本節のスケーティングとはスキーのスケーティングである。ボードの スケーティングは、異なる原理なので、注意して欲しい。
板と雪面の間には摩擦がないと近似してきたが、僅かな摩擦は存在する。 この僅かな摩擦は主として、板が雪に少し沈み込んでいることに起因する。 新しい雪面に移動する際は、また新たな雪を押し潰す。 この押し潰すときのエネルギー消費が摩擦力という形に変換されるのである。 とはいっても、この摩擦力はターンの議論をする場合はほとんど無視してよい。 無視できないのは直下降の終端速度に達する付近と、平地の滑走ぐらいである。
平地で真っ直ぐ滑ると原理的には摩擦がないので、いつまでも 滑れそうであるが、実際には上記のような僅かな摩擦があるので、雪面の状態や 初速度にもよるが、50 cm から 3 m ぐらいで止ってしまう。 いつまでも滑り続けるためには、周期的に推進力を与えなければならない。 その技術がスケーティング(skating)と呼ばれるもので、スケートの推進と 同じように板のエッジで後方に蹴るという動作で推進力を得る。 スケーティングは多少の登り斜面でも使える有効な技術であり、 また比較的緩い斜面を下降する際に速度をつけてターンする ステップターンという技術にも繋がる重要なものである。
周期的にスケーティングを入れて平均として一定の速度で滑ることを考えよう。 スケーティングは板を交互に蹴って、重心を左右に揺らせながら行う。 したがって、重心の軌跡はジグザクになる。 ただし、各直線部分で重心の速度は雪面からの摩擦のためにどんどん 遅くなっていく。
各ジグザグのコーナーでは運動量ベクトルの方向を変えるだけではなく、 大きさも大きくしなくてはならない。 板にエッジをかけ、蹴り出すことの反作用でこの撃力を得るのであるが、 スキーは長軸方向には滑りやすく、力が出しづらいことから、板の方向はこの 撃力の方向に垂直である必要がある。 そのために必要な撃力の力積は、 図6.4に示したように求めることができる。
面白いのは、このように、重心を左右に振っているときには、 スキーを進む方向に直角に置いて真後ろから撃力を得る必要はなく、 板を斜めにして蹴ればよいというか、斜めにしなければならないことである。 このことはターンの際にも成立する重要な原理である。
毎回、キックの直前にほとんど停止に至る場合は、 キック後の速度ベクトルはスキーに直角になるから、 ジグザクの角度は毎角ごとに直角になる。 逆にキック前にかなりの速さがあり、進行方向の加速が余りいらない場合には、 左右運動の切り替えのための撃力だけが必要なので、 撃力は進行方向に直角に近くなり、スキーはそれに垂直、 つまりほぼ進行方向に向けておく必要がある。 これは第5章の最後に示したヒールキックと同様な概念になる。