古典力学での基本は、質点の運動方程式、つまりニュートンの 運動方程式である。 量子力学の世界でも、質点のような粒子が、連続空間でどのような振舞をするか 興味深い。 我々はすでに前章で、粒子が格子のような離散的な空間で、どのような 運動方程式で記述されるかを学んだ。 この概念を拡張すれば、連続空間での粒子の運動を記述する運動方程式を導ける 可能性がある。
また、別の見方もある。 量子力学の運動方程式の、右辺に現れるハミルトニアンオペレータは、 エネルギーと深い関係にある。 そこで、古典力学における粒子のエネルギーの式を手掛りにして、 ハミルトニアンを推定することもできる。 このようにして得られた方程式が、シュレディンガー方程式(Schrödinger equation)である。
シュレディンガー方程式は、シュレディンガーの純然たる推測により得られた 方程式ではあるが、この方程式を、水素原子などに適用し、その電子状態のとる エネルギーを計算してみると、実験結果と、驚くほど良い一致が得られた。 また、この方程式が提案される前に、仮定されてきた、いくつかの仮説は、この 方程式の出現によって、やっと、確証が与えられたといっても、過言ではない。 また、化学結合などの具体的な描像も、この方程式によって確立され、 量子化学の基礎ともなっている。
この方程式の限界も、知っておく必要がある。 シュレディンガー方程式は、内部状態を持たない粒子、あるいは、 内部状態があっても、その効果の無視できる粒子の、しかも粒子一個の運動を、 記述する方程式なのである。 このため、磁界中の電子の運動のように、スピンのかかわる運動は、正確には 取り扱うことができない。 また、相対論的効果のきいてくる、光速に近い速度で動いている粒子も、 扱うことができない。 しかし、先にも述べたように、現在のほとんどの量子力学的な世界観は、この 方程式に立脚しており、ちょうどニュートンの運動方程式が、相対性原理が 見いだされてからも、色褪せることのないように、極めて、重要な意味を 持っている。