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格子上の粒子の運動

前節で解いた運動方程式の解を、いろいろな場合について、示してみよう。 まず、定常状態を求めてみよう。 式5.19 $\left\langle\left.p_J\right\vert\psi(0)\right\rangle $ が、ある特定の $J=J_0$ に対してのみ、$1$ で、他の $J$ に対しては $0$ であるときには、状態は常に $\left\vert p_{J_0}\right\rangle $ となり、明らかに 定常状態となる。 次の初期状態を考えよう。


\begin{displaymath}
\left\langle\left.p_J\right\vert\psi(0)\right\rangle =\delta_{J J_0} %e26
\end{displaymath} (5.26)

この式を、式5.18へ代入すると、次のようになる。


\begin{displaymath}
\left\langle\left.x_j\right\vert\psi(t)\right\rangle =\frac{1}{\sqrt n}
\exp\frac{i(p_{J_0}x_j-E_{J_0}t)}\hbar %e27
\end{displaymath} (5.27)

各格子点にいる、粒子の存在確率は次のようになる。


\begin{displaymath}
P(\psi(t)\rightarrow x_j)=\frac{1}{n}
%e28
\end{displaymath} (5.28)

これを、図5.6に示すが、時間によらず一定となる。 この状態の運動量は、むろん、時間によらず、 $(2\pi\hbar/L)J_0$ となる。

図 5.6: 運動量確定状態は定常状態になる
\includegraphics{fig/lat.stat-state.eps}

運動量確定状態は、運動量を持っているにもかかわらず、粒子の空間上の パターンは、時間と共に変動しない。 我々の知っている古典力学では、運動量 $p$ を持った粒子の存在場所は、 ある速度で移動していくはずである。 しかし、この結果はそうなっていない。 扱っているのが、一次元格子で、古典力学で扱う連続的な 空間ではないからであろうか。 いや、量子力学では、連続空間を一次元格子の極限として、 理解しようとしているのだから、一次元格子でうまくいかないことは、 連続空間でもうまくいかない。 じつは、古典力学の運動に対応する状態はあるのだが、ここで示した 運動量確定状態ではないのである。

古典的な粒子は、質点と呼ばれるように、各時刻で、その存在位置は一点で 与えられると考えられている。 そこで、つぎに、$t=0$ で、粒子の存在場所が、ある一点に 確定しているような状態を、考えてみよう。 例えば、その一点を原点とすると、 $\left\langle\left.x_j\right\vert\psi(0)\right\rangle =
\delta_{j0}$ である。


\begin{displaymath}
\left\langle\left.x_j\right\vert\psi(t)\right\rangle =\frac{1}{n}\sum_J\exp\frac{i(p_Jx_j-E_Jt)}
\hbar
%e29
\end{displaymath} (5.29)

ただし、$x_0=0$とした。 したがって、確率振幅の時間変動は次のようになる。


\begin{displaymath}
P(\psi(t)\rightarrow x_j)=\frac{1}{n^2}\sum_{JK}\exp
\frac{i(p_Jx_j-E_Jt)}\hbar\exp\frac{-i(p_Kx_j-E_Kt)}\hbar %e30
\end{displaymath} (5.30)

この結果は、あまり簡単ではなく、それから、存在確率を計算すると、さらに 複雑な式となるが、図5.7に、計算機で計算した、 確率の時間変化の様子を示す。 かなりの時間、原点付近に、最も大きな存在確率が現れるが、時間とともに、 そのピークは段々小さくなり、やがて、粒子の位置は、 どこにあるのかはっきりしなくなる。 このように、純粋に一点にだけ存在する質点のような粒子像は、運動を示さず、 ただ、存在位置が段々ぼけていくという結果となってしまう。 こうした振舞は、不確定性原理に起因している。 一点にいる粒子は、$x$ の拡がりがほとんどないので、逆に、$p$ の 拡がりが大きい。

図 5.7: $t=0$ に原点にいた電子はだんだん拡がっていく
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}

実際、式5.28にも示されているように、 $\left\vert\psi(0)\right\rangle $ $\left\vert p_J\right\rangle $ をとる確率は、$J$ によらず、一定の$1/n$ あである。 そこで、粒子は、いろいろな運動量で、時間とともに 拡がっていってしまうのである。

このように、古典的な粒子像(classical particle image)に対応する量子力学の状態は、純粋な 運動量確定状態でもないし、純粋な位置確定状態でもないことがわかった。 そこで、運動量の適当に混ざった状態を、考えてみよう。 例えば、 $\left\vert p_{J_0}\right\rangle $ $\left\vert p_{J_1}\right\rangle $ の状態を、$1/2$ ずつの振幅で、組み合わせてみよう。 ただし、 $E_{J_0}\neq E_{J_1}$ である。


\begin{displaymath}
\left\langle\left.x_j\right\vert\psi(t)\right\rangle =\frac...
...0}t)}\hbar+\exp\frac{i(p_{J_1}x_i-E_{J_1}t)}\hbar\right]
%e31
\end{displaymath} (5.31)

各点での存在確率は次のようになる。


\begin{displaymath}
P(\psi(t)\rightarrow x_j)=\frac1n\left[1+\cos\frac{(p_{J_0}
-p_{J_1})x_j-(E_{J_0}-E_{J_1})t}{\hbar}\right] %e32
\end{displaymath} (5.32)

その形は、図5.8に示すように、時々刻々変化し、同じ正弦波状の 形が、一定の速度で動いていく。 その速度を計算するには、$x_i$ に対する確率が、何秒後に $x_{j+1}$ に 伝わるかを計算すればよい。 つまり、上式の $\cos$ の中が、$x_j$$t$ に対する場合と、 $x_{j+1}$$t+\Delta t$ に対する場合とで等しいと置き、得られた $\Delta t$ から、 $(x_{j+1}-x_j)/\Delta t$ を求めればよい。


\begin{displaymath}
v=\frac{E_{J_1}-E_{J_0}}{p_{J_1}-p_{J_0}}=\frac{[E_0-2A\cos(\pi
J_1/n)]-[E_0-2A\cos(\pi J_0/n)]}{p_{J_1}-p_{J_0}}
%e33
\end{displaymath} (5.33)

この状態は、粒子の発見する可能性が、あちこちに拡がっていたり、空間的な 周期性をもっていたりしており、まだまだ、古典的な粒子像と一致しないかも 知れないが、かなり近いものであるといえる。

図 5.8: 混合状態の時間変化
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}

$p_{J_0}$$p_{J_1}$ が、極めて近接した値であるときには、 式5.33は、もっと簡単に、計算することができる。 簡単のために、$p_{J_0}$$p$$p_{J_1}$$p+\Delta p$ と 表そう。 また、エネルギーと運動量の関係式で、$p_J$ のかわりに、$p$ を 入れたときのエネルギーを $E(p)$ と表そう。


\begin{displaymath}
v=\frac{E(p+\Delta p)-E(p)}{(p+\Delta p)-\Delta p}
=\frac{E(p+\Delta p)-E(p)}{\Delta p}\rightarrow\frac{dE}{dp}
%e34
\end{displaymath} (5.34)

つまり、エネルギーの運動量依存性を、微分すれば、速度を求めることができる ことがわかろう。 この速度を群速度(group velocity)という。 これに対し、それぞれの独立した波の速度 $\frac\omega k$ を、 位相速度(phase velocity)という。

もっと多くの運動量状態を、適切に混ぜると、図5.9に一例を 示すように、空間的な拡がりのもう少し少ない、かつ、古典的な粒子のように 動く状態を、作ることもできる。 これは、ある運動量 $p$ 付近の運動量を持つ状態を、いくつか 集めたものであり、空間的にあまり拡がっていないことから、波束(wave packet)と 呼ばれる。 波束は、ほぼ一定の速度で移動していくが、その速度は、およそ 式5.33で推定することができる。 いま、いくつか集めた状態のうち、ある二つの状態だけに、着目してみると、 その合成した状態の速度は、式5.33のような式で、計算される。 ところが、どの状態も、運動量 $p$ のごく近傍の状態だけであるから、 $(エネルギーの差) /(運動量の差)$ は、どの二つの状態に対しても、 ほとんど同じになってしまう。 つまり、ある運動量の付近で、運動量をわずかに変えたときの、エネルギーの 変化の比を求めればよい。 これは、先に述べた式5.34の計算での群速度となることを、 示している。 しかし、厳密には、いくつかの僅かに異なる速度が混ざっていることから、永い 時間が経過すると、この波束の形は、図5.9のように、 徐々にくずれていってしまう(図5.8の場合のように、二つの状態の 混合だけでは、波形はくずれない)。

図 5.9: 多くの状態の混合状態系
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}




問題5..9 初期状態として、 $\left\vert p_{J_0}\right\rangle $ $\left\vert p_{J_0}\right\rangle $ の、二つの 縮退した運動量状態が、$1/2$ ずつ混ざっている場合の、存在確率の 時間変化を求めよ。

答え 確率振幅は以下のようになる。


\begin{displaymath}
\left\langle\left.x_j\right\vert\psi(t)\right\rangle =\frac...
...ac1n\cos\frac{p_{J_0}x_j}\hbar\exp\frac{-E_{J_0}t}
\hbar %e35
\end{displaymath} (5.35)

また、各格子点にいる、粒子の存在確率は、次式で与えられる。

\begin{displaymath}
P(\psi(t)\rightarrow x_j)=\frac1n^2\cos^2\frac{p_{J_0}x_j}{\hbar}
=\frac1n\cos^2\frac{2\pi J_0j}{\hbar} %e36
\end{displaymath} (5.36)

これを図5.10に示す。 この結果は、時間にはよらず一定である。 このように、混合状態でも、エネルギーの等しい状態を混合すると 定常状態となる。

図 5.10: 縮退した混合状態では時間変化はない
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}


問題5..10 勝手な初期状態 $\left\vert\psi(0)\right\rangle $ から時々刻々変化した状態 $\left\vert\psi(t)\right\rangle $ が、運動量確定状態 $\left\vert p_J\right\rangle $ をとる確率振幅を求め、 確率を計算せよ。

ヒント 5.18を利用し、 $\left\langle\left.p_J\right\vert\psi(t)\right\rangle $ を求める。

答え


$\displaystyle \left\langle\left.p_J\right\vert\psi(t)\right\rangle$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_j\left\langle\left.p_J\right\vert x_j\right\rangle \left\langle\left.x_j\right\vert\psi(t)\right\rangle$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac1n\sum_{jK}\exp\frac{-ip_Jx_j}\hbar\exp
\frac{i(p_Kx_j-E_Kt)}\hbar\left\langle\left.p_K\right\vert\psi(0)\right\rangle$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_K\delta_{JK}\exp\frac{-iE_Kt}\hbar\left\langle\left.p_K\righ...
...exp\frac{-iE_Jt}\hbar\left\langle\left.p_J\right\vert\psi(0)\right\rangle %e37
$ (5.37)

したがって、以下の確率が得られる。


\begin{displaymath}
P(\psi(t)\rightarrow p_J)=P(\psi(0)\rightarrow p_J)
\end{displaymath} (5.38)






この式より分かるように、どんな初期状態から始まる粒子の運動でも、ある 運動量状態をとる確率は、時間によらず一定となる。 これは、運動量確定状態が、エネルギー確定状態つまり 定常状態であるからである。


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Yoichi OKABE 平成19年6月30日