直下降をしていて一番気になるのが、斜面の急変である。 急に斜度がきつくなったり緩くなったりした場合の体の対応の仕方である。 これを誤ると簡単に転んでしまう。
図3.4のように、 斜度が急にきつくなった場合を考えよう。 今までのように、ずっと同じ状態を解析するのではなく、途中で状態が 変わるような問題では、厳密には運動方程式を解かなければならないが、 簡単に理解するには慣性の効果だけを考えれば良い。 つまり、変化点を過ぎてもしばらくは重心はそのまま今までと同じ速度で 進もうとするし、板も脚部も同じ形で進もうとする。 しかし、雪面は離れていくので、瞬間ジャンプ気味に空中へ飛出された 感覚を味わう。 足は元の荷重軸に沿って直ちに雪面を踏もうと努力するので、 図のようにほんの少し脚の延びた体勢となる。
図3.4ではやや強調されすぎているかもしれないが、 変化点で、荷重線は元の荷重線から急激に後方へ移動する。 このときの形は第2章で述べた後傾姿勢とそっくりである。 つまり、足の位置が瞬間、重心の雪面垂線の足の位置より前方へ移動し、 いわゆる後傾姿勢となり、スキーの場合には尻餅をつくこととなる。
これを避けるには、コブを越える瞬間に、重心を前に移動するのが 良さそうであるが、人間には慣性があって、重心はある程度一定の速度で 移動していくので、そう簡単には行かない。 こうした場合には、変化点に入る少し前に、あらかじめ板をやや後へ押し、 前のめり気味の前傾体勢になり、 さらに空中に放り出され気味になることに備えて、 姿勢をやや低くするようにしておく。 この操作により、変化点通過後に丁度良い重心の位置となり、 姿勢も元の高さに自動的に戻ることとなる。
こうした変化後の姿勢を事前に用意しておくことを先行動作(anticipation)という。 急斜面に対応するときは強い意志が必要であり、特に乗り込みという言葉が 使われる。 逆に斜度が緩くなるときには、何もしなければ、前のめりになり、かつ体が 雪面方向に押し付けられる。 そこで、先行動作として、後傾姿勢をとり、やや体を伸ばすような 先行動作をしておけば、変化点通過後に、自動的に元の姿勢に戻る。
湿雪のような重い雪に突入した場合は、板の進行に対して摩擦力が働く。 荷重軸は雪面垂直から若干後方に転ずる。 つまりやや後傾の先行動作が必要となる。 軽い雪から重い雪に突入したとたんに前のめりになるのは、この後傾姿勢対応が 予測できないからである。 逆に重い雪から軽い雪に出るときには、後傾姿勢をやめて、再び雪面垂直に 重心を移動しなければならない。
いずれの場合でも、斜面や雪面の変化が予測不能に起きたときには、荷重軸が 足のどのあたりにくるべきかを意識するとよい。 荷重軸が後へ逃げたと感じたら、体をすぐに前に持ってくる (実は板を後へ 移動する) ことにより、対応する。逆に荷重軸が前に移動した場合には、 つんのめり姿勢なので、多くの場合、無意識に体を立て直す。 頭で考えるよりは足裏を敏感にして、スキーの場合には拇指球荷重を、 ボードの場合には両足均等荷重を意識することである。