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光は波動か粒子か

光は昔、粒子(particle)の流れと考えられていた。 例えばニュートン(Newton)は光の屈折現象を説明するのに、 図1.1のように、光粒子が空気中からガラスへ 突入するときに、境界でガラス方向への撃力を受け、進行方向が 曲げられるからである、と理解した。

図 1.1: 光の屈折の粒子的理解。境界で面垂直方向の力を受け加速される
\includegraphics{fig/intro.particle.eps}




問題1..1 光を粒子として、屈折現象を説明せよ。 運動量の境界面接線方向の成分 $p_x$ とエネルギー $E$ は、 境界突入前後で保存されるが、運動量の法線方向の成分 $p_y$ は、 変化しうるものとせよ。 なお、空気中では、$E=cp$ ($c$ は空気中での光速)、ガラス中では、 $E'=c'p'$ ($c'$ はガラス中での光速、$c'<c$) の関係が 成立する。

答え

\begin{displaymath}
\sin\theta=\frac{p_x}p=\frac{cp_x}E=\frac{cp_x'}{E'}
=\frac{cp_x'}{c'p'}=\frac c{c'}\sin\theta'
\end{displaymath}






ところが、その後、光には「回折現象」や「干渉現象」の有ることがわかり、 光を波動(wave)と見なした方が良い、と考えられるようになった。 屈折は、図1.2のように、ガラス中で光波の波長の 短縮することから、理解された。 この光の波動説は、マックスウェル(Maxwell)が電磁波を理論的に予言し、 かつ、光が短波長の電磁波であることが判明してからは、さらに、ゆるぎのない 地位を確立した。つまり、光は電磁波の電界と磁界の振動の伝播であるという、 具体的な波動のイメージを、与えられたのである。

図 1.2: 光の屈折の波動的理解。ガラスの中の波長が短いため波面の方向が 変化する
\includegraphics{fig/intro.wave.eps}




問題1..2 光を波動として、屈折現象を説明せよ。 ガラス中での光の波長 $\lambda'$ は、空気中での波長 $\lambda$ に 対し、$c'/c$ で短縮し、また、波の山のピークの位置は、境界面上で 一致するとせよ。

答え

\begin{displaymath}
\frac\lambda{\sin\theta}=\frac{\lambda'}{\sin\theta'} \quad...
...eta=\frac\lambda{\lambda'}\sin\theta'
=\frac c{c'}\sin\theta'
\end{displaymath}






図 1.3: 箱の中の光に対するプランクの仮説。周波数は波動としての共振周 波数で決まるが、エネルギーは粒子のように数えられる。 平均エネルギーはこれらの熱力学的平均値で与えられる。
\includegraphics{fig/intro.Planck.eps}

これで一件落着のように思われたが、19 世紀末から20 世紀へと入る時期に、 再び「光は波動であるが、同時に、粒子のように振る舞う」と考えなければ 理解のできない現象が、次々と見いだされてきた。 まずプランク(Planck)は、加熱された箱の中に閉じ込められた光の、 エネルギーの周波数依存性を解析し、箱の中には、波動として 共振するいくつかの周波数の光のみが存在するが、その周波数の波動の持ちうる 全振動エネルギーは、図1.3のように、$E=hf$ の 整数倍しか取りえないことを示した。 これを黒体輻射(blackbody radiation)と呼ぶ。 ここで $f$ は共振周波数であり、$h$ は、プランク定数(Planck constant)と 呼ばれるおよそ $6.63\times10 ^{-34}$ Js の一定値である。 つまり、箱の中には、$hf$ のエネルギーを持った光の塊、つまり粒子が、 いくつか入っているように見え、光が「数え得る」という計数性を有する 粒子(particle)であることが示された。 この意味で、光は光子(photon)と呼ばれるようになった。




問題1..3 温度 $T$ の箱の中では、周波数 $f$ の光は、色々な総エネルギー $U$ の状態を取りうるが、その可能性は、$U$ の高くなるほど、 $\exp(-U/kT)$ に比例して、減少する ($k$ボルツマン定数(Boltzmann constant))。 このことを利用して、箱の中の光の平均エネルギー $\left\langle U\right\rangle $ を求めよ。 $U$ が連続した値を取りうる場合と、$hf$ の整数倍の値しかとり得ない 場合の、両方について計算せよ。

ヒント

\begin{displaymath}
\begin{array}{cc}
\displaystyle\int dx\exp(-\alpha x)=\fra...
...\partial}{\partial\alpha}\sum_n\exp(-\alpha n) \\
\end{array}\end{displaymath} (1.1)



答え

\begin{displaymath}
\left\langle U\right\rangle =\left.\int dU U\exp(-U/kT)\right/\int dU\exp(-U/kT)=kT
\end{displaymath}

同様に次式が得られる。


\begin{displaymath}
\left\langle U\right\rangle =\frac{hf}{\exp(hf/kT)-1} \qqua...
...ck law)}\index{Planck law@Planck law (プランクの法則)}}\right)
\end{displaymath}






図 1.4: 光電効果。 アインシュタインは光が電子に与えることのできるエネルギーが $hf$ であることを示した
\includegraphics{fig/intro.photo.eps}

続いてアインシュタイン(Einstein)は、光が金属から電子をたたき出す 光電効果(photo-voltaic effect)を解析した。 その結果はプランクの結果と同じで、図1.4のように、 光は、電子に一度に $hf$ だけの決まった量のエネルギーを 与えることしかできず、波動に見られるような、少しずつエネルギーを 与えていくという振舞をしないことが判明した。 ここでも、光は周波数に依存したエネルギーの塊、つまり粒子(particle) であることが示されたのである。

では、光は波動なのか粒子なのかというと、現在の答えは 両方であるということになる。 つまり、干渉性(coherency)もあれば同時に計数性(countability) もあるからなのである。 これら双方を両立させて、一つの概念にまとめあげたものが、20世紀と共に 成長した量子力学(quantum mechanics)である。




問題1..4 1.1と問1.2の二つの解法は、 $p=h/\lambda$ の関係を利用すると、実は同じ形となることを示せ。

ヒント $\qquad \lambda_x=\lambda/\sin\theta$、     $\lambda_y
=\lambda/\cos\theta$、     $p_x=h/\lambda_x$     など。




干渉性と計数性を併せ持つのは光だけかというと、 電子(electron)もそうである。 電子は、素電荷(elementary charge)と呼ばれる決まった大きさの電荷 ( $e\cong1.6
\times10^{-19}$ C) を持ち、一個、二個と数えられることから、従来、 粒子と考えられてきた。 ところが、電子流を結晶に当てると、X線回析に見られるような、きれいな 干渉パターンの現れることが発見され、波動性を併せ持つことが判明した。 干渉パターンから推定される電子の波長 $\lambda$ は、電子ビームを 構成している電子一個の持つ運動量(momentum) $p$ と、$p=h/\lambda$ の 関係で結ばれ、プランクの定数 $h$ が、電子でも重要な役割を持つことが、 明らかとなった。

「干渉性と計数性の両立」という重要な概念は、その後、光、電子のみならず 陽子、中性子から、さらに原子、分子とあらゆるものに共通な概念であることが 判明し、現在では、すべての物質、現象が干渉性と計数性の両面を持つ、 量子力学に従って振る舞っていると考えられている。 ただ、量子力学の奇妙さは原子、分子の程度の小さな寸法でしか顕著に 現れないため、我々の目で見える程度の大きさの現象は、ほとんど古典力学で 説明されるのである。


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Yoichi OKABE 平成19年6月30日