前節ではやや複雑な式が現われたが、以下の議論では
を基底状態としたときに、
、
、
、
がどう表されるかということだけである。
コマの運動を観察すると、図4.9のように軸が円を 描くように回転する、いわゆるみそすり運動が観察される。 これは、コマに作用する重力と、地面からの垂直抗力の作るコマを倒そうとする 力の、モーメントによるものである。 従って、ジャイロのような、コマに力のモーメントが働かない工夫すると、 みそすり運動は起きず、コマの軸は一定方向に保たれる。
電子のスピンも、前節で述べたようにコマのようなものであり、それに力の
モーメントをかけると、みそすり運動を起こす可能性がある。
スピンに、力のモーメントを与える簡単な方法は、一様な
静磁界をかけることである。
軸正方向に、磁束密度
の磁界をかけてみよう。
すると、前節に示したように、
軸正方向を向いた電子スピン状態
は、磁気モーメントが下を向くため、
の高い
エネルギーを持つのに対し、負方向を向いたスピン状態
は、
逆に、
の低いエネルギーを持つ。
このことから、ハミルトニアンの対角項は、
と
となることがわかる。
つまり運動方程式は、次のようになる。
| (4.23) |
非対角要素が 0 なのは、
軸方向の磁界中で
は、
いくらたっても
の状態におり、同じように、
もその状態を保つことから、それぞれの遷移確率が 0 ということを示す。
この方程式は、
に関する式と、
に関する式が、始めから分離しているので、簡単に解くことが
できる。
| (4.24) |
あるいは、上式左より
を掛け、下式に
を掛け、
辺々加えることにより、次のベクトル表示の解が得られる。
いうまでもなく、
ならば、次式が成立する。
したがって、
は、永久に
の状態を続ける
(位相項は確率にはきかない)。
また、同様に
ならば、
は
の状態を続ける。
それでは、
で、このスピンが、
軸の方向を向いていたとしたら、
どうであろうか。
前節の式4.12の結果を利用すると、式4.25は、
次のようになる。
つまり、
が
をとる確率は、恒に 1/2、
さらに
をとる確率も、恒に 1/2 となることがわかる。
次に、この解が
、
、
、
をとる確率を計算してみよう。
問題4..10 式4.26の解
が、
、
、
、
をとる確率振幅をそれぞれ
求めよ。
答え
![]() |
(4.27) |
上問の結果より、それぞれの状態をとる確率は次のようになる。
その結果を図示すると、図4.10のようになる。
で、
の状態に確定していたスピン状態は、その後、
時間の経過につれて、
の状態と
の状態が
混ざり、
では、丁度 1/2 ずつの確率で、二つの
状態をとるようになる。
この時、実は
が 100% となる。
つまり、
は、
状態に確定する。
以下順に、
、
、再び
と状態を
変えていく。
まさに、電子が味噌すり運動を起こしているのがわかる。
大きなコマの運動と唯一異なる点は、角運動量が連続的に
観測できないことである。
例えば角運動量の
成分を観測すると、
か
のいずれしか観測されない (図4.4)。
前者が
であり、後者が
であり、同じ実験を
何回か繰り返すと、
と
だけが求まるということである。
これに対し、コマの場合は角運動の
成分は、連続的に
観測することができる。
しかし、これも現在の量子力学の立場から見れば、図4.6に
示したように、
は
おきのとびとびの値しか
観測されないはずで、ただ
の最大値に対し、
があまりにも
小さいため、あたかも連続的に見えるだけと言える。
磁界の方向が、
軸に平行でない場合のハミルトニアンを、考えてみよう。
例えば、磁界が
正方向を向いており、その磁束密度が
であるとしよう。
すると、
のスピン状態は、
のエネルギーを持ち、
さらに時間とともに、その方向を変えないはずである。
同様に、
のスピン状態は、
のエネルギーを持ち、
やはりその方法を維持するはずである。
つまり、次のような解を持つような、運動方程式を探せばよい。
問題4..11 ハミルトニアンの各成分を、
、
、
、
とする。
式4.28の各式が、それぞれ、運動方程式の解になることを
利用して、これらの値を定めよ。
答え
.
上問のようにして、
を定めることもできるが、
をもっと簡単に求める方法がある。
それは、
と
が、互いに直交するエネルギー
固有状態である、ことを利用する方法である。
一般に
の固有値を
、固有状態を
とするとき、
は次のように表すことができる。
| (4.29) |
何故かと言うと、
は、互いに直交しているので次式が
成立する。
つまり、確かに
、
が、
の
固有解になっているからである。
磁界
中のスピンのハミルトニアンは、次のように、簡単に
表すことができる。
| (4.30) |
問題4..12 上式を用い、ハミルトニアンの各成分を求めよ。
答え
前問の結果と同じ
次に、
方向に磁界をかけてみよう。
このときも同様にして、ハミルトニアンを求めることができる。
| (4.31) |
問題4..13
方向の磁界中のスピンの、ハミルトニアンの各成分を求めよ。
答え
。
最後に、任意の方向に磁界をかけた場合を考えてみよう。
この場合、磁界の磁束密度は
の三成分を、すべてを
有することになる。
この場合のハミルトニアンは、一見複雑に思えるが、各成分の効果が加法的に
入ってくるものとし、
に対するハミルトニアン、
、
に
対するハミルトニアンのそれぞれの和の形を考えてみればよい。
問題4..14 上式のハミルトニアンに対する、運動方程式の解を求めよ。
答え
として、次のようになる。

この解を見てみると、磁束密度の絶対値を
とするとき、
と
がハミルトニアンの固有値となっており、座標に平行な磁界を
引加したときの固有値と同じ形をしている。
平行な場合の結果から類推すると、
に対する固有状態は、
スピンが
の方向を向いており、
に
対しては
方向を、向いているはずである。
極座標で、
の方向を向く 1/2 スピンの確率振幅は、
前節で求めてあり、式4.21より、次式で与えられる。
![]() |
(4.33) |
従って、
に対する固有状態と、この式を比べてみれば、
固有状態にあるスピンの方向が、わかるはずである。
問題4..15 前問の、固有状態に対するスピンの方向を求めよ。
量子力学での状態は、各成分のすべてを同じ位相だけずらしても、
変化しないことに注意せよ。
ヒント
成分同志の比を等しくおけ。
を
で表せ。
結果は、次のようになり、スピンの方向が、磁界の方向、および、逆の方向を 向いていることがわかる。
![]() |
(4.34) |
式4.32に現れた、三種類のオペレータは、スピン 1/2 粒子を 扱ううえで、重要なオペレータであり、特に、 パウリのスピンオペレータ(Pauli spin operator)と呼ばれている。
| (4.35) |
この表現を用いると、磁界中にあるスピンのハミルトニアンは、次のように 書かれる。
最後の式は、形式的な表現であるが、
、
、
を成分とするオペレータのベクトルを
として、
と
の内積の形で表したものである。