前節で得られた運動方程式が、本当に、正しいものかを、確かめるのは、 それほど容易なことではない。 実際、この方程式の正当性は、水素原子中の電子の振舞を解くことによって、 初めて、確かめられたのであり、そのためには、力のある場合の、 シュレディンガー方程式を導いてからとなる。 これまでに学んだ知識だけからは、ほとんど何も言えないが、少なくとも、 巨視的な極限で、古典的な粒子像と一致するかどうかだけは、 確かめることができる。 そのために、自由粒子のシュレディンガー方程式を、解いてみよう。
いつものように、定常状態から、開始する。
| (6.44) |
このようにおくと、シュレディンガー方程式は、次のようになる。
| (6.45) |
このように、
方向に一様な方程式は、
の指数関数的な解が、
期待できる。
なる解を仮定してみよう。 この式を、上式へ代入する。
この式が満足されるような解が、運動方程式の一つの解となることがわかる。
さらに、この解は、もう一つ、境界条件も満たさなければならない。
周期型境界条件を考えているから、
と
の解は、
一致しなければならない。
つまり、次式が成立する。
この結果、
は、
の整数倍でなければならなくなる。
これが、運動量の満たすべき条件である。式6.47と
6.48の関係を、図6.6に示す。
固有状態の総数
は、
に制限がないことから、無限大である。
これは、全長
の領域を、無限に短い区間
に分割した
結果、
になることから、当然の
結果である。
式6.46の
を、決定しよう。
は、
の正規条件から決定できる。
![]() |
(6.49) |
これより、
となる。
つまり、固有状態は、次式で与えらえる。
さて、式6.50から、粒子が、空間の各位置に存在する、 確率密度を、求めてみよう。
| (6.51) |
このように、場所によらず、一定となる。そこには、何の確率密度の変動も、
運動も見られない。
しかし、この状態の運動量を測ると、確かに、
となり、また、その運動
エネルギーは、確かに、
となるのである。
こうした、位置としての運動が見られないのに、運動量は持っているという、
粒子の状態は、古典論では、経験することができず、理解に苦しむかも
知れない。
時間とともに、各位置に存在する確率密度が、変化するようにするには、
前章でも示したが、異なるエネルギーを持つ複数の定常状態を、いくつか
組み合わせた状態で、実現することができる。
例えば、運動量
と
の二つの状態を、1/2 ずつ組み合わせた
状態を、考えてみよう。
| (6.52) |
この状態が、各位置確定状態をとる確率、つまり、存在確率は、 次のようになる。
| (6.53) |
図6.7に示すようになる。 その波形は、確かに、次の速度で動いていくことがわかる。
このように、運動量が確定した状態は、一切、空間的運動を示さないのに対し、 空間的運動を示す状態は、逆に、運動量確定状態が混ざってしまう。
これは、実は、ハイゼンベルグの不確定性原理(Heisenberg uncertainty principle)と深い関係を
持っている。
運動量が確定していると、運動量の拡がりは、0である。
したがって、位置の拡がりは、無限大、つまり、空間内のどこにいるのかが、
全く確定しなくなってしまうのである。
また、運動量の拡がりが
ぐらいであると、粒子の空間的な
拡がりは、もっとも小さいときで、
ぐらいとなるが、これが、図6.7の波形の周期となっている。
なお、式6.54で、
を
と表し、
を
と表してみよう。
が非常に小さいときには、次のようになり、古典的な粒子の
速度と一致する。
この意味で、粒子の速度は、エネルギーと運動量の関係から、 計算することができ、しばしば、以下のように表されることは、前章でも述べた 通りである。
さらに、古典的な粒子像に近い、空間的にもある程度まとまっていて、
運動量もある程度まとまった状態を作るには、もっと沢山の、ある運動量付近の
運動量確定状態を、集めてくればよい。
集め方には、いろいろあるが、例えば、図6.8のように、
各運動量をとる確率振幅がガウス分布(Gauss distribution)で与えられるように、
集めると、空間的にも、確率振幅がガウス分布となることが、知られている。
また、このようなときに、位置の拡がりと、運動量の拡がりの積が、最も
小さくなり、
となる。
この例に示したような、ある運動量付近の、いくつかの運動量確定状態の
集まりで作られる状態が、空間に作る波形は、およそ式6.56の
速度で移動し、波束(wave packet)と呼ばれる。
この波束の運動は前章の、格子空間の波束の運動とほとんど同じであり、
時間とともに、ほぼ一定の速度で移動していく。
その速度は、波束を構成しているいくつかの運動量確定状態のうち、任意の
二つの作る合成波の速度、式6.55または6.56
で推定できる。
しかし、運動量の分布が小さいときには、どの二つの合成波も、ほぼ同じ
値をとるから、結局、式6.56を中心の運動量付近で
計算すればよいこととなる。
中心の運動量を
とすれば、波束の速度は、
となり、波束は
古典的な速度で移動することになる。
永い時間が経過すれば、波束にはいくつかの僅かに異なる速度が 混ざっているから、波束の形は、段々くずれていってしまう。 しかし、野球のボールのような、身近な物体の場合は、後の 問題でわかるように、波形のくずれるのに天文学的な時間がかかる。
以上のように、波束により、古典的粒子像にかなり近いものを作ることに 成功したが、これ以上どんなに工夫しても、理想的な古典的粒子像の持つ 性質である、空間的にも質点のようで、かつ運動量も確定している状態を 作ることはできない。 それは、前にも述べたように、不確定原理に背くことになるからである。 しかし、身近な物体では、これらの現象は、ほとんど問題とならない。 例えば、ボールをどんなにしっかりと握っても、その位置を、原子間隔の 程度まで確定することは、不可能である。 また、仮に、その程度まで位置を確定しても、第1章の 問題1.9で計算したように、運動量のバラつきは、ボールの 運動量に対し、観測不可能なくらい小さい。 これらの現象は、いずれも、原子、電子のような極端に小さな粒子でしか 問題とならないことを、思い起こしてほしい。
問題6..6
問題1.9の結果によると、0.1nmぐらいの範囲で、位置の
ボケている、ほぼ静止している野球のボールは、
kgm/s
ぐらいの運動量のボケを持っている。
質量0.1kgとして速度のボケを求め、最初の位置から、最大 1 mm ボケるまでの
時間を求めよ。
答え
s。
およそ、
億年。