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純正律音階

次に簡単な整数比は 1:5 であろうが、基本オクターブに追い込み、 かつ既に定義した 2:3 と組合せると、4:5:6 という比が構成できる。 ド(I)ミ(III)ソ(V) の和音に対応する。 これらから新たに ド(I):ミ(III) の関係である 4:5 の音程が定義できる。 5/4 倍の音程を長3 (major third)、またその ミ(III):ド(VIII) である 8/5 倍の転回音程を短6 (minor sixth) という。

また ミ(III):ソ(V) の関係になる 5:6、つまり 6/5 倍の音程を短3 (minor third)、 ソ(V):ミ(X) である 5/3 倍の転回音程長6 (major sixth) という。 これら4つの音程を、すべて不完全調和 (imperfect consonance) と言う。 1:5 のセントは $1200 \log_2 5=2786$ cent、 この音は二オクターブ以上離れているので、2400 cent ずらすと、 およそ 386 cent の音程である。

ドミソの和音は基本オクターブに追い込むと 4:5:6 の比を持ち、 三和音 (triad) としてはもっとも簡単な整数比であることが理解できよう。 長3 の和音の上に短3 の音程を積んだこの三和音を長三和音 (major triad) と呼ぶ。 セントで言うと、下が 386 cent、上が 316 cent である。

逆に短3 の音程を上に長3 の音程を積んだ三和音を短三和音 (minor triad) と呼ぶ。 具体的には 10:12:15 の比を構成し、レ(II)ファ(IV)ラ(VI) の和音に対応する。 あるいはミの半音落とした音をモとすると、ドモソの和音となる。 下が 316 cent、上が 386 cent である。

これらの関係を図3.3に示す。 左図は、任意の音に対し、右は 完5、左はその転回音程の 完4、 右上は 長3、左下はその転回音程の 短6、右下は 短3、左上は 長6 の関係の音が配置されることを示している。

図 3.3: 三和音
\begin{figure}\begin{center}
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(304,84)
\put(0,0...
...(0,0)[lb]{{\footnotesize minor triad}}}
\end{picture} \end{center}
\end{figure}

図中、mi は、ピタゴラス音階の mi とほぼ同じ高さではあるが、 周波数が 22 cent 低いことを示す。 この 22 cent はたびたび現われるため、特にコンマ (comma) と呼ばれる。 従って 1 comma 下の音であることを示す。 また $\overline{\rm mi}$ はピタゴラス音階の mi の 1 comma 上の音であることを示す。

この三和音 (triad) を基礎に音階を作ってみよう。 ソを基準に上に長三和音を作ると、 (si) (re) ができる。 このソシレの和音をドミソの和音に対し、属三和音 (dominant triad) と言う。 逆にドを最高音とするような長三和音を作ると、 下にファ (fa) (la) ができる。 このファラドの和音をドミソの和音に対し、下属三和音 (sub-dominant triad) と言う。

図 3.4: 三長和音による音階の構成
\begin{figure}\begin{center}
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(154,45)
\put(0,0...
...){\makebox(0,0)[b]{{\footnotesize re}}}
\end{picture} \end{center}
\end{figure}

これらドレミファソラシを基本オクターブに落としたものを、 純正律音階 (just temperament scale) と言う。

図 3.5: 純正律長音階
\begin{figure}\begin{center}
\begin{tabular}{l\vert cccccccc}
\hline
\hline
...
...8 & 702 & 884 & 1088 &1200 \\
\hline
\end{tabular} \end{center}
\end{figure}

平均律と比較すると、0、+4、-14、-2、+2、-16、-12、0 cent ずれている。 これが純正律音階 (just temperament scale)長音階 (major scale) と呼ばれるものである。 ミラシの三つの音が、特に低いことがわかる。

ここで隣同士の比をとってみると、9/8、10/9、16/15 の三種類の間隔しかないことがわかる。 セントで示すと、およそ 204、182、112 cent であり、いわゆる全音の間隔には 204 cent と 182 cent の二つがある。 一方、半音の間隔はすべて 112 cent である。 9/8 (204 cent) を長全音 (long whole tone)、10/9 (182 cent) を短全音 (short whole tone)、 16/15 (112 cent) を半音 (half tone) と言う。

図 3.6: 純正律長音階の構成 (L、S、H は長全音、短全音、半音)
\begin{figure}\begin{center}
\begin{tabular}{l\vert ccccccccccccccc}
\hline
\...
...&& H && L && S && L && H & \\
\hline
\end{tabular} \end{center}
\end{figure}

何故、純正律音階ではこのような複雑な音の間隔を採用したかというと、 先に説明したように、和音を構成した場合に、快く聞こえるからである。 周波数の比が簡単な整数比になるようにしたために、 その対数であるセントで表現すると複雑になってしまうのである。 これに対し、平均律音階では、セントで表現すると簡単であるが、 周波数比は無理数となり、和音は濁ってしまうのである。

現在、多くの楽器が平均律で調整されているため、濁った音が多く、 澄んだ音を聞くチャンスは少い。 しかし、声は簡単に調整できるため、合唱では純正律とすることが可能である。 古い教会音楽などでは、純正律で歌われているので、味わっていただきたい。 なお、音楽の進化にしたがって、単純さは排除され、 複雑さが好まれるようになってきたため、 平均律が批判されることはなくなっている。

短音階 (minor scale)も同じように短三和音や長三和音の組合せで実現できる。 短音階のやっかいな点は、自然短音階 (natural minor scale)調和短音階 (harmonic minor scale)旋律的短音階 (melodic minor scale) の三種類があることである。 それぞれ、図3.7のような和音で構成されている。

図 3.7: 純正律短音階の構成 (a) Natural minor (b) Harmonic minor (c) Melodic minor
\begin{figure}\begin{center}
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(467,101)
\put(0,...
...0,0)[b]{{\footnotesize\underline{si}}}}
\end{picture} \end{center}
\end{figure}

自然短音階に着目してみよう。 この純正律短音階をドを基音として記載してみると、次のようになる。

図 3.8: 純正律短音階
\begin{figure}\begin{center}
\begin{tabular}{l\vert cccccccc}
\hline
\hline
...
...82 & 386 & 498 & 702 & 884 \\
\hline
\end{tabular} \end{center}
\end{figure}

大方の音は、長音階で定義されたものと同じであるが、レだけが re でなく re となっており、長音階のレに対し、1 comma 低いのである。 ちなみに、この短音階のレはラとの相性がよく、ラ:レ=5/6:10/9=3:4 であるが、 長音階のレの場合は、ラ:レ=5/6:9/8=20:27 と大きな整数の組合せとなり、 不調和となる。


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Yoichi OKABE 平成19年6月1日