下るときには、かなりの技術が必要である。 基本はいかに膝に負担を掛けないかである。 中高年登山ではいうまでもないが、若い人も注意が必要である。 若いころは、膝に負担を掛けても、皿が笑うぐらいで、 障害を感じないことが多いが、四十肩五十腰の出るころになると、 必ず若いころに掛けた無理が顕在化してくる。 したがって、若いころから負担を掛けない歩き方に心掛けるべきである。
まずは可能な限り飛び降りないことである。 飛び降りると、位置のエネルギーが衝撃に変換され、元々の重力に加わって、 膝に力が掛かることになる。 0.5m のステップを飛び降りて、その衝撃を 0.1s で受け止めたとすると、 体重の約 4 倍もの力が膝にかかるのである。
[参考]
飛び降りると、位置のエネルギーが速度のエネルギー
に変換される。 この結果、着地の際は
の運動量を持つことになる。 これを
秒で停止するとすると、膝にかかる力は、元々の重力
に加え
だけ増加し、
となる。 上記の 4倍や下記の 3倍の衝撃力は、この式から求めた。
このくらいの衝撃は、公園で飛び降りたりするときによく経験する値であるから 何でもないと思われるかも知れないが、公園では数回なのが、山では千回以上、 数千回の衝撃になるので、それこそ皿が笑い出すことになる。
階段を降りるときにも、このくらいの衝撃はあると思われるかも知れない。 階段の場合には、0.2mステップなので、衝撃は少なそうであるが、 それでも体重の約3倍の衝撃がかかる。 しかし、まず回数が少い。5階から下っても、100回ぐらいである。
実は、階段の下りの際、多くの人は、 自分の体重を支える力しか出していないのである。 つまり、膝への衝撃は 3倍どころか、ほとんど掛かっていないのである。 えっと思われるかも知れないが、自重を支える力だけで、 安定に階段を下っていくことが可能なのである。 したがって、階段ならばかなりの段数を下っても、 膝などへの負担は少いのである。
この仕掛けについて述べよう。 最大のコツは、重心を一定の速度で落としていくことなのである。 この説明には、ニュートンの法則を逆向きに使う。 一定の移動には、加速や減速がない。 つまり、重心にかかる力の合力は 0 のはずである。 人間の体には常時体重に相当する重力が掛かっているから、 これを相殺するだけの力が足から伝わってきていることになる。 つまり、足に掛かる力は、 常に重力と同じで一定になり衝撃を感じないはずである。 このように、 通常の階段下りでは飛び降りをせず、 じわじわと重心を移動することにより衝撃を抑えているのである。 ステップごとに一旦停止すると、先程述べたような負担がかかるのである。 そこで、一定に下降するのがよいということになる。
さて、こうするには、ステップを降りるときに次の足を出す際、 残った後足で重力を支えたまま、重心を下していく必要がある。 前足が階段面に接触したら、重力を後足から前足へ急いで移動していく。 この間も、重心を一定のペースで落としていく必要がある。 前足に重心を移し終えたら後足を前に出し、重心を一定の速さで落としながら、 次のステップを捕まえる。 かと言って、重心を後に引いていると、膝を痛めるので、 積極的に谷側へ降りていく。 ただ、体重をいきなり前足に掛けないようにするのがコツである。
階段のように、ステップ高が小さいときには、このように上手くいく。 大きな段差を見ても、可能な限り、 階段の高さに近いステップを探すべきである。 しかし、山ではステップ高が大きく、 かつ適切な足場が見当たらないことが多い。 その場合には、まず、可能な限り、重心の下降を止めないようにする。 大きなステップを見ると、一旦停止したくなるが、 それをなるべくしないようにする。 つまり、膝を曲げて重心を落としながら、前足を次のステップに近づける。 50cm 以上のステップがある場合には、前足がステップに届かず、 飛び降りざるを得ないかも知れないが、その場合には、 重心を落としながら飛び降りる。 そして前足への負担を可能な限り減らすように、 足首や膝を柔らかくして、ソフトに着地する。 着地後も、さらに次のステップを意識して、重心を落としていく。
簡単に言うと、ドンドンと降りるのではなく、猫のように、また忍者のように、 そっと降りていけばよいのである。 ドンドン降りると首がガクガクする。 首への衝撃がないように意識すればよいだろう。 まずは、最寄りの階段で、首への負担を意識して、色々練習してみよう。 時々二段おきを入れてみて、それでも衝撃が少いように試行してみる。 急に踊り段などの平な所に到着したときには、急に重心下降を停止せず、 少し腰を沈めてから足を伸ばす方が衝撃が少いことも分るであろう。