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計量テンソル

計量テンソル(metric tensor)$ g_{nm}$と呼ばれる行列を導入しよう。 これは、 この空間における不変量である長さ(厳密にはその2乗)を定義する行列である。 三次元空間における長さは $ dx^2+dy^2+dz^2$で与えられるが、 残念ながら、これはローレンツ変換に対して不変量ではない。 これにちょっと補正した$ -ds^2$が不変量である。

$\displaystyle -ds^2=dx^2+dy^2+dz^2-d(ct)^2$ (487)

これを $ g_{nm}x^nx^m$のように書いて、係数を計量テンソルと呼ぶのである。

$\displaystyle (g_{nm})=\left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -1 \end{array}\right)$ (488)

変換後の座標系における $ g'_{\nu\mu}$は次式が成立することから、 この行列と同じ形になる。

$\displaystyle -ds^2=dx'^2+dy'^2+dz'^2-d(ct')^2$ (489)

これらを使うと、任意の反変ベクトル$ A^n$から 共変ベクトル$ A_n$を誘導することができる。

$\displaystyle A_n=g_{nm}A^m$ (490)

こうした作業を降階(lowering)と呼ぶ。

$ A_n=g_{nm}A^m$が共変ベクトルであることは、 $ A_\nu=g_{\nu\mu}A^\mu$$ A_n$を逆座標変換したものと一致することで確認できる。

$\displaystyle A_\nu=g_{\nu\mu}A^\mu=g_{\nu\mu}u^\mu_m A^m =u^n_\nu g_{nm}A^m=u^n_\nu A_n$ (491)

ここで三番目の等号は、具体的な行列の掛算により、 $ g_{\nu\mu}u^\mu_m=u^n_\nu g_{nm}$ が成立することから導かれる。

同様に、式11.27と同じ要素を持つ計量テンソル$ g^{nm}$ も定義され、これにより、 次式のように共変ベクトルから反変ベクトルを得ることもできる。

$\displaystyle A^n=g^{nm}A_m$ (492)

これを昇階(raising)という。

なお、テンソル(tensor)とは、座標変換した場合、 順変換係数や逆変換係数の組み合わせだけで変換される行列のことである。 行も列も順変換係数で変換される行列を反変テンソル(contravariant tensor)、 ともに逆変換係数で変換される行列を共変テンソル(covariant tensor)、 行が順変換係数で列が逆変換係数で変換される行列などを 混合テンソル(mixed tensor)と呼ぶ。 また、テンソルについても、計量テンソル$ g_{nm}$$ g^{nm}$を用いて、 サフィックスを上下することができる。

計量テンソル自身もテンソルという名前から想像できるように、テンソルである。 $ g^{nm}$は反変テンソル、$ g_{nm}$は共変テンソルであり、 いずれも計算してみると、式11.27の行列と同じとなる。 実は、計量テンソルは世界時の不変原理を行列で表現したものである。 相対論における変換行列は、 世界時の不変原理が保たれるように選ばれた変換であるので、 変換後のテンソルは、当然、元と同じ形になるのである。

$ g^{nm}$を降階するか、$ g_{nm}$を昇階することで、 混合テンソルが$ g^n_m$が得られるが、これは下記の式からわかるように、 降階して昇階する作業となり、結果として、何もしないことになるので、 対角要素のみすべて1のクロネッカーデルタに等しい。

$\displaystyle g^n_m=g^{nl}g_{lm}=\delta^n_m$ (493)

次に四元ベクトル同士の内積を定義しておこう。 三次元の内積は $ \sum_n A_n B_n$で与えられたが、四元ベクトルの内積は $ A^n B_m$で定義される。 もちろん、総和記号は略されている。 この際、反変ベクトルと共変ベクトルの組み合わせであることに注意してほしい。 ベクトルの要素で書くと、 $ A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z-A_tB_t$である。 このようにすると、この値は座標変換に対し、不変量となる。 同様に$ A_n B^n$も不変量である(実は$ A^n B_n$と一致する)。 このように、サフィックスが上下に組み合わさると、不変量となるが、 反変ベクトル同士、あるいは共変ベクトル同士の積は不変量とはならないので、 内積とはいわない。

これらの値が不変量であることは次のようにして証明できる。

$\displaystyle A^\nu B_\nu =\left(u^\nu_n A^n\right)\left(u^m_\nu B_m\right) =A^n\left(u^\nu_n u^m_\nu\right)B_m =A^n\delta_n^m B_m=A^nB_n$ (494)

アインシュタイン規約をふんだんに使っているので、注意してほしい。 なお、四元ベクトルの自身との四元内積を、 「長さ」あるいは「絶対値」の二乗と呼ぶ。 逆に、任意のベクトルとある四元ベクトルとの内積が不変量であるとき、 この任意のベクトルが四元ベクトルであることもいえる。 証明は各自、行ってみてほしい。

内積を反変ベクトルのみで定義しようとすると、 $ B_n=g_{nm}B^m$であるため $ g_{nm}A^n B^m$となり、 $ g_{nm}$の絡んだ定義となる。

四元ベクトルの内積がローレンツ変換不変量であることから、 いくつかのことがいえる。 例えば四元速度の長さの二乗は $ (dx/ds)^2+\cdots-(d(ct)/ds)^2=(dx^2
+\cdots-d(ct)^2)/ds^2=-c^2ds^2/ds^2=-c^2$となる。 また四元運動量の長さの二乗は$ -(mc)^2$となる。 つまり、 $ (p^4)^2=(mc)^2+(p^1)^2+(p^2)^2+(p^3)^2$が成立する。 これは$ E$を粒子の相対論的エネルギー、 $ \boldsymbol{p}$を相対論的運動量として、 しばしば $ (E/c)^2=(mc)^2+(\boldsymbol{p})^2$と書かれる。 特に$ m=0$のとき、 $ E^2=c^2\boldsymbol{p}^2$となるが、 先に8.5節と8.6節で、 電磁場のエネルギーの流れ $ \boldsymbol{S}$と運動量 $ \boldsymbol{g}$の間に $ \boldsymbol{S}
=c^2\boldsymbol{g}$の関係が成立することを示したが、 それとの対応から、電磁場は静止質量0の粒子に対応すると理解されている。

四元速度の長さの不変性の式 $ g_{nm}v^n v^m=c^2$の両辺を $ s$で微分すると、次の式が誘導できる。

$\displaystyle g_{nm}v^n \frac{dv^m}{ds}=0$ (495)

つまり、四元速度と四元加速度の内積は0となる。 これから四元速度と四元力の内積も0となることが証明できる。

$\displaystyle g_{nm}v^n F^m=0$ (496)


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Yoichi OKABE 平成21年7月3日