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: ポテンシャル中の粒子の運動方程式 : シュレディンガー方程式 : 自由粒子のシュレディンガー方程式   目次   索引

自由粒子のシュレディンガー方程式の解

前節で得られた運動方程式が、本当に、正しいものかを、確かめるのは、 それほど容易なことではない。 実際、この方程式の正当性は、水素原子中の電子の振舞を解くことによって、 初めて、確かめられたのであり、そのためには、力のある場合の、 シュレディンガー方程式を導いてからとなる。 これまでに学んだ知識だけからは、ほとんど何も言えないが、少なくとも、 巨視的な極限で、古典的な粒子像と一致するかどうかだけは、 確かめることができる。 そのために、自由粒子のシュレディンガー方程式を、解いてみよう。

いつものように、定常状態から、開始する。


\begin{displaymath}
\left\langle\left.\underline{x}\right\vert\psi(t)\right\rangle =f(x)\exp\frac{-iEt}\hbar
%e17
\end{displaymath} (6.44)

このようにおくと、シュレディンガー方程式は、次のようになる。


\begin{displaymath}
Ef(x)=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2f(x)}{\partial x^2}
%e18
\end{displaymath} (6.45)

このように、$x$ 方向に一様な方程式は、$x$ の指数関数的な解が、 期待できる。


\begin{displaymath}
f(x)=c\,\exp\frac{ipx}\hbar
%e19
\end{displaymath} (6.46)

なる解を仮定してみよう。 この式を、上式へ代入する。


\begin{displaymath}
E=\frac{p^2}{2m}
%e20
\end{displaymath} (6.47)

この式が満足されるような解が、運動方程式の一つの解となることがわかる。 さらに、この解は、もう一つ、境界条件も満たさなければならない。 周期型境界条件を考えているから、$x=L/2$$-L/2$ の解は、 一致しなければならない。


\begin{displaymath}
c\,\exp\frac{ipL}{2\hbar}=c\,\exp\frac{-ipL}{2\hbar}
\end{displaymath}

つまり、次式が成立する。


\begin{displaymath}
\exp\frac{ipL}\hbar=1
\end{displaymath}

この結果、$pL/\hbar$ は、$2\pi$ の整数倍でなければならなくなる。


\begin{displaymath}
p=\frac{2\pi\hbar}L I \qquad\left(\mbox{$I$\ は整数}\right)
\end{displaymath} (6.48)

これが、運動量の満たすべき条件である。式6.476.48の関係を、図6.6に示す。 固有状態の総数 $n$ は、$I$ に制限がないことから、無限大である。 これは、全長 $L$ の領域を、無限に短い区間 $\Delta x$ に分割した 結果、 $n=L/\Delta x\rightarrow\infty$ になることから、当然の 結果である。

図 6.6: 周期型境界条件を満たす有限領域上で自由粒子のとる固有値
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}

6.46$c$ を、決定しよう。 $c$ は、 $\left\vert\psi(t)\right\rangle $ の正規条件から決定できる。


\begin{displaymath}
\left\langle\left.\psi(t)\right\vert\psi(t)\right\rangle =\...
...t c\vert^2=L\vert c\vert^2\qquad\left(\mbox{$=1$}\right)
%e22
\end{displaymath} (6.49)

これより、$c=1/\sqrt L$となる。 つまり、固有状態は、次式で与えらえる。


\begin{displaymath}
\psi(x,t)=\frac1{\sqrt L}\exp\frac{i(px-Et)}\hbar
%e23
\end{displaymath} (6.50)

さて、式6.50から、粒子が、空間の各位置に存在する、 確率密度を、求めてみよう。


\begin{displaymath}
p(\psi(t)\rightarrow x)=\frac1L %e24
\end{displaymath} (6.51)

このように、場所によらず、一定となる。そこには、何の確率密度の変動も、 運動も見られない。 しかし、この状態の運動量を測ると、確かに、$p$ となり、また、その運動 エネルギーは、確かに、$p/2m$ となるのである。 こうした、位置としての運動が見られないのに、運動量は持っているという、 粒子の状態は、古典論では、経験することができず、理解に苦しむかも 知れない。 時間とともに、各位置に存在する確率密度が、変化するようにするには、 前章でも示したが、異なるエネルギーを持つ複数の定常状態を、いくつか 組み合わせた状態で、実現することができる。

例えば、運動量 $p_1$$p_2$ の二つの状態を、1/2 ずつ組み合わせた 状態を、考えてみよう。


\begin{displaymath}
\psi(x,t)=\frac1{\sqrt{2L}}\exp\frac{i(p_0x-E_0t)}\hbar+\frac1
{\sqrt{2L}}\exp\frac{i(p_1x-E_1t)}\hbar %e25
\end{displaymath} (6.52)

この状態が、各位置確定状態をとる確率、つまり、存在確率は、 次のようになる。


\begin{displaymath}
p(\psi(t)\rightarrow x)=\frac1L\left[1+\cos\frac{(p_1-p_0)x
-(E_1-E_0)t}{\hbar}\right] %e26
\end{displaymath} (6.53)

6.7に示すようになる。 その波形は、確かに、次の速度で動いていくことがわかる。


\begin{displaymath}
v=\frac{E_1-E_0}{p_1-p_0}=\frac{p_1^2/2m-p_0^2/2m}{p_1-p_0}
%e27
\end{displaymath} (6.54)

このように、運動量が確定した状態は、一切、空間的運動を示さないのに対し、 空間的運動を示す状態は、逆に、運動量確定状態が混ざってしまう。

図 6.7: 混合状態は動く
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}

これは、実は、ハイゼンベルグの不確定性原理(Heisenberg uncertainty principle)と深い関係を 持っている。 運動量が確定していると、運動量の拡がりは、0である。 したがって、位置の拡がりは、無限大、つまり、空間内のどこにいるのかが、 全く確定しなくなってしまうのである。 また、運動量の拡がりが $\Delta p$ ぐらいであると、粒子の空間的な 拡がりは、もっとも小さいときで、 $2\pi\hbar/\Delta p$ ぐらいとなるが、これが、図6.7の波形の周期となっている。

なお、式6.54で、$p_0$$p$ と表し、$p_1$$p+\Delta p$ と表してみよう。 $\Delta p$ が非常に小さいときには、次のようになり、古典的な粒子の 速度と一致する。


\begin{displaymath}v=\frac{(p+\Delta p)^2/2m-p^2/2m}{\Delta
p}\rightarrow\frac d{dp} \left(\frac{p^2}{2m}\right)=\frac
pm
%e28
\end{displaymath} (6.55)

この意味で、粒子の速度は、エネルギーと運動量の関係から、 計算することができ、しばしば、以下のように表されることは、前章でも述べた 通りである。


\begin{displaymath}
v=\frac{dE}{dp}
%e29
\end{displaymath} (6.56)

さらに、古典的な粒子像に近い、空間的にもある程度まとまっていて、 運動量もある程度まとまった状態を作るには、もっと沢山の、ある運動量付近の 運動量確定状態を、集めてくればよい。 集め方には、いろいろあるが、例えば、図6.8のように、 各運動量をとる確率振幅がガウス分布(Gauss distribution)で与えられるように、 集めると、空間的にも、確率振幅がガウス分布となることが、知られている。 また、このようなときに、位置の拡がりと、運動量の拡がりの積が、最も 小さくなり、$2\pi\hbar$ となる。 この例に示したような、ある運動量付近の、いくつかの運動量確定状態の 集まりで作られる状態が、空間に作る波形は、およそ式6.56の 速度で移動し、波束(wave packet)と呼ばれる。

図 6.8: 波束の運動量分布と空間分布
\begin{figure}\centering
\begin{picture}(300,100)(0,0)
\put(0,0){\framebox (300,100){}}
\end{picture}
\end{figure}

この波束の運動は前章の、格子空間の波束の運動とほとんど同じであり、 時間とともに、ほぼ一定の速度で移動していく。 その速度は、波束を構成しているいくつかの運動量確定状態のうち、任意の 二つの作る合成波の速度、式6.55または6.56 で推定できる。 しかし、運動量の分布が小さいときには、どの二つの合成波も、ほぼ同じ 値をとるから、結局、式6.56を中心の運動量付近で 計算すればよいこととなる。 中心の運動量を $p$ とすれば、波束の速度は、$p/m$ となり、波束は 古典的な速度で移動することになる。

永い時間が経過すれば、波束にはいくつかの僅かに異なる速度が 混ざっているから、波束の形は、段々くずれていってしまう。 しかし、野球のボールのような、身近な物体の場合は、後の 問題でわかるように、波形のくずれるのに天文学的な時間がかかる。

以上のように、波束により、古典的粒子像にかなり近いものを作ることに 成功したが、これ以上どんなに工夫しても、理想的な古典的粒子像の持つ 性質である、空間的にも質点のようで、かつ運動量も確定している状態を 作ることはできない。 それは、前にも述べたように、不確定原理に背くことになるからである。 しかし、身近な物体では、これらの現象は、ほとんど問題とならない。 例えば、ボールをどんなにしっかりと握っても、その位置を、原子間隔の 程度まで確定することは、不可能である。 また、仮に、その程度まで位置を確定しても、第1章の 問題1.9で計算したように、運動量のバラつきは、ボールの 運動量に対し、観測不可能なくらい小さい。 これらの現象は、いずれも、原子、電子のような極端に小さな粒子でしか 問題とならないことを、思い起こしてほしい。




問題6..6 問題1.9の結果によると、0.1nmぐらいの範囲で、位置の ボケている、ほぼ静止している野球のボールは、 $6.6\times10^{-24}$ kgm/s ぐらいの運動量のボケを持っている。 質量0.1kgとして速度のボケを求め、最初の位置から、最大 1 mm ボケるまでの 時間を求めよ。

答え $1.5\times10^{19}$ s。 およそ、$5000$ 億年。


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Yoichi OKABE 平成19年6月30日