ハミルトニアン・オペレータ
は、どのような物理的意味を
持っているのだろうか。
それを理解するために、簡単な運動方程式を解いてみよう。
運動方程式3.11で、もっとも簡単な形というのは、
基底状態が一つしかなく、かつ、時不変の場合である。
このとき、任意の状態は、一個の基底で展開されるだけとなる。
例えば、その基底を
とすると、
の成分は、
のみとなる。
また、
の成分も、
のみとなる。
これを、
と表す。
従って、運動方程式は簡単に表される。
まず、式3.10のエルミート性より、
となり、
は実数である (実は、これが実数となるように、
の定義のさい、係数に、複素数を導入したのであるが、詳しくは、
後に述べる)。
さらに、時不変であるから、
は時間によらない一定値となる。
上式は、一元一階微分方程式であり、その解は、容易に求めることができる。
微分方程式に限らず、差分方程式でも積分方程式でも、方程式が線型の
場合は、
といった、指数関数の形が、解になる。
そこで、ここでも、次の形の解を、仮定してみよう。
この形の解を、式3.13へ代入すると、
となることから、
となる。
従って、
、つまり、
であれば、式3.14は、式3.13の
解となることがわかる。
はどんな数であっても、この解は式3.13を
満たすが、
で、
が
であるということを考慮すると、
となる。
これより次式が得られる。
この式から、
は、図3.1のように、
複素平面を
の角周波数で、
負方向に回転するベクトルになることが、わかる。
基底状態が一個しかないことを考えると、
であるから、
も常に 1 となる。
ここで第1章で述べたアインシュタインの関係(Einstein relation)を、
思い起こしてもらいたい。
「エネルギー
の量子状態、に対応する確率振幅は、
3.1の
形で時間変化し、
の関係がある。」
このことと、式3.15を見比べてみると、
となり、状態
は、
のエネルギーを
持っていることになる。
このように、
は、エネルギーと極めて密接な関係にある、
オペレータである。
もともと、ハミルトニアンという言葉は、古典力学で、系の全エネルギーを
運動量と位置のみを変数として表したものに、付けられた名前であり、その
概念を、量子力学に発展させたものが、ハミルトニアンオペレータである。
の定義の際、
という係数を導入したのは、
が、直接エネルギーに対応するように工夫した結果である。
では、
、つまり系が、二個の基底状態で表現できる場合を、
考えてみよう。
を
と表すと、次の
運動方程式になる。
のエルミート性、
より、次式が
得られる。
| (3.17) |
つまり、
と
は実数、
と
は、
互いに複素共役となる。
まず、
で、
がたまたま、0
であったとしてみよう。
すると、式3.16の上式を積分することにより、
が得られる。
このように、
の寄与により、
は、徐々に 0 から増加していく。
つまり、
は、
が、どのくらい
に影響を及ぼしているかの程度を、示している。
逆に、
は、
が
に及ぼす影響の程度を、示している。
従って、
が小さく、
が大きい場合には、
は、
の影響で、徐々に
増加していくことになる。
は、考えている系の状態が、
という
状態をとる確率振幅であり、同様に、
は、
状態をとる確率振幅であるから、前式に述べた現象は、系が
の状態にいる可能性が減少し、
の状態にいる
可能性が増加することを、示している。
このことを、状態
から
への遷移(transition)、と呼ぶ。
このように、
は、
から
への遷移に強く
関係し、
は、
から
への遷移に強く関係する
量である。
また、
より、これら両遷移の程度は等しくなる。
と
は、式3.16で、
としてみると、物理的意味が明らかになる。
この場合、二つの式はそれぞれ独立となり、上の式からは、
式3.15と同じ形の解が、得られる。
つまり、
は、
のエネルギーを持ち、
同様にして、
は、
のエネルギーを
持つことが、示される。
以上をまとめると、ハミルトニアンオペレータ
の非対角成分
は、ある状態
から、別の状態
への
遷移の可能性を表しており、確率振幅の結合の程度を示している。
また、対角成分
は、状態間の結合のない (
がすべて 0
の) 場合の、各状態のエネルギーを表しているといえる。