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格子の運動量とエネルギー

運動量確定状態は、定常状態であるので、そのエネルギーも確定し、その値は、 前節の式5.16で計算したが、それをもう一度ここに示そう。


\begin{displaymath}
E=E_0-2A\cos \frac{pa}{\hbar}、\qquad p=\frac{2\pi\hbar}LJ
%e39
\end{displaymath} (5.39)

これを、運動量に対しプロットした結果を図5.11に示す。 粒子の取りうるエネルギーには、最小値と最大値があって、その間にかなり 近接して存在し、しかも、$n$ が増えると、殆ど連続的になることが、 わかる。 これを、エネルギーのバンド構造(band structure)という。結晶のような、規則的な 構造を持った固体中では、電子のエネルギーは、必ず、このようなバンド 構造をとる。

図 5.11: エネルギーの運動量依存性
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}

実際の結晶では、必ずしも、最近接の格子点からの $-A$ の 遷移確率振幅だけではなく、もっと遠方の格子点からの遷移確率振幅もあるし、 まず第一に、三次元であるので、バンド構造は、もっと複雑な形となる。 また、本章では、格子点間の遷移を無視したときの、各格子点での電子の 状態を、$E_0$ のエネルギー状態一つであるとして、解析したが、実際の 結晶格子では、もともと、いくつかのエネルギー状態があり、それが、まわりの 格子点の色々なエネルギー状態と遷移しあうので、さらに、複雑になる。 しかし、そのような場合でも、計算の原理は全く同じである。 実際の結晶格子のバンド構造の計算にも、こうした手法が使われており、各 エネルギー状態のエネルギーや、各遷移確率をパラメータとして、いろいろ 調整し、その結果を、実測により得られるバンド構造の部分的な情報と、 照合することにより、より正確なバンド構造の決定を行っている。

この、各パラメータ自身も、計算できないのだろうかという疑問を 持つかもしれない。 これは、原理的には可能である、と言える。 その基本的な原理については、次章で述べるが、実際の結晶格子では、それを 構成している各原子が、あまりにも多くの電子を持っているため、問題が著しく 複雑になり、正確な解は、事実上得られないと思ってよい。 このため、実際のバンド計算では、上記のようなパラメータを探す 手法がとられている。

もう一度、一次元格子のバンド構造を示した図5.11に戻ろう。 ここでは、$n$ とバンド構造の関係がはっきり見えるように、$n=9$ という 短い長さの格子の例を示した。 しかし、実際の結晶格子の $n$ は、もっと天文学的に大きな数である。 $n$ が大きくなっても、エネルギーと運動量の関係は、全然変わらず、ただ、 その上に置かれる点の数 $n$ が増えるだけである。 このため、このバンド図は、点の集合というよりは、ほとんど連続的な、一本の 曲線となる。 こうした状況では、粒子の波束という概念はもっとすっきりしてくる。 無論、不確定性原理は相変わらず効いているが、全体の格子の大きさが 大きいので、ある程度拡がった波束を考えることができ、運動量の拡がりの狭い 状態、つまり、あまり色々な速度の混ざっていない、波形くずれの少ない 波束状態を作ることができるからである。 一例を、図5.12に示すが、このような波束に対しては、 式5.34による速度の計算法が、一層、明確になるであろう。 式5.39に対し、この微分計算を行ってみよう。


\begin{displaymath}
v=\frac{dE}{dp}=\frac{2Aa}{\hbar}\sin\frac{pa}{\hbar} %e40
\end{displaymath} (5.40)

$p$ のごく近傍の運動量を持つ状態を、いくつか集めて作った波束状態は、 この速度で、格子中を動くわけである。 速度が、運動量に対しどう変化するかを、図5.13に示した。

図 5.12: 波束
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}

図 5.13: 速度と運動量の関係
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}

ところで、我々は、古典力学の結果から、自由空間を走る質点の速度と運動量の 関係を知っている。


\begin{displaymath}
v=\frac{p}{m}
\end{displaymath} (5.41)

図の結果と、この結果は似ているが、少し異なる。 まず、図の結果は直線的でなく、$p=2\pi\hbar/a$ に近くなると、 曲がってしまう。 これは、明らかに格子間隔 $a$ の影響である。 格子間隔 $a$ が、もっと無限に小さければ、もっと無限に大きな 運動量まで、直線関係が成立するはずである。 もう一つの差は、原点付近の勾配の違いである。 自由空間の粒子の勾配は、$1/m$ と電子の質量で決まっているのに、格子中の 電子の勾配は、隣の格子点への遷移確率振幅で決まっている。 これも、明らかに、格子の影響である。 このように、両者は、微妙に異なってはいるが、それでも、かなりの相似性を 持っている。 そこで、次章では、この相似性を足掛りにして、逆に、自由空間中の電子の 運動方程式を推定することを試みる。




問題5..11 もし、格子中を動く電子の振舞を、自由空間中の電子と、ほとんど 同じにしようとすれば、$A$ を、どのように、選べばよいか。

答え $\hbar/2ma$





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Yoichi OKABE 平成19年6月30日