運動量確定状態は、定常状態であるので、そのエネルギーも確定し、その値は、 前節の式5.16で計算したが、それをもう一度ここに示そう。
これを、運動量に対しプロットした結果を図5.11に示す。
粒子の取りうるエネルギーには、最小値と最大値があって、その間にかなり
近接して存在し、しかも、
が増えると、殆ど連続的になることが、
わかる。
これを、エネルギーのバンド構造(band structure)という。結晶のような、規則的な
構造を持った固体中では、電子のエネルギーは、必ず、このようなバンド
構造をとる。
実際の結晶では、必ずしも、最近接の格子点からの
の
遷移確率振幅だけではなく、もっと遠方の格子点からの遷移確率振幅もあるし、
まず第一に、三次元であるので、バンド構造は、もっと複雑な形となる。
また、本章では、格子点間の遷移を無視したときの、各格子点での電子の
状態を、
のエネルギー状態一つであるとして、解析したが、実際の
結晶格子では、もともと、いくつかのエネルギー状態があり、それが、まわりの
格子点の色々なエネルギー状態と遷移しあうので、さらに、複雑になる。
しかし、そのような場合でも、計算の原理は全く同じである。
実際の結晶格子のバンド構造の計算にも、こうした手法が使われており、各
エネルギー状態のエネルギーや、各遷移確率をパラメータとして、いろいろ
調整し、その結果を、実測により得られるバンド構造の部分的な情報と、
照合することにより、より正確なバンド構造の決定を行っている。
この、各パラメータ自身も、計算できないのだろうかという疑問を 持つかもしれない。 これは、原理的には可能である、と言える。 その基本的な原理については、次章で述べるが、実際の結晶格子では、それを 構成している各原子が、あまりにも多くの電子を持っているため、問題が著しく 複雑になり、正確な解は、事実上得られないと思ってよい。 このため、実際のバンド計算では、上記のようなパラメータを探す 手法がとられている。
もう一度、一次元格子のバンド構造を示した図5.11に戻ろう。
ここでは、
とバンド構造の関係がはっきり見えるように、
という
短い長さの格子の例を示した。
しかし、実際の結晶格子の
は、もっと天文学的に大きな数である。
が大きくなっても、エネルギーと運動量の関係は、全然変わらず、ただ、
その上に置かれる点の数
が増えるだけである。
このため、このバンド図は、点の集合というよりは、ほとんど連続的な、一本の
曲線となる。
こうした状況では、粒子の波束という概念はもっとすっきりしてくる。
無論、不確定性原理は相変わらず効いているが、全体の格子の大きさが
大きいので、ある程度拡がった波束を考えることができ、運動量の拡がりの狭い
状態、つまり、あまり色々な速度の混ざっていない、波形くずれの少ない
波束状態を作ることができるからである。
一例を、図5.12に示すが、このような波束に対しては、
式5.34による速度の計算法が、一層、明確になるであろう。
式5.39に対し、この微分計算を行ってみよう。
| (5.40) |
のごく近傍の運動量を持つ状態を、いくつか集めて作った波束状態は、
この速度で、格子中を動くわけである。
速度が、運動量に対しどう変化するかを、図5.13に示した。
ところで、我々は、古典力学の結果から、自由空間を走る質点の速度と運動量の 関係を知っている。
| (5.41) |
図の結果と、この結果は似ているが、少し異なる。
まず、図の結果は直線的でなく、
に近くなると、
曲がってしまう。
これは、明らかに格子間隔
の影響である。
格子間隔
が、もっと無限に小さければ、もっと無限に大きな
運動量まで、直線関係が成立するはずである。
もう一つの差は、原点付近の勾配の違いである。
自由空間の粒子の勾配は、
と電子の質量で決まっているのに、格子中の
電子の勾配は、隣の格子点への遷移確率振幅で決まっている。
これも、明らかに、格子の影響である。
このように、両者は、微妙に異なってはいるが、それでも、かなりの相似性を
持っている。
そこで、次章では、この相似性を足掛りにして、逆に、自由空間中の電子の
運動方程式を推定することを試みる。
問題5..11 もし、格子中を動く電子の振舞を、自由空間中の電子と、ほとんど
同じにしようとすれば、
を、どのように、選べばよいか。
答え
。