長音階の場合には「ド」が主音 (tonic) と呼ばれる重要な音であるが、 主音を元に構成した絶対的な音階を調性 (key)と呼ぶ。 主音が、絶対的な周波数としていくつの値をとるかで、 何長調や何短調であるかが決まる。 何のところには主音が入る。
一番の基本の調は、図4.1に示す「C」を主音とした長三和音を
三つ組合せることで作られたハ長調 (C major key) である。
この図は相対音階で示した図3.4と完全に対応しており、
主音は左の三角形の右端、もしくは中央の三角形の左端に存在する。
ただ、この主音の周波数は
Hz と絶対的な値を持っている
(実は後述する「A」が 440 Hz と定義されている)。
主音をこの三角形の一つ右の「G」に移動した調は、 元の調と多くの音を共有するため、属調 (dominant key) と呼ばれる。 これは元の調整と多くの音を共有しているため、近親調 (relative key) と呼ばれる極めて近い調となる。 このため、ちょっと異なる気分を醸し出す際の技術として、よく用いられる。 こうした曲内で調を変える工夫を、転調 (modulation) と呼ぶ。
主音を一つ左の「F」に移動した調も、 元の調と多くの音を共有するため、下属調 (sub-dominant key) と呼ばれ、 やはり近親調 (relative key) である。
こうして、近親調をどんどん作っていった場合の音名の関係を、 図4.3に示そう。
この大変便利な図を参考に、「G」を主音としたト長調 (G major key) について、 少し詳しく述べよう。 まず、図のほぼ真中に「C」とあるが、 その一つ左の上三角形と右二つの上三角形が、 図4.1に対応する。 この三つの三角形を一つ右のずらしたものがト長調になる。 つまり、ト長調とは主音を一つ右へずらし、ハ長調の下属三和音を消して、 新しく属三和音を追加したものである。
この際、新しくト長調の「レ」である「A」と、
「シ」である「
F」の二つの音が創成される。
「A」はハ長調に現われた「A」とは若干、異なる音である。
絶対音階の基準である 440 Hz である「A」は、
後述のように、この新しい「A」より 1 comma 低くなるため、
アンダーラインを付けて区別している。
「
F」は「F」の半音近く上 (+92 cent) の音であるので、
嬰ヘ (F-sharp) と名付ける。
ただし、「C」の存在する水平線上の右の方にある「
F」
(この図には現われていない) よりは 1 comma 低いため、
アンダーラインを付けてある。
なお、ト長調ではハ長調の「F」と「A」は消える。
このように、次々に上へ属調 (dominant key) を作ることにより、 新しい調の「レ」と「シ」という新しい音が二音ずつ増えていくが、 「レ」は、元の調の「ラ」に近いため、その音名を使う。 もう一つは元の「シ」の半音近く上なので、 次々「嬰...」と名付けられていく。
逆に元の属三和音を破棄して、下属三和音を追加する方法もある。 こうして次々に下属調 (sub-dominant key) を作っていくことができる。 「C」の左、つまり「F」を主音にして、 新しい調を作ると、ヘ長調 (F major key) となる。 新しい調の「ラ」と「ファ」が新しい音として加わる。 「ラ」は「D」の 1 comma 下の「D」となる。 「ファ」は「F」の半音近く下 (-92 cent) で変ロ (B-flat) と名付ける。
このように、次々に下へ順次下属調 (sub-dominant key) を作っていくことにより、 新しい音が二音ずつ増えていくが、一つは、元の調の「レ」に近いため、 その音名を使う。 ただし、アンダーラインを追加する。 もう一つは元の「シ」の半音近く下なので、 次々「嬰...」と名付けられていく。
短調では、下三角形を使って同様な議論を行う。 中心となるのは、上図の中央付近にある「A」を主音とした イ短調 (A minor key) である。
こうして無限に音が生産されていくことになるが、 「A」を基準として、上図のすべての音名の周波数の cent を求めてみよう。 すべて、基本オクターブ内の値である。
まず、上図で、実線に囲まれた範囲の階名のセント値を、 低い方から順に並べてみよう。
0, 21.5, 41.1, 70.6, 92.2, 111.7, 133.3, 154.8, 160.9, 182.4, 203.9, 223.5, 245.0, 274.6, 294.1, 315.7, 337.2, 364.8, 386.3, 407.8, 427.4, 448.9, 476.5, 498.0, 519.6, 539.1, 568.7, 590.2, 609.8, 631.3, 652.8, 680.4, 702.0, 723.5, 743.1, 772.6, 792.2, 813.7, 835.2, 862.8, 884.3, 906.9, 925.4, 947.0, 976.5, 996.1, 1017.6, 1039.1, 1066.7, 1088.3, 1107.8, 1129.4, 1150.9, 1178.5
これらのセント値はいずれも 1 comma 程度のほぼ等間隔で並んでいる。
ただし、一箇所、四角形右下端の 154.8 cent
(
) と左上端の 160.9 cent
(B) の間だけが 6.1 cent
と異常に狭い。
そこで、これら二つを同じ高さとみなせば、1200 cent を等間隔で 53
等分した高さで限りなく近似できる。
実際 1200/53=22.6 cent の整数倍からのずれを同表中に示したが
すべて -0.7
3.6 cent 以内に存在している。
ちなみに、等間隔で近似した場合、
この四角形内の任意の二つの音の差は調和する場合から最大 7.2 cent
ずれるが、その場合には 440(
-1)=1.8 Hz ぐらいの唸りを生じる。
この程度はビブラートの範囲であるので、それ程、濁った感じは受けないのである。
さらに、一つ右の四角形の各音を、中心の四角形の音と比較してみると、 一つずつ対応がずれてはいるが、すべての音が 2.0 cent だけ高いだけである。 ただし、表には出ていないが、最後の右下端だけは 472.4 cent であり、 -4.1 cent 低い。 一つ左の四角形も同様な関係が成立する。 これらの関係を スキスマ(独) (Skisma) と言い、同じように同音とみなす。
同様に、一つ下の四角形をみてみると、やはり対応が一つずつずれるが、 すべて 8.1 cent だけ低い。 ただし、表には現われていないが、最後の右下端だけは 848.6 cent であり、 14.2 cent 低い。 一つ上の四角形も同様な関係が成立する。 これらの関係を クライスマ(独) (Kleisma) と言い、同じように同音とみなす。
スキスマとクライスマの関係にある二つの音を同音とみなすことにすると、 すべての音は図4.3の破線の中の音に置き換えることができる。 ただし、遠い音は徐々にずれが大きくなるが、 そんなに遠い音までを使うことはないので、 実用上はこの四角形の範囲で十分である。
こうして上の方に属調を ハ→ト→ニ→イ→ホ→ロ→嬰ヘ→嬰ハ→...と、 下の方に下属調を ハ←へ←変ロ←変ホ←変イ←変ニ←変ト←変ハ←...と、 共通音の多い近親調 (relative key) の長調が作ることができる。
この壮大な 53 個の音名からなる音階を純正律音階 (just temperament scale) と呼ぶのであるが、 すべて調和という概念から作成されている。