ある軸に対し、対象を回転するという対称操作に関連して、角運動量が
定義される。例えば、各角運動量の
成分は、それぞれ
各軸に対する回転対称操作から次のように定義される。
したがって、これら操作に対する対称性が成立する物理系では、対応する
角運動量は保存される。例えば
軸を中心とする円筒対称なポテンシャル
中の粒子運動については
軸周りの回転対称性があるから、
は保存量となる。また、原点を中心とする球対称な物理系では、上記のどの軸に
関しても回転対称性があるので、いずれの角運動量も保存される。
しかし、並進操作とは異なり、
、
、
は
互いに交換しない。例えば、図8.1に示すように、
と
は明らかに異なる結果を与える。このことから、微小回転から定義される
角運動量
と
も、互いに交換しなくなる。
例えば、
によって空間上の任意の点
は
次のように位置を移動する。
続けて、
によって回転を与えると、最終的な位置は
次のようになる。

一方、逆の順で回転操作を与えると、まず次のように変換される。
続けて、次のように変換される。

したがって、この二つの操作の差の結果は、
、
が
十分小さいとき、次式のようになる。

たったこれだけのこと、つまり軸の異なる二つの回転オペレータには交換が 成立しないという事実だけから、じつに驚く程多くの運動量に関する法則が 誘導さるのである。
回転オペレータに対し、次のような微小操作のオペレータを考えてみよう。

これらのことから、空間回転については、次式が成立することがわかる。
| (8.2) |
さて、回転操作を角運動量に変換しよう。上式は以下のようになる。
角度の二次の項までを比較すると、
と
の
交換関係を得ることができる。まったく同様にして、次の三式が得られる。
これらの交換関係は、導出の仕方からも明らかなように、対象とする物理系が
空間の任意の軸に対する回転対称性を有する限り必ず成立する。別に物理系が
細長かろうと変形したものであろうと、空間に固定された特定の軸を持たない
限り、恒に成立する関係である。これらの交換関係を認めると、以下のように
驚くべき結論がいくつか導かれる。その導出法はかなり技巧的であるが、今後、
あちこちで利用される手法であるので、少しずつ慣れて欲しい。まず、
、
の代わりに、次のような新しいオペレータを
導入する。
| (8.4) | |||
| (8.5) |
さて、次の関係が成立する。
これらを用いて
、
を書き換えると、以下の式が、
得られる。
ヒント 第二式と第三式は、上の第二式と第三式を複素数的に
組み合わせたものから誘導する。
ここで、
を次のように定義しよう。
| (8.10) |
この
も、
、
を用いて、
書き換えることができる。
これらの式から、
は
と交換することが示される。
問題8..2 式8.11 を示せ。
答え
他も同様。
問題8..3
式8.12 を示せ。
答え
他の項は
と明らかに交換する。
交換するということは、二つのオペレータ
、
が
共通の固有状態を持つことを意味する。その固有値をそれぞれ
、
としよう。また、共通の固有状態を
と書いておこう。もし、この固有状態がいずれの
オペレータに対しても縮退していなければ、
と
にはある
関係が成立し、片方だけで表現してもよいはずである。もし、
だけが
縮退していれば、同じ
に対し、いくつかの異なる
が
対応する(実際はこうなっている)。定義から明らかなように、次式が成立する。
まず、式8.8の両辺右から
を掛けてみよう。
これから、式8.14を利用すると、次式が、導かれる。
この式をじっと見てみると、
の固有値問題の形になっている。
固有値はもちろん
であるし、固有状態は
である。
を固有値に持つ状態は
と書けるはずである。したがって、
を適切な
定数として、以下のように書けるはずである。
このように
は、
から
の一つ
増えた別の固有状態を作り出すオペレータになっていることがわかる。この
意味で
は、昇階演算子(ascending operator)と呼ばれる。まったく
同様にして、
は
から、
の一つ
減った状態を作り出し、降階演算子(descending operator)と呼ばれる。
式8.6から分かるように、昇階演算子と降階演算子の間には深い 関係がある。式8.15の共役をとってみよう。
これに右から
を掛け、式8.6の関係を
利用する。
これに、さらに式8.16を代入する。
ただし、
などは正規化されているとした。すると、
式8.16の代わりに、次式が得られる。
次に、
を計算してみよう。式8.11の
後半の式の右から
を掛ける。
、
、
などを利用すると、次の関係が得られる。
は実数と考えても、以下の議論には支障がないので、次式が得ら
れる。
は次から次へと
の大きな状態を作ってくれるが、あまり
大きな
になると、式8.18の平方根の中身が
負になってしまい、矛盾を起こしてしまう。この矛盾を回避するには、ある
で 式8.18の右辺が
になればよい。その
の値を
としておこう。すると、式8.15によって、次から次に
の大きな状態が生成されるが、
になったところで、
の
右辺が
になるため、そこから上の状態は生成されなくなる。
したがって、次のように表すことができる。
| (8.19) |
逆に、
は次から次へと
の小さな状態を作ってくれるが、
あまり小さな
になると、式8.18の平方根の中身が
負になってしまい、矛盾を起こしてしまう。
の最小値を
とすると、次の条件が成立するときに、そこで式8.16の右辺が
となり、それ以下の
の状態の生成は停止し、矛盾は回避される。
これらの式を比較すると、当然、
でなければならない。
は
ずつしか変化しないから、
は整数でなければならない。
つまり、
の取り得る数の範囲
は、整数となる。これから、
は整数あるいは半整数であることが導かれる。
の代わりに
と書いて、
以上をまとめておこう。
は全角運動量と呼ばれる。また、
は
軸の周りの角運動量と呼ばれる。
| (8.20) | |||
| (8.21) | |||
| (8.22) | |||
| (8.23) |
また、この最後の二式より、
、
も計算できる。
![]() |
|||
| (8.24) | |||
![]() |
|||
| (8.25) |
ここで思い出して欲しいのは、上記の性質がすべて、回転対称操作の持つ
空間的性質から導かれたものであるということである。したがって、対象とする
物理システムによらず、その全角運動量の二乗は
を整数か半整数として
の値をとる。また、全角運動量
状態の、ある
特定の軸の周りの角運動量を測定すると、必ず、最小値
から
最大値
の
ごとの飛び飛びの値のいずれかが
観測されることを示している。
としてどんな値を取るかは、対象とする
物理系によって決まる。例えば、電子の自転運動に起因する角運動量では、
となるが、その理由はまだ判然とはしていない。また、
原子核の周りをまわる電子の公転運動に起因する角運動量では、
は
整数となる。