力積(impulse)という考え方は、撃力の場合に限らず、もっと一般的な場合にも 有効である。 力積は前にも述べたように、力の積分である。 安定に下降できるということは、一周期の力積が 0 でなければならない。 これを利用して、もう少し現実的なコブ斜面を、ある程度滑らかに 下降することを考える。
この場合、下降するときには急斜面と緩斜面を周期的に交替に下ることになる。 本節で明かになるように、直滑降で、すべての斜面が前傾していると 前方へ加速されるだけなので、緩斜面は後傾していることとしよう。 板は前傾斜面で前向きに押され、後傾斜面で後向きに押されるが、 それらの力は斜面に垂直である。
これを力積で考えよう。 前傾斜面を滑走中の力積と、後傾斜面を滑走中の力積に分けて考える。 この斜面を普通の質点のように、体を固くして落ちても、 前傾斜面では後から押され、後傾斜面では前から押されるが、 その場合には、前傾斜面で後から押される力積の方が、 後傾斜面で前から押される力積よりも優るため、結局、 どんどん前下に加速されていき速度制御ができなくなる。
ところが人間が乗って、重心の板からの位置を調整すると、 前傾斜面では余り力積が強くならないようにし、 後傾斜面では力積が強くなるようにすることも可能となる。 このような場合には、どんどん減速される。 つまり、前傾斜面では減圧気味とし、後傾斜面では加圧気味にすればよい。
このときの重心の運動を見てみよう。 実は、重心のとる軌跡は、人間の意志でかなり自由に決定できるのである。 例えば、横から見たときに、図5.13のような軌跡で 下降することを考える。 前半は板を斜面に接触するかしないぐらいぎりぎりに 足で引き上げるが、若干の接触はあるため、前向き力積はあることにする。 後半は徐々に加圧することにより力積を大きくし、 前向き速度と下降速度を抑えることにする。
この図にあるように、重力、雪の抗力が働き、 後半ではその力積は、重心を押し上げる加速と後方への加速を生み出す。 重力は一定なので、前半で受けた下向き加速と前向き加速を消し去るような 雪の抗力を発生させる必要があるが、 それには抗力の作用である足の踏み締める力を調整することで達成する。 まずは上下の移動の程度を決め、それに合うように足に力を入れる。 これにより前後の速度が調整できないときには、踏み締める位置を調整する。 踏み締める場所の中心を登り坂のキツいところに移動すれば、 前向きの速度は落ち、逆に登り坂の緩いところに移動すれば、 前向き速度は上がる。
前向き速度が上がると、前半の重心の描く軌跡は膨らみ気味となる。 こうした場合には踏み締め力を下げて、下向き速度を上げる。 そして、後半はほぼ前の位置で踏み締めできるように調整する。 こうすると全体に高速で滑降できるようになる。 上達した人間はこうしたことを無意識にやるのである。
まとめると、重心の運動には、
方向と
方向の二つの自由度がある。
人間は主として、後半の後傾斜面での踏み切りの位置と踏み切りの大きさの
二つの量を調整することにより、この二つの自由度に対する速度が、
一周期後に元の値に戻るようにしているのである。