,+\emph k\cdots$ (2.41)
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \emph i \left(-3zr^{-4}\frac yr+3yr^{-4}\frac zr\right)
+\emph j \cdots\,+\emph k\cdots\,=\emph0$  

ただし、原点では被微分関数が$ \infty$であるから、 上式が成立するとは限らない。 さて、一般の閉曲面に対する回転積分を求めてみよう。 $ \emph r/r^3$の発散積分のときと同様に、 閉曲面で囲まれた領域から原点を中心とする小さな球形の領域を除いた殻空間を考え、 そこに上記の積分定理を適用してみよう。 すると、そのすべての空間で $ \mathop{\mathop{\emph ▽}\nolimits \times}\nolimits \emph A=\emph0$であるから、 左辺は0となる。 一方、右辺は閉曲面での回転積分から球面での回転積分を引いたものになる。 ただし、球面上で$ \emph{dS}$の方向は半径の増加方向とした。 したがって、閉曲面上での回転積分は球面上での回転積分と一致する。 さて球面状での回転積分であるが、 $ \emph{dS}\times\emph A$$ \emph{dS}$$ \emph r$がいつでも同方向であるため、0となる。 したがって、回転積分は明らかに0となる。

別例として、直線電流の作る磁場を考えよう。 磁場のベクトルは、電流路からの距離を$ R$とするとき、 電流路を囲む円の円周方向を向き、大きさは比例係数を除いて$ 1/R$となる。 図 2.6に示すように、 球面上でのこのベクトルの回転積分を実行してみよう。 球の半径を$ r$とすると次のようになる。

$\displaystyle \int dS\,\frac{\sin\theta}R=2\pi L$ (2.42)

なお、電流路の長さ$ 2r$$ L$と置いた。 このように、右辺はこの体積中に存在する電流路の長さに比例する。

場のベクトルと$ \emph{dS}$のベクトル積は、図のように、 球面に沿って北極の方向を向いている。 二つのベクトルが直交していることから、ベクトル積には角度補正は必要としないが、 ベクトル積ベクトルの結果の総和を求めるときには、 電流路の成分を求めてから和をとる必要がある。

$\displaystyle \int dS\,\frac{\sin\theta}R=\int_0^\pi\int_0^{2\pi}r^2 \sin\theta\,d\theta\,d\phi\, \frac{\sin\theta}{r\sin\theta}=2\pi\,(2r)=2\pi L$ (2.43)

同じ回転積分を、別の手法で計算することもできる。 クーロン場の発散積分と同様に、電流路を囲む半径$ a$の筒状の領域と、 その部分を除いた領域の二つの積分の和に置き換えることができる。 除いた部分の積分は、このベクトル場のrotが0であるので、0となる。 筒状の領域の積分は、表面でベクトル積がすべて同じ値の上向きで$ dS/a$ の値を持つベクトルとなることから簡単に計算できる。 $ 1/a$に筒状の領域の表面積を掛けた大きさ $ 2\pi(2r)=2\pi L$ のベクトルとなり、上記の結果と一致する。


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Yoichi OKABE 2008-03-29