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ジャンプ中の空中軌跡

前節の原理を定量的に検討しよう。 まず、座標軸を上向きに $ z$ 軸、進行方向前方に $ x$ 軸としよう。 あるステップで踏み切ってから、次のステップに着地するまでの、重心の 空中での軌跡は、よく知られているように放物線となる。 ステップを踏み切った直後の水平速度を $ u$、鉛直初速度を $ w_0$ (上向きを正数) としよう。以後、速度の $ (x, y, z)$ 成分を $ (u, v,
w)$ とする。 水平方向には加減速がないので、$ u_0$ とせずに、単に $ u$ とした。 すると、軌跡は次式で与えらえる。


$\displaystyle x$ $\displaystyle =$ $\displaystyle ut$ (5.1)
$\displaystyle z$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -\frac12gt^2+w_0t$ (5.2)

上向き初速度を持ったジャンプは、沈み込んだ後、立ち上がる必要があるので、 伸身ジャンプ(stretching jump)という。 実際には、まず加重を行って立ち上り、その後、ジャンプの際に抜重が 行われる。 また、下向き初速度を持ったジャンプは、屈んで重心を下げながら ジャンプするので、屈身ジャンプ(bending jump)という。 これも実際には、まず下向きの速度を殺すまで加重を行い、その後、抜重して ジャンプする。 いずれにせよ、まず加重して下向きの速度を殺す動作の後、板は雪面を離れる、 つまり荷重が消えるので、抜重という言葉を用いる。 抜重の具体的な仕方については後に述べる。

なお、進行方向の速さは結構重要な概念である。 よく競技の議論を行なうと滑走速度が重要なパラメータとなってくるが、 何を目途に議論したらよいかということになる。 もちろん、最終的にはラップタイムであるが、水平距離をタイムで割ると 進行方向の速度となる。 しかも、この値は余りガタガタとは変動しない量である。 一方、降下速度という概念と近い縦方向の速度はジャンプのたびに大きく 変動し、平均でもとらない限り、必ずしも使いやすくはない。 このため、本書では滑走速度の指標として、進行方向の速度を 利用するものとする。

図 5.3: 跳び出し方向による重心の軌跡($ L$=1m, $ H$=1m)
\begin{figure}\centering
%\setlength{\unitlength}{0.240900pt}
\ifx\plotpoint...
...ebox{\plotpoint}}
\put(689,123){\usebox{\plotpoint}}
\end{picture}
\end{figure}

もし、ステップを次々と速度を制御しながらクリアしていこうとすると、 図5.3のように、段差 $ H$ を降下したきに、 ちょうどステップ幅 $ L$ だけ、前進している必要がある。 また、そのときに、どれだけの初速度を与えると次のステップでどれだけの 速度で到達するか、つまり着地鉛直速度を計算しておくと、次の初速度との 差から必要な撃力を求めることが可能となる。 なお、この議論は、最終的には旗門通過の技術に繋がっていくものである。

ジャンプの降下に必要な時間を $ T$ としよう。 すると、上式より直ちに次の式が導かれる。


$\displaystyle L$ $\displaystyle =$ $\displaystyle uT$ (5.3)
$\displaystyle -H$ $\displaystyle =$ $\displaystyle -\frac12gT^2+w_0T$ (5.4)

まず、第一式より $ T=L/u$ が得られる。 これを第二式へ代入すると、$ u$ を与えたときに必要な鉛直初速度を 得ることができる。

$\displaystyle w_0=\frac{gL}{2u}-H\frac{u}L$ (5.5)

この式から、逆に $ w_0$ を与えたときの $ u$ を求める。

$\displaystyle u=\frac L{2H}\left(\sqrt{w_0^2+2gH}-w_0\right)$ (5.6)

図 5.4: 与えられた鉛直初速度でゴール($ L$=1m, $ H$=1m) 到達に必要な水平速度
\begin{figure}\centering
%\setlength{\unitlength}{0.240900pt}
\ifx\plotpoint...
...00,452.17)(3.000,-1.000){2}{\rule{0.723pt}{0.400pt}}
\end{picture}
\end{figure}

この結果を図5.4に示す。 $ w_0>0$ の伸身ジャンプから $ w_0<0$ の屈身 ジャンプになるにしたがって、$ u$ はどんどん速くしなければいけなくなる。 逆に言うと、遅いときには伸身ジャンプを行ない、速くなるほど、 屈身ジャンプにしていかないと、所用な点へ 落下することができなくなってくることがわかる。

また、一段を降下する時間、降下周期も $ L/u$ から直ちに求められる。

図 5.5: 降下周期の鉛直初速度依存性($ L$=1m, $ H$=1m)
\begin{figure}\centering
%\setlength{\unitlength}{0.240900pt}
\ifx\plotpoint...
...\put(160.0,331.0){\rule[-0.200pt]{1.445pt}{0.400pt}}
\end{picture}
\end{figure}

$\displaystyle T=\frac1g\left(\sqrt{w_0^2+2gH}+w_0\right)$ (5.7)

この結果を図5.5に示す。ちなみに、屈身系の場合、1m の段差を飛び降りるのに必要な時間は 0.45s、およそ 0.5s である。 平均斜度 $ 45^\circ$ の場合には、水平速度 2m/s 程度、$ 30^\circ$ の場合には、水平速度 3m/s 程度の速度が必要となる。

次に、着地鉛直速度を計算しておこう。

図 5.6: 鉛直着地速度の鉛直初速度依存性($ L$=1m, $ H$=1m)
\begin{figure}\centering
%\setlength{\unitlength}{0.240900pt}
\ifx\plotpoint...
...\put(489.0,437.0){\rule[-0.200pt]{1.445pt}{0.400pt}}
\end{picture}
\end{figure}

$\displaystyle w=-gT+w_0=-\sqrt{w_0^2+2gH}$ (5.8)

第二の等号は、$ T$$ w_0$ から求めたものを代入した結果であり、 ちゃんと $ H$ 下の $ L$ 先という目的点に着地するという条件のもとに 計算した着地鉛直速度である。 この関係を図5.6に示すが、着地鉛直速度は $ w_0$ が 0 のとき、つまり水平に跳び出す屈身系ジャンプのときに最小となることに 着目して欲しい。

下向きに跳び出す屈身ジャンプでは、着地速度は大きくなることは 明らかであろうが、上向きに跳び出す伸身ジャンプでは、跳び出し点の高さに 戻ってきたときに、すでに跳び上がりの速度を下向きに持っているため、 結果的に屈身ジャンプと同じような結果が得られる。 つまり、上向きに跳び出すことは、力学的には時間的にも余計な 作業をしているに過ぎないことが理解できよう。 もっとも伸身ジャンプは時間をかせいで、タイミングを延す効果があり、 初心者のうちには重要な技術である。

図 5.7: 一定刻みに必要な鉛直初速度 ($ L$=1m, $ u$=2m/s)
\begin{figure}\centering
%\setlength{\unitlength}{0.240900pt}
\ifx\plotpoint...
...00,243.17)(4.132,-3.000){2}{\rule{0.450pt}{0.400pt}}
\end{picture}
\end{figure}

斜度に関わらず、一定の降下周期 $ T$ でかつ一定の距離間隔 $ L$ でリズムを刻もうとすると、斜度に応じてジャンプ系を 変えていかなければならない。 この二つのパラメータを固定すると $ u$ が一定となるので、 $ w_0=gL/2u-Hu/L$ より、斜度に対する $ w_0$ の変化のようすは 図5.7のようになる。 $ H$ が小さい緩斜面では $ w_0$ が負、つまり上に立ち上がる 伸身ジャンプになるし、$ H$ が大きい急斜面では屈身ジャンプにしないと、 一定周期、一定水平距離で斜面を刻むことはできなくなる。


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Yoichi OKABE 平成19年6月30日