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カービング回旋

カービング回旋(carving spin)とは板の側面の形状を大きな円弧にすることにより、 そちらにエッジングすると、その円弧に沿って動くことにより発生する 回旋である。 スノーボード板のサイドカットは元々回転半径が小さく、カービング回旋に 適している。 また、スキー板でも、サイドカットを大きくして、トップとテールを 幅広にしたものをカービングスキー(carving ski)と呼ぶ。 チェックの直後、重心は板の真上を越えて、谷側へ移動していくから、 板にも谷側のエッジがかかるようになる。 この結果、板の先端が徐々に谷側を向いていくようなトルクが働くことになる。 次のチェックに入るまで、板は重心の常に外側に置かれるため、この円弧形状は 継続することとなる。 カービング回旋はこうした図9.3に示すような原理による 回旋である。 ちなみに carve とは「彫り刻む」という意味であり、曲る意味の curve ではない。

図 9.3: カービング回旋
\begin{figure}\centering
fig/spin.carv-spin.eps
\end{figure}

カービング回旋は自ら彫り刻んだレールを滑るという解釈だけで、その メカニズムは十分理解できようが、力学的に関心のある方には次のように 説明する方法もある。 右エッジに載って、右ターンすることを考えよう。体は今迄の進行方向を 保とうとするから、板も、まずはその進行方向を保とうとする。 しかし、板は自ら彫り刻んだレールに沿って動くが、レールに沿った力は、 摩擦がほとんどないので発生せず、レールに対し垂直な力のみを受ける 可能性がある。 重心にかかっている重力とレールからくるレール垂直な力の合成結果が、板の 各点で、曲った板の接線方向となるためには、板前部では右向き、後部で 左向きとなる。 つまり、板を回旋させるトルクを構成する。

カービング板のサイドエッジの回転半径は 10m-20m ぐらいである。 したがって、この構造だけでは、ロングターンはできても、回転半径 数m の ショートターンはできない。 しかし、板の中央部を板下向きに押すと、板が撓み、エッジは半径 数m の 回転半径を持つようにできる。 撓みのことをベンド(bend)という。平踏みでは雪面の抵抗が大きく、 ベンドをつけることは不可能であるが、足を横方向に倒していくことで、板を 雪面垂直に近付けていき、かつ足から水平に近い方向の力をかけることで、 所望の半径を得ることになる。 板の撓み量は大したことないと考えがちであるが、板のベンドが片手の握力で 簡単に潰せることを考えれば、体からの力がかかったときの撓み量が数cm 程度になると言っても信じられよう。

従来の板であるノーマル(normal)板は、側面の形状はやや軽い 円弧状ではあるが、もっと直線的である。 しかしこうしたスキーでも、ベンドを利用してカービングターンは可能である。 その際、トップに強い圧力をかけることにより、鋤き込み回旋を誘導し、さらに 大きく撓ませることができる。 つまり、カービングに入ったら、重心を前にかけることにより、より大きく 撓ますことが可能となる。 カービングターンでも、回転弧の小さいターンが可能なのは、この 原理によっている。 また、カービングスキーでも色々な半径のターンが可能なのも、この 原理によっている。

一般に、カービングターンは、板の横ずれが少いので、同じ大きさの回転弧を 描いた場合、減速量が少いと考えられている。 しかし、減速には第5章で述べたように、重心の沈み込みの効果の 方が大きく効くので、この言い分はやや迷信的である。 むしろ、カービングターンは、回転中に板がずれないため、安定性の高いことが 特徴と言える。 例えば、突然アイスバーンに入っても、後に述べるドリフトターンだと、 明らかにドリフト方向に急に滑ってしまいバランスを 崩してしまいがちであるが、カービングターンではエッジが外れない限り、 横滑りは発生しないので、安定なターンが可能である。 いずれにせよ、ドリフトターンで回っているスキーヤーやボーダーは カービングターンを目指すべきである。

ノーマルスキーによるカービングターンの際、チェックの後、そのままエッジを 切り替えても、通常の体重による荷重しかかけられないことと、スキーの下に 雪があることにより、スキーはあまりベンドせず、大きな回転弧しか 得られない。 スキーを体の側方に持ってきてより寝かし、かつ遠心力を利用して側方から 押すことにより、大きなベンドを得ることができる。 さらに、このように置いた板には鋤き込み回旋トルクによるトップへの前圧も 働くため、スキーをさらに大きくベンドさせることができる。 この際、ある程度高速で大きな遠心力を得られるようにした方が効果的である。

トップにかかる前圧を感覚する一番簡単な方法は、 プフルークボーゲン(praw turn)である。 山側のスキーを僅かに「ハの字」に開き出し、それで軽く 制動をかけるようにする。 この際、内スキーは平踏みし、外スキーはずれが発生しないよう内 エッジをかけ、さらに荷重すると、外スキーにはベンドが発生する。 直ちに、外スキーに体重を移動し、カービングターンの体勢に入る。 このハの字に開き出した直後にトップの前圧を感じることができる。 また、スキーを横にして側圧をかけるという感覚も理解できよう。

パラレルターンでは、チェックの直後、エッジを切り替えるが、ここで 伸身抜重を行う場合には、着地の際の荷重を利用してカービングターンの体勢に 入ることができる。 エッジングは強めとし、その後エッジングが継続するように荷重をかけ 続ければよい。 チェックの際、まだ荷重が残っている沈み込んだままの状態で、重心をスキーの 板の上を越えさせて、エッジを切り替えてしまうという方法もある。 これだと、荷重が残ったままでエッジが切り替わるので、切り替わり後直ちに ベンドが発生し、カービングターンの次の弧の体勢に入れる。 重心が山側にあるときには、スキーは山側に中心を持つ円弧に沿ったカーブを 持つが、重心が真上に来ると一旦フラットになり、谷側に来ると今度は谷側に 中心を持つ円弧に沿ったカーブとなる。 この円弧からフラットへ移行し、再び円弧になる際のスキーの変形は足元で ペコンとした感覚として感じることができる。 これが感じられるようになると、カービングターンはかなり 成功しているといえよう。

ところで、板を平踏みから $ \theta$ 傾けると、回転半径はおよそ $ 1/\cos\theta$ となる。 そこで、膝をぐっと入れて、60度ぐらいまで傾けると、カービングスキーの 場合、回転半径は 5-10m ぐらいまで小さくなる。 これでも、まだ実用のショートターンの回転半径に対して十分の 値となっていない。 つまり、さらなる回旋の要因が必要である。

カービングターンでもドリフトターンでも、板に対する強い荷重は必要である。 カービングターンでは、エッジングを強くきちんとし、かつ中心あるいはやや 前方に荷重する必要がある。 一方、ドリフトターンでは、やや後方に荷重し、エッジングをやや甘くする 必要がある。

ショートターンなどでは、チェックの後に体を浮かすと板はやや浮いて ジャンプターン的になる。 したがって、スキーには体に蓄えられた捻れの反作用としての回転が 与えられている。 このため、着地の際、スキーの方向は回転弧の接線方向よりやや内側に 向くことになる。 スキーのトップから着地すると、トップには完全に着地するまでの間、回旋を 助長するような力が働き、一方体重はスキーの中心部にかかるから、大きな 回旋トルクが働く。 一種の鋤き込み回旋であるが、トップそのものに働くトルクによる回旋である。


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Yoichi OKABE 平成19年6月30日