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運動方程式の対称性

運動方程式に対称性があるという言葉がしばしば用いられる。 例えば、 古典力学で、重力中を自由落下する質点の運動を、縦に置かれた鏡で 左右反転して写した像の運動は、やはり同じ運動方程式を満たす。 こうした場合、運動方程式には左右対称性があるという。 しかし、水平に置かれた鏡で上下反転した像の運動は、もとの質点の 運動方程式では記述できない。 $g\rightarrow -g$ なる変換が必要となる。 したがって、重力中の質点の運動方程式には上下対称性はないことになる。

量子力学でも同様である。 いま、与えられた運動方程式の任意の解、 $\left\vert\psi(t)\right\rangle $ を考え、それに 何らかの対称操作を施した状態の時間変化 $\widehat{T}\left\vert\psi(t)\right\rangle $ を考える。 この解が元の運動方程式を満たすとき、運動方程式にはこの対称操作に対応する 対称性があるという。ここでは、こうした運動方程式の対称性(symmetry of equation of motion) について述べよう。


\begin{displaymath}
i\hbar\frac{d\left\vert\psi(t)\right\rangle }{dt}=\widehat{H}\left\vert\psi(t)\right\rangle
\end{displaymath} (7.12)

この式が成立するときに、ある対称操作 $\widehat{T}$ に対し、次式が 成立するとき、この運動方程式は $\widehat{T}$ に関する対称性があるという。


\begin{displaymath}
i\hbar\frac{d\widehat{T}\left\vert\psi(t)\right\rangle }{dt}
=\widehat{H}\widehat{T}\left\vert\psi(t)\right\rangle
\end{displaymath} (7.13)

この式の左辺と右辺を置き換え、前式を用いて変形すると、次式が得られる。


\begin{displaymath}
\widehat{H}\widehat{T}\left\vert\psi(t)\right\rangle
=i\h...
...right)
=\widehat{T}\widehat{H}\left\vert\psi(t)\right\rangle
\end{displaymath}

$\left\vert\psi(t)\right\rangle $ の任意性を考慮すると、次の交換関係が得られる。


\begin{displaymath}
\widehat{H}\widehat{T}-\widehat{T}\widehat{H}
=[\widehat{H},\widehat{T}]=0
\end{displaymath} (7.14)

また逆に、この交換関係が成立するとき、運動方程式は$\widehat{T}$ に関する 対称性を有する。

下に示すように、交換可能な二つのオペレータは、縮退のない場合共通の 固有状態を持つので、$\widehat{T}$ の固有状態は $\widehat{H}$ の 固有状態になる。 つまり、最初に $\widehat{T}$ の一つの固有状態にいると、ずっとその 状態にいる。 また、最初に $\widehat{T}$ の混合状態にいると、その混合比を保ったまま、 つまり $\widehat{T}$ の期待値を変えないで推移する。 こうした量を保存量(conserved quantum)という。 この意味で、対称性と保存則(conservation law)は極めて密接な関係を持つことが 理解できよう。 縮退がある場合でも、適切な状態の対応がとれ、$\widehat{T}$ の固有値が 保存されることがわかる。




問題7..4 交換する二つのオペレータ $\widehat{A}$$\widehat{B}$ が、縮退のない場合、 共通の固有状態を持つことを示せ。

答え $\widehat{A}$ の固有値 $a$ に対する固有状態を $\left\vert a\right\rangle $ とすると、 $\widehat{A}\left\vert a\right\rangle =a\left\vert a\right\rangle $ が成立する。 この式の両辺に左から $\widehat{B}$ を掛ける。 左辺の $\widehat{B}\widehat{A}$ $\widehat{A}\widehat{B}$ にして適当に括弧を 入れると、 $\widehat{A}(\widehat{B}\left\vert a\right\rangle )=a(\widehat{B}\left\vert a\right\rangle )$ と書けるが、 これは $\widehat{B}\left\vert a\right\rangle $$\widehat{A}$$a$ を固有値とする 固有状態であることを示している。 つまり $b$ を適当なスカラー量として、 $\widehat{B}\left\vert a\right\rangle =b\left\vert a\right\rangle $ と 書くことができる。 この式を見直すと、 $\left\vert a\right\rangle $$\widehat{B}$ の固有状態であることを 示している。 つまり、 $\left\vert a\right\rangle $$\widehat{A}$ の固有状態であると同時に $\widehat{B}$ の固有状態にもなっている。 同様に、$\widehat{B}$ の固有状態が、同時に $\widehat{A}$ の固有状態になっていることを示すことができる。




例えば、先に用いた第4章の水素イオン分子モデルの運動方程式の 場合、次式のようであるので、式7.4と交換する。 したがって、パリティは保存量となる。


\begin{displaymath}
H: \left(\matrix{E_0 & A \cr A & E_0}\right)
\end{displaymath} (7.15)

また、磁界中のスピンの運動方程式のハミルトニアンは、次のように書けるが、 この三個のスピン行列のうち二番目だけが、式7.4の形の 対称操作オペレータと交換する。 つまり、$\widehat{T}$ のパリティは、$B_z=B_y=0$ のときにのみ保存される。


\begin{displaymath}
H: \quad\left(\matrix{1 & 0 \cr 0 & -1}\right)\mu B_z+\left...
...ght)\mu
B_x +\left(\matrix{0 & -i \cr i & 0}\right)\mu B_y
%
\end{displaymath} (7.16)

ちょっと変わった対称操作として粒子の交換(particle exchange)がある。 いままではすべて一粒子の量子力学を扱ってきたが、将来、多粒子の量子力学を 扱う。 その場合、同一粒子が沢山入っていると、量子力学の固有な現象が生じてくる。 それは任意の同一粒子二つを入れ換えても、同じ運動方程式を満たすという 対称性があることである。 この結果、粒子の交換操作に伴うパリティが保存されるという現象が生じる。 今はこれ以上詳しくは説明しないが、対称性はこんなところにも顔を出す 現象であることを認識しておいて欲しい。


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Yoichi OKABE 平成19年6月30日