これまでの三つの節で述べてきた多粒子系のハミルトニアンを、もう少し多数の 粒子系について計算しようとすると、その手間は莫大なものとなる。これを 統一的にもっと簡単にする方法を示すのが、本節の目的である。それには、 角運動量の議論で用いた昇階オペレータや降階オペレータの概念を導入すると、 便利である。どのように便利であるかは後にわかるが、まず、導入を試みよう。
最初に互いに区別できるが、同じハミルトニアンを持つ多粒子系を考えよう。 多粒子系の基底状態を記述するのにそれぞれの粒子の基底状態を順に 書いていった
| (9.44) |
の形を考える。
や
などは
の
基底状態のいずれかをとる。
一番目の粒子にかかわる一粒子ハミルトニアン
について
![]() |
(9.45) |
が成立するので、多粒子系の一粒子ハミルトニアンについても次のように 変形できる。
| (9.46) |
これより、
| (9.47) |
これは、先に異なる二粒子系のハミルトニアンとして導いた結果と
同じであるが、さらに降階、昇階オペレータを導入すると美しい
形とすることができる。まず、降階オペレ-タとして
の状態にある
番目の粒子を取り去るオペレータ
を考える。
また、
に対し、共役オペレータ
があったように、
の共役オペレータ
を昇階オペレータとし、
番目の粒子を新たに生成して
の状態にするオペレータとしよう。
| (9.48) | |||
| (9.49) |
番目の状態が
と書いてあるのは、その粒子が無いことを示す。
と
は、
生成オペレータ(creation operator) 、消滅オペレータ(annihilation operator)とも呼ばれる。
角運動量の場合のように、
が
成立する。ここでは共に 1 としておこう。
こうしたオペレータを利用すると、定義から直ちに分かるように、任意の粒子の 状態を変えることができる。
| (9.50) |
このことから、
| (9.51) |
などの式が導かれる。これらの式を用いると、
| (9.52) |
と変形できる。結論として
| (9.53) |
と表すことができる。
ボーズ粒子も同様に扱うことができる。ただし、基底状態が数表示になるので、 それを粒子表示に変えてから計算をする。
![]() |
(9.54) |
降階オペレータとして、
番目の状態
にある粒子数
を減らすオペレータ
を考える。
に対し、
共役オペレータ
があったように、の関係が、互いに
共役であったように、
の共役オペレータ
を昇階オペレータとし、状態
にある粒子数
を増やす
オペレータとしよう。
| (9.55) | |||
| (9.56) |
と
は、生成オペレータ(creation operator)、
消滅オペレータ(annihilation operator)とも呼ばれる。角運動量の場合のように、
が成立する。
この係数
であるが、角運動量の場合は
であった。この形は
が
と
でちょうど
となるため、
から
以外への昇階、降階を停めるのに
有効であった。ボーズ粒子の個数の場合は
は、
から
までを許されている。このため、
で
となるよう、
であると都合が良い。つまり、
| (9.57) | |||
| (9.58) |
である。昇階のときは、いくらでも上がれるが、降階のときは
になると、それから下の状態は生成できないことが明らかであろう。
ここで定義した昇階、降階オペレータについては、次の各式の成立することが、 簡単に示される。
| (9.59) |
また、いうまでもないが、他の状態の昇階、降階オペレータ
とは関係がない。つまり、すべて互いに交換可能である。
さて、ハミルトニアンが一粒子ハミルトニアンと二粒子ハミルトニアンの和で 与えられるとしよう。多粒子ハミルトニアンの、多粒子系基底状態に対する 成分を求めてみよう。
面倒なのは、多粒子系基底状態がいくつかの状態の混合状態で
与えられることである。例えば、三粒子系で、一粒子ハミルトニアンを
にほどこすと、
| (9.60) |
ここで、
などは
などと
略記した。このことから、例えば、
は
| (9.61) |
となる。ここで、
などは
などと略記した。さらに、
も
も、粒子が同じであるから、互いに
等しくなることを利用している。
こうした作業を、もっと組織的にやってみよう。まず、
を求めよう。ここで、
は粒子番号を走査する変数である。
| (9.62) |
一般に、
を求めることを考える。
も
も粒子状態に展開すると極めて多数の項により構成されているから、この計算は
一見大変に見える。しかし、生き残る項は意外と少ない。というのは、
は、第
番目だけの粒子に関係し、その他の粒子の状態は
すべて、ブラ側もケット側も等しくなければならないからである。特に、
なる項に着目し、その係数を
求めてみよう。この場合、
と
以外の粒子数は、ブラ側も
ケット側もすべて等しくなければならない。さらに、各粒子状態に
展開したときの、ブラ側の粒子状態の並びとケット側の粒子状態の並びも、
すべて等しくなければならない。
| (9.63) |
一方、
例えば、格子の左端に二つの粒子とも存在すると
となるし、
左端と右端に一つずつ入っているときには
となる。前者の
形式の基底状態が
個、後者の形式の基底状態が
個あるから、全部で
個の基底状態があることになる。
このすべての組合せに対して、ハミルトニアン要素を求める必要がある。
ハミルトニアン
は、粒子
に関するものと粒子
に
関するものの総和としておこう。先にも述べたように、二粒子に係わる項は
無視する。