準備ができたところで、ターン時の力と加速度を求めてみよう。 カービングターンを考えると、回転力は板の曲線状のエッジを 雪面に食い込ませることによって得られる。 つまり、板のエッジがレールを作り、 板は自分自身の作ったレールに沿って滑るのである。 板の長手方向の移動にはほとんど雪の抵抗力が働かないから、 図4.2に示すような滑らかな曲線に沿った 質点の運動と理解できそうである。 以下の議論を簡単にするために、ロングターンとし、 人間と板は一つの質点とみなせるとしよう。
この時、人間には重力しか働かないから、人間と板が曲っていくのは、 板にかかる雪面からの向心力によると考えることができる。 まず、雪の抗力であるが、摩擦力がほとんどないので、 板の長手方向に垂直のはずである。 これを、斜面に垂直な成分と平行な成分に分けて考える。 平行な成分とは、弧にも垂直となっている。 これに合せて人間にかかる重力も、 斜面に垂直な成分と平行な成分に分けて考える。 こちらの平行成分は、弧とは無関係に、常に最大傾斜の方向を向き、
人間も板も斜面に沿って移動することから、これら力の垂直な成分の和は 0
になるはずである。
具体的には、斜面の傾斜角を
とするとき
になる。
以下、斜面に平行な力の成分だけを考慮しよう。 これらの力の和は、重心の向心力に見合う値になるはずである。 人間の重心の運動は複雑であるが、第一次近似として、 一回分のターンの範囲では、速さ一定としよう。 弧もきれいな二つの円の部分を接続したものとしよう。 すると、向心力は一定でなければならない。
実は、こうした扱いには、
人間と一緒に移動する座標系で議論する方が分かり易い。
すると円周中心方向への加速という概念は、
慣性力である遠心力に置き換えられる。
遠心力は重心に働くが、雪面に平行で、板の長軸に垂直となる。
円周に沿う速さがほぼ一定であるので大きさもほぼ一定である。
重力は円周と無関係に最大傾斜を向いているので、
雪面に平行な成分は
で一定となる。
これに、雪面からの板に垂直な力が加わるので、雪面に垂直な方向から見ると
図4.3のようになる。
これら三つの力の合力が 0 になるはずである。 しかし、板短軸方向の成分は、雪の抗力をうまく合せることで 0 にできても、重力由来の板長軸方向の成分は消し去ることができない。 これは、人間が円周に沿って下向きに加速されることを無視して 議論していることに由来する。 その加速に対応する円周に沿う上向きの慣性力を加えれば、三つの力の合力は 0 となる。
この結果、板が雪の横向きの抗力は、同図にあるように、 弧の前半で弱く、弧の後半で強くなる。 また、重力の板長軸方向の力に着目してみよう。 これは常に質点を板長軸方向に加速するように働いている。 つまり、質点は常に弧に沿ってひたすら速さを得ていくのである。
確かに、物理学によると、滑らかな曲線に沿って質点が落下していく場合には、 質点が空中を落下しようが、滑らかな面上を滑ろうが、あるいは滑らかな 曲線上を滑ろうが、その速度は下降高度差だけで計算できることになっている。
降下高度差と、そのときの速度の関係を図4.4に
示すが、高さ 10m も下ると、すでに, 14 m/s
50 km/h
という大変怖い速度になってしまう。
これは空気抵抗や雪面の僅かな摩擦を無視した計算ではあるが、それにしても、
かなりの速度となるのは、暴走した経験のある人には十分理解できるであろう。
それなのに、普通の滑走ではそれほど速度を上げずに下ってこられる。 ここで示した議論はどこかおかしい。 やはり、気がつかないところで、板と雪の間の摩擦が効いているのだろうか。 こんなことが動機となって、スキーやスノーボードの科学に首を 突っ込んだわけである。
ちょっと、ヒントを言っておくと、質点の滑走と異なり、 スキーやボードでは板と人間の重心を独立に動かせるところがポイントである。