ボールの場合は、撃力がステップごとにどんどん大きくなっていったから 暴走したのであるが、人間の場合には、ステップごとに一定の撃力を与えている 限り、平均下降速度はいずれ一定に落ち着く。 この一定速度は次のようにして求めることができる。 なお、撃力の大きさは力の大きさと加わった時間の積 (厳密には力の時間積分) で与えられることが多く、これを力積(impulse)という。
人間は撃力を調整するより、ジャンプ時の鉛直初速度を調整する方が楽である。
そこで、鉛直初速度を決めて、その際の撃力を計算してみよう。
撃力は簡単に言うと、ジャンプ直前の速度を直後の速度に
変えるものであるから、直後の速度ベクトルと直前の速度ベクトルの差となる。
しかし、水平方向には、力を与えることはできないので、両速度の水平成分は
維持される。鉛直速度の変化分の
倍がステップより上向きに与えらえる
撃力の力積となる。
つまり、ジャンプ直後の鉛直初速度
に、先程得られた着地鉛直速度
を加えて
倍したものが、力積
になる。
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(5.9) |
この式は、先に求めた降下周期
の丁度
倍となっている。
これは次のように理解することができる。
周期
の間に重心に加わる力は重力と撃力だけであるが、この間の重力の
力積は
なる力が
の時間働くので
となる。
これは下向であるが、撃力は上向きに
だけの力積をおよぼす。
力積の総合計は、運動量の増加、つまり速度の増加を促す。
安定に降下しているときには、一周期で速度が変化しないはずなので、
が成立する。
これを図5.8に示すが、撃力が小さい程、
降下周期は短かくなり、高速滑走となる。
の伸身ジャンプでは、撃力は大きくなり、低速滑走となる。
また、
の屈身ジャンプでは、撃力は小さくなり、高速滑走となる。
この境界、つまり水平に跳び出すときの撃力
となる。
上級になるほど急斜面を経験するようになるので、伸身ジャンプから
屈身ジャンプへ変えていく必要がでてくる。
しかし、緩斜面でも撃力を減らして、降下周期を減らす、あるいは
を
短くしていくと、伸身ジャンプから屈身ジャンプへ変化していく。
これは、恐怖心を持たずに屈身ジャンプを学ぶ方法のヒントとなる。
ちょうど境界となる水平ジャンプの条件
を考察してみよう。
平均斜度
バーンの場合、
10 km/h とすると、
0.41 m となる。
20 km/h とすると、
1.6 m となる。
バーンの場合、
10 km/h とすると、
0.79 m となる。
20 km/h とすると、
3.2 m となる。
バーンの場合、
10 km/h とすると、
1.1 m
となる。
20 km/h とすると、
4.4 m となる。
実際のスキーやボードでは、人間の板にかける力は、滑らかに変化させることが 多いが、スキーやスノーボードの科学、特に速度の物理を理解するには、 撃力をかけて速度制御するというモデルの方がわかりやすい。 撃力モデルというと、もっとも近い概念は、本章で述べているような ジャンプターンである。 しかし、通常の比較的滑らかなターンでも、ターンの終了時に板を踏み 締めるとか、チェックを入れるとかいった方法で、短い時間に大きな力を 入れており、その意味ではかなり撃力的な力に頼っている。 そこで、本書では、まず撃力モデルで理解し、それを後から現実的な滑らかな 力の配分を行う連続モデルに変更していくこととしよう。
では、この一瞬の撃力はどのようにして決まるのだろうか。 まず、ボールのような完全弾性体に近いものの撃力を考えよう。 ボールの替わりに、剛体の下にバネのついた系で議論をしよう。 この剛体とバネの複合体を、高いところから平面に落とすと、バネの下端が 平面に接触してから、バネは急速に縮められ、運動エネルギーはバネの エネルギーに蓄積されていく。 このエネルギーは再び解放されて、運動エネルギーに戻され、結局、剛体は 落ちてきたときと同じ大きさで逆向きの速度で跳ね返る。 この間のバネの発生する力は、図5.9のようになる。 つまり、落ちてきた剛体の運動量をちょうど反転させるだけの力を発生する。
こうしたバネによる跳ね返り現象は、ある程度の時間を使う。
この時間を
とすると、地面に到着時の降下速度を
とするときに、この時間内の鉛直速度は
で与えられる。
これを積分すると、重心の位置の変化が
となることがわかる。
また、速度を微分すると加速度が得られ、その
倍から、撃力の
時間変化が
と、得られる。
図5.9は、この式をグラフ化したものである。
撃力の最大値は約 500kgW にもなり、体重の 7倍以上にもなっている。
一般に、撃力を
としよう。
剛体が受ける下向きの力は
であるから、
が成立する。
両辺をバネが接地している時間
で積分すると、
となる。
ここで、
は衝突前後の速度の変化、
は
を
接地時間で積分したもので、力積である。
つまり、重力と力積が剛体の速度の変化を引き起こしている。
が十分短いときには、衝突の際の重力の影響
は
無視できる。
すると、
は下向きの運動量を殺していることが理解できる。
バネと同様な撃力を、人間の筋肉でも同じように発生することができる。 人間の場合にはさらに、その持続時間や最大値を、かなり自由に制御できる。 その結果、上向きに飛び上がることもできるし (伸身ジャンプ)、飛び降りる 速度を殆ど殺して、結果として水平に近く飛び出すこともできる。 さらに、人間の場合には、重心のある上体と板の間には脚があるので、飛び 出すときに脚を縮めれば、重心をやや下方に飛び出させることもできる (屈身ジャンプ)。 簡単のために、一定の大きさの撃力を発生し、その継続時間だけを変えた 三種類の場合の軌跡の変化を、図5.10に示す。
撃力の継続時間が長いと、上向きに飛び上がることになる。 具体的には、脚をいったん縮めてショックを受け止め、続いて脚を伸ばして 積極的に立ち上がるという動作により、伸身ジャンプを行なう。 継続時間が短かくなってくると、徐々に下向きに飛び降りることになる。 具体的には、吸収が終了してまだ沈んでる姿勢のとき、あるいは脚を縮めてまだ ショックを吸収しつつある過程で、さらに急速に脚を縮める屈身ジャンプを 行なうと、体は慣性で急には落ちないので、板が地面から浮くことになる。 つまり、脚を抱え込むような動作となる。 こうして主として撃力の継続時間を変えることにより、 図5.11のように軌跡を制御することができる。
もちろん、力積は力と継続時間の積であるので、強い力で短かい 時間をかけても、同じ結果が得られる。 この場合には、沈み込み量は少なくなる。 つまり、上下動の少い抜重となる。 上下動の多いことは伸身ジャンプと同義と誤解されることが多いが、単に ショックを弱める効果があり、伸身ジャンプになるか屈身ジャンプになるかは、 いつ足を地面から離すかで決定されることが理解できよう。
弾性体の場合は、反発係数 1 のときが、一番エネルギー損失が少ないが、
人間の場合は出した力の時間積分に応じて疲労するようである。
つまり、疲労は力積にほぼ比例する。
単位時間当たりの疲労は、したがって
によって
決定されるはずである。
周期
より、
なる関係が得られるが、これは
ジャンプ下降による疲労が、かかった時間にだけ比例し、その比例定数が
一定であることを示している。
つまり同じ高さを下るのならば、平均下降速度が速い方が楽であり、
平均下降速度は撃力の大きさに反比例するので、なるべく弱い撃力にする。
すると、屈身ジャンプになりやすいので、降りるピッチを短くすればよい。
この章では撃力という言葉を多用したが、撃力とは、人間が雪面に与える 荷重のことである。 雪面に立っているときにも、直滑降をしているときにも人間は板で雪面を 押していた。 しかし、その押す力は高々重力程度であった。 しかし、ジャンプで降下する場合は強い力で一瞬荷重を与える。 体を重力に対抗して支えるための荷重よりも強い荷重を与えることを、 加重(pressing)あるいは加圧 という。 このように、撃力とは短時間に加圧する荷重法と言える。